最終12レースまで熱戦を繰り広げた7月の笠松・夏競馬

 梅雨明け猛暑の中、調教に汗を流すジョッキーたち。「夏競馬真っ盛り」と言いたいところだが、今夏の笠松競馬は、6月に4日間の開催自粛で1カ月近くレースがなかった。7月の盛夏シリーズ後も、8月のお盆開催まで3週間余り「夏休みモード」となり、今年は空白期間が長いように感じられる。

 その間、名古屋は連続開催で、笠松でも早く「熱い走るドラマ」を見たいのだが...。ジョッキーはレースで乗らなきゃ生活できないし、ファンの足が遠のかないためにも、実りあるレース日程を組んでもらいたい。ファンは暑い季節こそ、スカッとする電撃戦を観戦したいものだ。

 そんな中、笠松所属ジョッキーの奮闘ぶりは海外や他地区への遠征競馬で際立っている。今年の「夏男」は挑戦中のマカオで2勝目を挙げた水野翔騎手と、各地で勝利を積み重ね、ナイスファイトで暴れまくる佐藤友則騎手だ。

遠征に強い「夏男」の水野翔騎手。昨夏のYJS金沢ラウンドで3着。今年のマカオでは2勝目を飾った

 水野騎手は、マカオ・タイパ競馬場へ短期免許で武者修行中。6月29日、G2「サマートロフィー」を7番人気のファスバで逃げ切り、国内外での重賞初Vをゲット。7月27日には、同馬で今度は鮮やかな差し切り勝ちを決めて、マカオ2勝目。翌日にはG1レース(マカオ スターオブサンドS)にも初騎乗し、追い上げて5着と好走。その後のレースで2着2回と健闘してくれた。

 「私設応援団」の観戦ツアーもあり、笠松からは笹野博司調教師や渡辺竜也騎手が声援を送った。「いいところを見せたい」と気合が入っていた水野騎手。慣れない異国での騎乗で、遠征前には厳しい戦いを予想していたが、これまで2勝、2着2回、3着2回。「合格点」といえる結果を残している。2勝目のゴール前では、とても届きそうもない位置からの豪脚。騎乗馬とは相性抜群の連勝で「オーナーや調教師さんらに感謝したいです」と。笠松での師匠らの前で約1カ月ぶりの勝利を披露でき、チーム笹野の「持っている男」ぶりを発揮。遠征は8月26日までの予定で、帰国後の笠松開催では「マカオ重賞V」の手腕を発揮し、ファンをうならせるような大胆な騎乗を見せてほしい。

 2日間の休みで「マカオ旅」を満喫できた渡辺騎手。「水野さん、相変わらず元気そうで、(レースでも)カッコ良かったです。僕もモチベーションを高く持って、馬に乗れそうです」と刺激を受けたようだ。2日の名古屋競馬では計6レースに騎乗して奮闘(8Rで落馬)。名古屋では今年、笠松の騎手でトップの6勝を挙げており、よく馬券に絡んでいる。6月のストーミーワンダーでの重賞初V(飛山濃水杯)や、人気薄での東海ダービー4着などで、名古屋の厩舎からの信頼も高まっている。

金沢スプリントCをストーミーワンダーで制覇した佐藤友則騎手(中央)と笹野博司調教師(左)ら(金沢競馬提供)

 国内では、このところ絶好調の佐藤騎手。盛岡「ジャパンジョッキーズC」で個人総合V。続く笠松での3日間で6勝。中京(JRA)では14番人気馬で2着、11番人気馬でも3着に突っ込み、「馬の人気は関係ないです」の言葉通りの仕事人ぶりを発揮した。

 ここ2年ほど各地への遠征にも積極的で、ジョッキー戦や南関東での期間限定騎乗など、全国転戦で得たものは大きいようだ。吉原寛人騎手(金沢)、赤岡修次騎手(高知)ら地方のトップジョッキーに追い付こうと日々努力し、最近のブレークにつなげている。それぞれが個人事業主のようなもので、体を張ってのジョッキー人生。好騎乗の秘けつについては「企業秘密ですから」としながらも、3~4コーナーからゴールへと騎乗馬を追う豪腕ぶり、全身の躍動感はすごみを増してきた。遠征中に騎乗技術を一歩ずつ高めていて、勝利に直結する何かをつかんだことは間違いない。

 7月23日には重賞・金沢スプリントCを笠松のストーミーワンダー(牡5歳、笹野博司厩舎)で制覇した。後方から一気の差し脚で、地元・吉原騎手騎乗のウインクレド(名古屋)に4馬身差をつけての圧勝劇は痛快だった。ストーミーワンダーは今年の白銀争覇、飛山濃水杯に続く重賞3勝目で、笠松の大将格に躍り出た。

優勝インタビューで「金沢競馬場が大好きです」と笑顔を見せ、全国の競馬場で快進撃を続ける佐藤騎手(金沢競馬提供)

