何百年も前から脈々と受け継がれてきた自然や伝統、文化、匠の技といった他にはない宝がいたるところで輝きを放つ岐阜県。2030年までの達成に向け、さまざまな取り組みがされている持続可能な開発目標(SDGs)では、これまで、そしてこれからも続いていくであろうこれらの宝の数々を改めて認識し、守り、その価値をさらに高めていくことが求められています。

 新型コロナウイルスの影響で海外や国内の人気スポットへ旅行に行くことが難しくなってしまった今年のゴールデンウイークは、まさに古里を見つめ直す貴重な機会。県内の宝の数々を題材に、持続可能な観光(サステイナブル・ツーリズム)の大切さについて思いを巡らせてみましょう。

持続可能な観光とは

 国連世界観光機関(UNWTO)は、持続可能な観光について「訪問客、産業、環境、受け入れ地域の需要に適合しつつ、現在と未来の環境、社会文化、経済への影響に十分配慮した観光」と定義しています。

観光は、自然環境や伝統文化を保護しながら、地域経済を発展させることで、地域住民にも恩恵を与える可能性を秘めています。県内には、先人たちが守ってきた伝統文化や産業があり、それらを現代に伝えるため商品開発や体験ツアーを提供している人たちもいます。

 観光庁が定める「住んでよし、訪れてよし」の観光地域づくりは、住民である私たちが視点を変えて地域を見つめ直すことから始まるのかもしれません。

持続可能な開発目標(SDGs)とは...2015年9月の国連サミットで採択された「持続可能な開発のための2030アジェンダ」に記載された2030年までの達成を目指す国際目標です。

17のゴール・169のターゲットから構成され、地球上の「誰一人取り残さない」ことを誓っています。

岐阜/長良川流域エリア

鵜飼

長良川鵜飼

 開幕まであとわずかと迫った清流長良川を舞台に繰り広げられる岐阜市の長良川鵜飼と関市の小瀬鵜飼。幻想的なかがり火の下、鵜が魚を丸のみする習性を生かし、鵜匠が鮎を捕る伝統漁で、1300年以上の歴史を誇ります。この「長良川の鵜飼漁の技術」は、国の重要無形民俗文化財に指定されています。

小瀬鵜飼

 鵜飼の様子は、岸からでも見ることができますが、観覧船に乗って見るのがおすすめ。目の前で繰り広げられる光景は幻想的で臨場感たっぷりです。織田信長や世界の喜劇王チャールズ・チャップリンも魅了されたと言われています。

美濃和紙

 楮、三椏、雁皮などの木と、根を砕くと粘性液がとれるトロロアオイなどの植物を原料に作られる和紙。和紙を作るには豊富な水も必要で、清流長良川が流れる美濃地方は1300年以上も前から和紙づくりが行われているとされています。

 古くからの産地である美濃市蕨生地区周辺は、工房や楮畑、和紙の原料に付いたちりや傷を手作業で取り除くための共同作業所「川屋」などがあり、伝統の技を今に伝えています。紙すき体験ができる施設もあります。

関の刃物

 鎌倉末期から南北朝時代にかけて、刀匠が良質な焼刃土と水、炭を求めて移り住んだことを契機に始まったとされる関の刃物づくり。現在でも関連企業が集まっており、ドイツのゾーリンゲンやイギリスのシェフィールドと並ぶ世界三大刃物産地に数えられています。

 今年3月には、観光案内所や貸し工房を備えた地域交流施設と刃物直売所の刃物会館が入る複合施設「せきてらす」が関市平和通にオープン。刃物を活用したイベント等も行い、地場産業の魅力を広く伝える役割が期待されています。

西濃エリア

天空の茶畑

 古くから茶の生産が盛んな旧春日村(揖斐郡揖斐川町)の上ケ流地区。700年を超える茶栽培の歴史があり、在来種も多く、江戸時代からの茶樹もあるといわれています。標高300~380㍍に位置し、美しい景観が広がっていることから、いつしか「天空の茶畑」と呼ばれるようになりました。

 そして地元住民有志は2015年から1年かけて約1.2㌔の「天空の遊歩道」を整備。茶畑を見下ろせる眺望ポイントから見られる絶景はペルーの世界遺産に例えられ、「岐阜のマチュピチュ」とも呼ばれます。

伊吹山の薬草

 岐阜と滋賀の県境にそびえ立つ伊吹山は、古くから「薬草の宝庫」として有名です。織田信長が山麓に薬草園を開拓した地とも言われ、今でも数多くの品種が生い茂っています。

 薬草を観光や町おこしのツールとして活用する動きは以前から活発で、ふもとの揖斐郡揖斐川町春日には薬草を使った料理を提供する飲食店や薬草風呂が楽しめる入浴施設などがあります。老舗和洋菓子店「みわ屋」(同町三輪)では、揖斐高校の生徒たちが同店などと共同開発した薬草クッキーや、春日地区の薬草を使った草餅を販売したり、養老郡養老町の老舗料理旅館「千歳楼」では、江戸時代に同旅館で行われていた伊吹山の麓で採れた薬草などを使った「薬湯風呂」を今年4月に再び始めたりと、新しい動きもあります。

