2026年8月21日
筑波大学
京都大学
岐阜大学

植物が開花時期を決める「季節メーター」の仕組みを解明

 

 

 植物には「季節メーター」と呼ばれる内部的な仕組みがあり、過去数週間から数ヶ月間の気温データから開花時期を決定しています。2種の多年生野生植物を2年間にわたり調査・比較したところ、3つの遺伝子が、それぞれ異なる期間の温度を記憶し、季節の変化を確実に予測していることが分かりました。

 

 植物は、環境の周期的な変化に備えるため、過去数週間から数ヶ月間の気温などの環境シグナルをもとに、季節を予測し、成長・開花・休眠などのタイミングを決定する「季節メーター (Season-Meter) 」と呼ばれる仕組みを備えています。しかし、この季節メーターがどれくらい過去までさかのぼって環境変動を記憶しているのか、また、異なる植物や遺伝子の間で同じように働いているのかは、これまで分かっていませんでした。

 本研究では、日本に自生する2種の野生の多年生アブラナ科植物であるワサビ(Eutrema japonicum)とハクサンハタザオ(Arabidopsis halleri)を対象に、両種で保存される花成制御に関わる遺伝子の挙動と気候データの関係を2年間にわたって追跡し、これらの遺伝子を制御する季節メーターが過去の気温履歴をどれくらいさかのぼって記憶しているかを算出する手法を確立しました。これにより、同じ制御系にある3つの遺伝子が、それぞれ異なる温度記憶期間(数日間、数週間、約5カ月)に基づいて制御されることを明らかにしました。さらに、この手法を用いて、モデル学習には使用していない別の年の気温データから予測した3遺伝子の挙動は、実際に観測された遺伝子の挙動と一致することを確認しました。

 本研究結果は、気温データのみから遺伝子の挙動、さらにはそれに引き続く生理現象の予測が可能であることを示唆しています。今後、地球温暖化等により気候変動が進行する中、未知の気候パターンに対する野生植物や農作物の反応を予測・評価する上で大きく貢献すると期待されます。

 

 

研究代表者 

筑波大学生命環境系 Diana Mihaela Buzas 准教授

京都大学生態学研究センター 工藤 洋 教授

岐阜大学応用生物科学部 山根 京子 准教授

 

 

研究の背景 

 植物は、春の前の厳しい冬の寒さや、夏から秋への日照時間の減少など、毎年およそ決まったリズムで繰り返される環境の変化に直面します。このように周期的な変化への対応戦略は、単にそれが起きた時に反応を開始するよりも、変化の到来を予測して事前に備えておく方が有利です。そのため、植物は「季節メーター (Season-Meter) 」と呼ばれる仕組みを備えています。これは過去数週間から数ヶ月間の気温の推移を集計するもので、これによって季節の変化を予測し、成長・開花・休眠などのタイミングを決定しています。この仕組みにより、真冬に一日だけ暖かい日があっても、早く開花することはありませんし、春に一時的な寒波が来ても、予定通りに進んでいる開花が止まることもありません。しかし、この季節メーターが、どれくらい過去までさかのぼって環境変動を記憶しているのか、あるいは異なる植物や遺伝子の間で同じように働いているのかを評価する標準的な方法は、これまでありませんでした。

 

 

研究内容と成果 

 本研究では、日本に自生する2種の野生のアブラナ科多年生植物注1)であるワサビ(Eutrema japonicum、図1)とハクサンハタザオ(Arabidopsis halleri)を対象に、両種で保存されている花成制御に関わる3つの遺伝子(花成制御遺伝子注2))の挙動を丸2年間にわたって追跡しました。

 また、遺伝子活性と測定前の過去の気温記録とを比較し、それぞれの遺伝子の季節メーターがどれくらいの過去までさかのぼっているか、すなわち、その遺伝子の挙動を最もよく説明できる気温履歴の期間(温度記憶期間注3))を算出する手法を開発しました。これにより、同じ制御系にある3つの花成制御遺伝子が、それぞれ非常に異なる記憶期間(数日間、数週間、約5カ月間)に基づいて働いていることが判明しました(図2)。このパターンは、本研究に用いた、生活サイクルが大きく異なる2つの植物種の両方で共通して見られたことから、特定の種の特異的な現象ではなく、植物の一般的な戦略を反映していると考えられます。

 さらに、この季節メーターモデルを用いて、モデル学習には使用していない別の年の気温データから3遺伝子の挙動を予測したところ、正確に観測値と一致することを確認しました。このことは、本モデルが植物の気候への反応を予測に利用できることを示します。

 

 

今後の展開

 今回の研究手法は、複雑な生物学的メカニズムの詳細を予め解明しておく必要がなく、遺伝子活性と気温の測定のみに依存しているため、他の遺伝子や、降水量・日長といった他の環境シグナル、さらには他の生物種にも適用可能です。地球温暖化等により気候変動が進行する中、このようなツールは、野生植物や農作物が未知の気候パターンにどのように反応するかを予測・評価する上で大きく貢献することが期待されます。

 

 

参考図 

 

 

 

図1 本研究で対象としたワサビ(Eutrema japonicum、上)とハクサンハタザオ(Arabidopsis halleri、下)

 

 

図2 植物の遺伝子が持つ季節メーター

3つの遺伝子が、それぞれ異なる時間スケールで過去の気温を記憶している。これらの記憶により、季節の推移を示す情報が絶えず更新され、植物の年間を通じたライフサイクルを制御する。

 

 

用語解説 

注1)多年生植物

1年で一生を終えて枯れてしまう一年生植物とは異なり、枯れずに何年も生存し、毎年繰り返し花を咲かせる植物。

 

注2)花成制御遺伝子

植物が花を咲かせるタイミングをコントロールするために、リレーのように働く遺伝子群。

 

注3)温度記憶期間(TMI:Thermal Memory Interval)

植物が現在の遺伝子の働き(発現量)を決める際に、過去どれくらいの期間の気温履歴をさかのぼって集計(記憶)しているかを示す定量的な指標のこと。

 

 

研究資金 

 本研究は、科研費による研究プロジェクト(15K07289、16H01459、20K0669、21H04977、21H05659)、科学技術振興機構(JST)CREST(JPMJCR15O1)、京都大学生態学研究センターの共同利用プログラムの一環として実施されました。また、本研究は、筑波大学つくば植物イノベーション研究センター(T-PIRC)および筑波大学オープンファリリティ推進機構の施設・設備を利用して実施されました。

 

 

掲載論文

【題 名】 Conserved gene- and network-level thermal memory intervals in two divergent perennial crucifers in nature

(自然環境における、系統的に大きく異なる2種の多年生アブラナ科植物に保存された、遺伝子およびネットワークレベルの気温記憶期間)

【著者名】 Yoshikazu Endo, Haruki Nishio, Oguchi Taichi, Kyoko Yamane, Victoria Faith Eseese, Clarissa Frances Frederica, Hiroshi Kudoh and Diana Mihaela Buzas

【掲載誌】 PLOS ONE

【掲載日】 2026年8月19日

【DOI】 10.1371/journal.pone.0336733