 金沢での優勝インタビュー。前走の日本海スプリント4着から中1週だったが「1歩目は出遅れたが、そのおかげか、人気のエイシンヴァラーを見ながらの競馬で手応え抜群。3コーナーでは勝てると思った」と友則スマイル全開に。昨年のMRO金賞をドリームスイーブルで制し、尾島徹調教師に重賞初Vをプレゼントしており、「金沢では4年連続で重賞を勝たせてもらっているし、また勝てて良かった。金沢競馬場が日本で一番大好きです」と。盛岡でのジャパンジョッキーズC優勝では「盛岡競馬場が日本で一番大好きです」と語っていた佐藤騎手。どうやら、これは大好きなプロレス仕込みの決めぜりふで、遠征先での勝利を地元ファンに感謝したということだろう。「あれっ、笠松は?」との声が聞こえてきそうだが、今度は地元での重賞Vで、もちろん「笠松大好き」を連発して、地元ファンを安心させてほしい。

 ジャパンジョッキーズCでの全国制覇で、笠松の騎手たちとも祝勝会を開いたが、夏男の勢いは止まらない。園田・兵庫サマークイーンではオルキリスリアン(園田)で2着、金沢・MRO金賞では6番人気だったフォアフロント(笠松)で惜しくも2着。馬券圏内は手堅く確保し、応援するファンを喜ばせた。グリーンチャンネルのテレビ番組「競馬場の達人」にも出演。「笠松競馬の佐藤です」としっかりとアピールし、親交があるプロレスラー・タイチさんへの友情出演で見せ場たっぷり。東京競馬場でのJRAレースで、ワイド960円を1点で厚めに的中させる達人ぶりも披露してくれた。

高知重賞・トレノ賞で3着と健闘した東川公則騎手(中央)。優勝した西川敏弘騎手(左)、4着の嬉勝則騎手とは同期生でベテラン健在だ(NAR提供)

 高知での期間限定騎乗(9月16日まで)で健在ぶりを発揮しているのは、東川公則騎手。9月6日には50歳の誕生日を迎えるが、トレノ賞で3着。優勝した西川敏弘騎手、4着の嬉勝則騎手とは同期生で、ベテラン勢の意地を見せてくれた。7月末までに7勝を挙げて、高知のファンにも存在感と笠松競馬をアピール。息子である東川慎騎手は、4月にデビューし、笠松で5勝、名古屋でも1勝を挙げる活躍を見せていたが、レース中の落馬事故で胸や肘を骨折する大けがで療養中。「復帰には2、3カ月かかる」とされていたが、応援するファンたちに早く元気な姿を見せてほしい。高知でのヤングジョッキーシリーズ(YJS)には参戦できず、父の前で勇姿を見せられなかった。けがを治して、9月25日のYJS笠松ラウンドには出場できるといいが。

800メートル戦で47秒5のコースレコードを出した2歳牝馬ボルドープリュネ。渡辺竜也騎手が騎乗した(笠松競馬提供)

 7月からようやくスタートした笠松2歳新馬戦では、800メートル戦で47秒5というコースレコードが出た。笹野厩舎の牝馬ボルドープリュネで、渡辺騎手が騎乗し、逃げ切り勝ち。これまでの47秒7(スリーパンチ)を0.2秒更新した。コースの馬場状態にもよるが、かつてのライデンリーダー(49秒3)やラブミーチャン(48秒1)の背中を追うには今後の成長力次第となる。門別デビュー戦4着後、すぐに笠松へ移籍して大変身の兆し。距離が1400メートルに延びてからの走りっぷりが注目される。新馬では、馬名の一般公募でファンが命名したギフテッドが2着デビュー。かつてはシンプウライデンが東海ダービー馬になったことがあり、夢のある企画で応援したい一頭である。

 8月の笠松重賞は、全国地方交流の15日・くろゆり賞が楽しみだ。今年から1着賞金が500万円に増額され、例年以上の好メンバーになりそうだ。笠松からはストーミーワンダー、名古屋からは昨年の優勝馬カツゲキキトキトらの出走を期待。大井、園田、高知などからも出走登録があり、真夏の熱い一戦となる。29日の岐阜金賞は東海地区の3歳クラシック3冠レースの最終戦。これまで10月に実施されていたが、こちらも1着賞金500万円に増額され、名古屋からも強豪が参戦する。
  
 久しぶりの笠松開催となる12日~15日のくろゆり賞シリーズ。NAR(地方競馬全国協会)の「夏うまフェス2019」の一環として、家族で楽しめるサマーイベントでにぎわいそうだ。JRAの和田竜二騎手、高田潤騎手のトークショー(12日)やミニチュアホースふれあい体験(13日)などお楽しみが盛りだくさん。家族連れで来場して、昭和の雰囲気が漂う競馬場内を満喫してほしい。