笠松生え抜きの2歳馬が名古屋・ゴールドウィング賞を制覇。1着でゴールするドミニクと向山牧騎手(名古屋競馬提供)

 「牧さん、来たー!」。11月30日、名古屋競馬場で行われた2歳重賞「第60回ゴールドウィング賞」(SPⅠ、1600メートル)は、向山牧騎手騎乗の笠松生え抜き馬・ドミニク(牝2歳、後藤正義厩舎)が豪快な差し切りを決め、重賞初Vを飾った。

 同じ厩舎の快速馬シルバ(牝2歳)は、笠松でジュニアクラウン(準重賞)など3連勝。スターホース候補に指名させてもらった。一方のドミニクは、秋風ジュニアでシルバに敗れたが、お先に重賞Vをゲット。再開後の笠松競馬待望のスターホースに躍り出た。

 1月以来、「冬眠状態」が長かった笠松競馬だったが、若駒たちの「新鮮力」で反撃の兆し。ドミニクとシルバ、調教ではいつも併せ馬で刺激を受け合う良きライバル。新生・笠松をアピールする「看板娘」へと成長が楽しみな2頭である。

 9月のレース再開時には「名馬、名手の里に恥じないよう、馬づくりに励みたい」と力強く「笠松・再生」を誓っていた後藤正義調教師(県調騎会長)が送り込んだ2頭。まだまだ成長途上だが、未知の魅力にあふれ、半年後の東海ダービー挑戦も視野に入ってきた。

 ■5番手から突き抜けた、ドミニク豪脚発揮

 ゴールドウィング賞は、NARの未来優駿2021「2歳チャンピオンシリーズ」として実施。笠松勢の優勝は2003年のグリーンハーパー(柳江仁厩舎)以来で18年ぶり。かつてはオグリローマンやライデンリーダーも勝ったレース。
 
 ドミニクは笠松競馬再開3日目、今年最初の2歳新馬戦を勝った期待馬。父トーセンブライト、母ロッソトウショウという血統。笠松生え抜き馬の名古屋重賞Vは、2019年元日の湾岸ニュースターカップを制したブライアンビクター(大橋敬永厩舎)以来で約3年ぶりとなった。

名古屋重賞・ゴールドウィング賞Vの歓喜に浸る向山騎手(名古屋競馬提供)

 レースは混戦ムードで、3番人気・ドミニクは中団5番手から追走。3~4コーナーで置かれ気味になったが、4コーナー外を回ると、最後の直線では鋭い切れ味を発揮。逃げたミトノオオイをかわし、大外を伸びてきた10番人気・シノジマニヨラサイ(2着)と併せ馬のような展開になり、「並ばれても抜かせない」闘志に点火。追い比べを制して半馬身先着。「向山牧、ゴールイン」の実況が響き渡った。
 
 笠松勢のもう1頭、イイネイイネイイネ(牡2歳、田口輝彦厩舎)は9番人気で6着。名古屋勢は例年のような抜けた存在が見当たらず、1番人気のエムエスムーンは7着に終わった。

 ■ドミニクとシルバの笠松2強、東海ダービーに照準へ

 表彰式(重賞)への優勝ジョッキー参加は、コロナ禍で見合わせていたが、ゴールドウィング賞から再開された。ドミニクが名古屋2歳チャンピオンの座を奪い、向山騎手は「うれしいです。調教が良かったし、初馬場と輸送もうまくいった」と笑顔。レース展開では「いい位置でしたが、勝負どころで手応えが良くなかった。それでも最後の直線になって伸びてくれた。調教でもそうですが、接戦では負けなくて、勝負根性がある馬」と愛馬をたたえ、底力を引き出したベテランの牧さん。笠松移籍後は重賞7勝目となった。

 ウイナーズサークルでは、早くも東海ダービーに向けた有力馬として注目され、向山騎手は「まだ輸送など課題ですが、頑張りたいです」と意欲を示した。
 
 力強い差し脚が大きな武器のドミニク。2走目・秋風ジュニアでも追い上げたが、シルバには1馬身半及ばず2着。金沢のエムティアンジェが勝った前走・ラブミーチャン記念は3着だった。

 後藤正義調教師は「前走はテンションが高かったが、今回は輸送があったのに、逆におとなしかったです。それがどっちに出るかでしたが、直線を向いたら、よく伸びてくれた。調教でいつもシルバと併せ馬をして鍛えられたのでは」と、予想以上の走りに手応え十分。距離が延びて力を発揮するタイプで、マイル戦への距離適性は証明された。今後は名古屋・新春ペガサスカップ(1月18日)を目指すことになる。大目標となる東海ダービーは1900メートルで争われる。

笠松・秋風ジュニアではシルバが1着で、ドミニクは2着。ともに新生・笠松のスターホースとして成長が期待されている

 再開後の笠松競馬の2歳勢。不祥事の影響で、例年よりもデビューは3カ月ほど遅れたが、後藤正義厩舎の牝馬2頭は強力でハイレベル。差し脚鋭いドミニクと、フットワークに優れた快速シルバ。ともに将来性豊かで、笠松生え抜きのスターホースとして、今後どんな成長ぶりを見せてくれるのか。2頭はデビューした日も同じで、新馬戦勝ち。馬主はともに「トーセン」の冠名で知られる島川隆哉さん。11月17日の大井・ハイセイコー記念では、ノブレスノアなど所有する2歳馬3頭が1~3着を独占する快挙となった。

