助産師の両手に包まれた胎児の人形。児童たちが妊娠や出産といった誕生の過程を学ぶことで、生命の尊厳に理解を深めた=3月、岐阜市柳津町丸野、柳津小学校

 助産師の両手に包まれた実物大の胎児の人形に、子どもたちの視線が注がれていた。3月に岐阜市柳津町の柳津小学校で4年生を対象に開かれた、命の重みを学ぶ「生の授業」。誕生の過程を学び、生命の尊厳への理解を深める。助産師は「あなたの命は奇跡の結晶なんだよ」と語り掛けた。

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 昨年12月、市は教育施策の方向性を示す「教育大綱」を改定した。基本方針は「学校・家庭・地域の誰もが生命の尊厳を理解し、互いに心を開く対話を重ね、一人ひとりが価値ある大切な存在として互いに認め合う教育を推進する」。それを具体化したのが、本年度から取り組む「生き方の探究学習」だ。各小中学校が教育大綱に基づく独自のカリキュラムを学年ごとにつくり、総合的な学習の時間などで命の大切さを伝えるための実践を重ねる。

 柳津小では「生の授業」を探究学習の一つに位置付けたほか、いじめを苦にした自殺で息子を亡くした大河内祥晴さん(74)=愛知県=の講話などを課程に組み込んだ。児童文学「ごんぎつね」や詩「生きる」といった生命をテーマにした題材を扱う国語、動物の体の仕組みを教わる理科など各教科での学びも含めて、児童に命の重みを主体的に感じ取ってもらう。河村正志校長は「散発的な授業に終わらせないよう、教師の力量が試される時」と語る。

 生命の尊厳を学ぶ取り組みは、県内に先例がある。中津川市が2007年から実践する「命の教育」だ。同市の中学校で06年に起きた、2年生の女子生徒=当時(13)=が高校生の少年に殺害された事件が契機だった。命の誕生や死生観、ジェンダーや自分らしさといったさまざまなテーマの授業を通じ、子どもの自己肯定感の低さや不登校児の増加といった課題に相対した。取り組みは小中学校だけでなく、市内の幼稚園や保育園にも広がっている。

 「子どもたちの5年先、10年先のために、面倒見良く、身に付くまで教えていくことが大切」。教育大綱策定に向けた昨年11月の岐阜市総合教育会議に招かれた、中津川市教育委員会学校教育課の田口大介指導主事=当時=は「命に関する意識が格段に上がった」と効果を強調した。教員はアンケートを通じて児童生徒らの心と向き合い、保護者や地域を巻き込みながら、独自の指導計画を築いてきた。

 事件から15年がたった。命の教育が学校現場に根付いた一方、そのきっかけになった事件自体は風化が進む。効果や評価が数値化しにくいという課題もあり、継続には困難が伴う。同課の吉村彰夫主任指導主事は「事件を二度と起こさないためにする取り組みだ、と理解してもらうことがスタートになる。教員の世代交代が進んでも、教訓を伝え続ける」と力を込める。