新規術式導入に潜むジェンダーバイアス ―Surgeryに発表―
2026年8月6日
大阪医科薬科大学
東京大学
星薬科大学
日本消化器外科学会
研究のポイント
◆ 日本消化器外科学会 による National Clinical Database を用いた全国規模研究において、ロボット支援手術導入初期における男女外科医の執刀数の差を調査しました。対象は幽門側胃切除術および低位前方切除術で、術式別・経験年数別に外科医1人あたりの執刀数を比較しました。
◆ 男性外科医では経験年数の増加とともにロボット支援手術の執刀数が増加した一方、女性外科医では同様の増加傾向は認められませんでした。男女差は医師免許取得後約10年前後から拡大し、新規術式導入期において女性外科医への執刀機会配分が十分ではない可能性が示されました。
◆ ロボット支援手術は今後の消化器外科診療における中心的技術の一つであり、導入初期における教育・執刀機会の偏在は、将来的なキャリア形成や指導的立場への到達にも影響を及ぼす可能性があります。持続可能な外科医療体制の構築に向け、公平な修練機会確保の重要性が示唆されました。
概 要
外科医がどの手術を執刀するかは、各施設の診療科トップや指導医によって決定されることが多く、手術経験は外科医のキャリア形成に大きな影響を与えます。これまでの研究により、女性外科医は男性外科医と比較して執刀機会が少ないことが報告されていました。しかし、新しい手術技術が導入される初期段階において、その経験機会に男女差が存在するかという点については十分に検討されていませんでした。
大阪医科薬科大学の河野恵美子助教および東京大学の野村幸世教授らの研究グループは、日本の外科手術の95%以上が登録されているNational Clinical Database(NCD)のデータを用いて、幽門側胃切除術および低位前方切除術を対象に、ロボット支援手術,腹腔鏡手術,開腹手術それぞれにおける外科医1人あたりの執刀数を、経験年数別・男女別に解析しました。
その結果、開腹手術や腹腔鏡手術では執刀機会の男女格差は改善傾向がみられた一方、ロボット支援手術では男性外科医で執刀数が増加するのに対し、女性外科医では同様の増加傾向は認められませんでした。特に経験年数の増加とともに男女差が拡大する傾向がみられ、新規術式導入時における修練機会の偏在が示唆されました。
この研究成果は2026年8月4日に米国の学術誌「Surgery」にオンライン掲載されました。
発表者
河野 恵美子:大阪医科薬科大学 医学部 一般・消化器外科学教室 助教
野村 幸世:東京大学アイソトープ総合センター 特任教授
(兼 星薬科大学 薬学部 医療薬学研究室 教授)
田中 千恵:名古屋大学院医学系研究科消化器外科学 准教授
上野 秀樹:防衛医科大学校外科学講座 教授
掛地 吉弘:神戸大学大学院医学研究科外科学講座食道胃腸外科学分野 教授
調 憲:群馬大学大学院医学系研究科総合外科学講座肝胆膵外科学分野 教授
研究の背景
近年、外科領域では女性医師の割合が増加しています。しかし、外科教授や診療科トップなど指導的立場に占める女性の割合は依然として極めて低く、日本消化器外科学会認定施設の代表者に占める女性は約1%にとどまっています。その背景には、長時間労働や固定的な性別役割意識、ロールモデル不足など様々な要因が指摘されていますが、外科医として成長する上で重要な「どの医師に手術経験の機会が与えられるのか」という点については、これまで十分に検討されてきませんでした。
我々は2022年、日本の外科手術の95%以上が登録されている大規模データベース「National Clinical Database(NCD)」を用いた研究により、女性外科医は男性外科医と比較して執刀機会が少なく、特に難しい手術でその差が大きいことを報告しました。その後、日本消化器外科学会では「函館宣言」などを通じて男女格差是正に取り組み、改善傾向もみられています。
一方、近年は腹腔鏡手術やロボット支援手術など、新しい術式が急速に普及しています。特にロボット支援手術は2018年以降、全国で急速に導入が進んでいます。しかし、新しい術式の導入初期において、その経験機会に男女差が存在するかについては明らかではありませんでした。そこで本研究では、急速に普及するロボット支援手術に着目し,導入初期における執刀機会の男女差について,全国規模データベースを用いて検討しました。
本研究が社会に与える意義(社会的意義)
今回の研究により、ロボット支援手術導入初期において、女性外科医の執刀機会が男性外科医より少ないことが明らかとなりました。ロボット支援手術は今後の消化器外科診療における重要な術式であり、導入初期の経験機会の差は、将来的な技術習得やキャリア形成にも影響を及ぼす可能性があります。本研究成果は、外科領域におけるジェンダー平等の推進と、持続可能な外科医療体制の構築につながることが期待されます。
研究者のコメント
日本消化器外科学会は、「函館宣言」などを通じて執刀機会の男女格差是正に取り組んできました。その結果、執刀機会の男女格差は改善傾向がみられています。一方、手術アプローチ別に検討すると、開腹手術や腹腔鏡手術に比べて、ロボット支援手術で男女差がより顕著である可能性が示されました。今後、新しい術式においても、女性外科医が公平に修練機会を得られる環境整備が進み、外科領域におけるジェンダー平等や女性のエンパワーメントの実現につながることを期待しています。
論文情報
<タイトル>
Sex Differences in Operative Opportunities with Early Adoption of Robot-assisted Surgery
<著者名>
Emiko Kono, Hiroyuki Yamamoto, Sachiyo Nomura, Chie Tanaka, Hideki Ueno, Yoshihiro Kakeji, Ken Shirabe
<雑誌>
Surgery
<DOI>
https://doi.org/10.1016/j.surg.2026.110441