 ■オグリキャップと宿敵マーチトウショウのような熱いドラマを

 重賞Vがまだないシルバだが、新馬戦(800メートル)を47秒4でレコード駆けした逸材。主戦の藤原幹生騎手は「バネがいい馬。南関東に持っていくかなあと思ってたら、笠松に置いてもらえることに。距離が持てば、スピードはあるんで楽しみです」と期待。南関東では同じ島川オーナーの所有馬の活躍が目立っており、シルバとドミニクはこのままずっと笠松所属でお願いしたい。

 脚質などタイプは違うが、1戦ごとに落ち着いた走りで、成長を感じさせる内容。同じ厩舎でもあり、ゆったりとしたローテーション。オーナーの意向もあって、距離適性・輸送などを考慮して2頭を使い分け。シルバの次走は、12月30日のライデンリーダー記念(SPⅠ、1400メートル)を予定。ドミニクとの直接対決は当分なさそうだが、順調なら、ともに駿蹄賞から東海ダービーに照準を定めることになるだろう。

 来年4月からは弥富に移転する名古屋競馬場。ドミニクとシルバ、新たな馬場で東海地区クラシックロードで夢の頂上決戦へ。今後は一冬越えての成長力が鍵になりそうだが、どん底を味わった笠松競馬の復活をアピールするためにも、スターホース街道を駆け抜けていってほしい。ウマ娘漫画「シンデレラグレイ」でも描かれた、かつてのオグリキャップと宿敵マーチトウショウのような、笠松勢2頭の熱いドラマを期待したいところだ。

ゴールドウィング賞を制したドミニクと向山騎手ら喜びの関係者(NAR提供)

 ■向山騎手「65歳まで乗って4000勝できれば」

 ドミニクの主戦・向山騎手は56歳。多くの騎手たちの引退もあって、笠松最年長ジョッキーになった。円熟味を増した騎乗で、得意とする中団からの差し切り勝ちはいつも豪快だ。騎手を長く続けるには「けがをしないことが第一」と語り、丈夫で長持ち。地方通算3617勝、中央でも11勝。アンカツさん超えの笠松最多勝利ジョッキーの座は、この先も揺るがない。
 
 一昨年11月の3500勝達成セレモニーでは「年金ジョッキーと呼ばれたいので65歳まで頑張ります」と健在ぶりをアピール。今年10月の3600勝のセレモニーでは「(レース自粛中も)仕事は朝から一生懸命乗っていました。目標はやっぱり65歳まで騎乗して、4000勝できればいいかなあ」と頼もしい言葉。笠松の若手・中堅たちも見習って、けがなどなく、フェアプレーで長いジョッキーライフを楽しんでいきたい。

 ■JRAとの人馬交流、15日の冬萌特別から順次再開

 笠松競馬の不祥事やコロナ禍で中断されていたJRAとの人馬交流競走は、12月15日の冬萌特別(笠松A3組、JRA1勝クラス)から順次再開される。また、笠松3歳馬とJRA未勝利馬との交流戦も年明けから復活する見通し。笠松再開後、公正競馬が確保されたことから関係改善が進み、ようやく本来の笠松競馬場の姿に戻りつつある。

 それでも「秋風」「クラウン」から「キング」(12月16日)へと続く2歳戦のジュニア3競走(準重賞)は本年度、「JRA認定競走」の指定をもらえなかった。1着賞金250万円は、JRA側からの補助はなく、競馬組合の持ち出しという形になった。ドミニク、シルバにとっては、中央のレースに参戦することは厳しい現状だが、全国の重賞戦線でも勝利を狙えるトップホース目指して競い合っていきたい。

新春ファミリーマラソン大会で、「やや重」となった笠松競馬場のダートコースを、悪戦苦闘しながら走る参加者(2014年)

 ■笠松コースを走ろう! オグリキャップ気分で「真冬の大冒険」

 年末の笠松競馬は、30日のライデンリーダー記念、大みそかの東海ゴールドカップと重賞が続く。ファンの来場は1年で最も多く、熱いレースで盛り上がる。

 新年には「笠松競馬場のダートコースを走ってみませんか」と、「ウマ娘」ファンらも競走馬気分を楽しめるイベントが開かれる。笠松町スポーツ協会主催の「新春ファミリーマラソン大会」=1月30日(日)=で、参加者を募集中(笠松町HP参照)。健康マラソンの部・一般男女はコースを2周(2200メートル)、体験ジョギングの部はコースを1周(1100メートル)。空き時間にレクリエーションも楽しめる。町民のほか、全国の愛好者も参加できる(参加料100円)。

 普段は立ち入りが禁止されている競馬場の走路を使用し、例年600~700人が参加する人気イベント。これまで、特別レース「ありゃま記念」として、親子おんぶ競走や4人一組での騎馬レースも行われてきたが、本年度はコロナ禍もあって自粛したもよう。

 小雨・雪決行。かつては「やや重」のコンディションの年もあり、参加者は「砂が重くて足が埋もれた。ラストがとてもしんどかった」と悪戦苦闘しながら、競走馬並みに熱い走りを楽しんだ。

 「競馬場のコースを走ってみたかった」というファンには絶好の機会で「リアル・ウマ娘」の参加も大歓迎。オグリキャップも走った笠松コースで、深い砂と格闘する「真冬の大冒険」にチャレンジしてみてはどうか。