中濃エリア

郡上本染

 郡上本染の藍染は、天然の藍を主原料とした「正藍染」。特長的な深い藍色は、繰り返し丁寧に染めることによって生まれます。染め液の入ったかめは温度変化の少ない地中に埋められており、状態を見ながら毎日かき混ぜられています。現在、郡上本染の技術を受け継ぐのは渡辺染物店のみで、400年以上続く伝統を守っています。

 布についた糊を川の水で落とす「鯉のぼりの寒ざらし」は、毎年大寒の日に行われます。真冬の冷たい清流の中で色鮮やかな鯉のぼりがたゆたう光景は、郡上八幡の冬の風物詩になっています。

東濃エリア

美濃焼

 1300年以上の歴史があり、国内産陶磁器の市場において全国一のシェアを誇る美濃焼。産地である多治見市、土岐市、瑞浪市では、普段使いにぴったりの物から、芸術性の高い物まで、多種多様な陶磁器が製造されています。

 焼き物の産地は、レンガ造りの煙突が残る街並みや窯跡、ギャラリーを巡ったり、作陶体験をしたりと楽しみ方はさまざま。中には一般公開している窯元もあり、タイミングが合えば、陶芸家が真剣なまなざしでろくろを回す姿を見学できたり、作品にかける熱い思いを直接聞いたりすることもできます。

中山道

 江戸幕府によって整備された東京―京都間約532㌔を結ぶ中山道には、全部で69の宿場があります。そのうち17の宿場は岐阜県内に位置し、地域住民の尽力により当時の面影を残しているところもあります。

 中山道は東海道と比較すると峠道が多く、木々や渓谷などの自然の美しさを感じられる区間が多いのが特徴です。文豪島崎藤村の生誕地として知られ、石畳の街並みが残されている中津川市の馬籠宿から妻籠宿(長野県)までをつなぐ全長約9kmの区間には馬籠峠があり、自然を存分に楽しめるハイキングコースとして人気があります。

飛騨エリア

白川郷

 江戸時代から昭和初期にかけて建てられた合掌建物の多くは戦後、ダム建設による集落の水没や小集落の集団離村などによって多くが失われてしまいました。このことに危機感を感じた住民らは、1971年に地域内の資源を「売らない」「貸さない」「壊さない」の3原則を掲げ、「白川郷荻町集落の自然環境を守る会」を立ち上げ、保存活動を始めました。

 1995年には富山県の五箇山と共に白川郷・五箇山の合掌造り集落として、ユネスコの世界遺産に登録されました。人気観光地となった現在においては、世界遺産地区内への車両進入の制限を行うなどし、観光と暮らし、街並みの保全の両立に取り組んでいます。

五色ヶ原の

 高山市乗鞍山麓に広がる五色ヶ原の森は、美しい自然を守るため、入山時の有料ガイドの同伴義務化やコースのツアー化、一日の利用者数制限などを行うことで、環境保全と観光の両立を図っています。この取り組みは高く評価され、五色ヶ原の森と指定管理者の「五色ヶ原の森案内人の会」は、今年のエコツーリズム大賞(環境省と日本エコツーリズム協会主催)において大賞に輝きました。ガイドツアーの期間は例年5月20日から10月31日までです。

飛騨の

 山々に囲まれた高山市や飛騨市は、質の高い木材が豊富にあることから、古くから木工業が盛んです。奈良時代、政府は飛騨国に対してのみ、米や織物等を納める代わりに木工職人の派遣を義務付ける飛騨工制度を設けました。都で神社仏閣の建設に当たった職人たちの高度な技は賞賛され、いつしか「飛騨の匠」と呼ばれるまでになりました。

 この匠の技は現在も受け継がれており、高山の古い町並みなどで、一位一刀彫や飛騨春慶などの伝統工芸品を買い求めることができます。

下呂温泉

 日本三名泉の一つに数えられている下呂温泉。多い年には年間110万人以上が宿泊する、言わずと知れた一大観光スポットです。

日本の宝ともいえるこの優れた温泉を後世に残そうと、1974年には全国に先駆けて温泉の集中管理システムを導入するなど、長年にわたってさまざまな取り組みを行っています。

 下呂温泉観光協会は、飛騨川の清掃活動や花木の植栽、ガイド養成や出前学習、エコツアープログラムの開発などに力を入れており、この取り組みは観光協会としては全国で初めて、一般社団法人日本SDGs協会によるSDGs事業認定を受けています。

企画・制作/岐阜新聞社営業局

岐阜新聞は今年で創刊140年を迎えます。未来に向けて、持続可能な地域をつくるために県内企業・団体の皆様と一緒に自然保護と地域経済の発展の両輪で考えるSDGsプロジェクトを始めます。


私たちはSDGsの理念に賛同し、持続可能な地域づくりを目指します

ともにつくろう地域の未来