笠松競馬でデビューし、初勝利を挙げた東川慎騎手。父の東川公則騎手とがっちり握手

 「むちゃくちゃ、うれしいです」。笠松競馬期待の大型新人、東川慎騎手が2日に鮮烈デビュー。新年度初日のメインレース「淡墨桜特別」(B1特別)に騎乗し、いきなり初勝利を飾った。父である東川公則騎手との親子対決になったレースもあり、見せ場たっぷり。笠松のフレッシュな顔として、ファンの熱い視線を浴びている。

 大物ぶりを発揮した東川慎騎手は地元・羽島郡出身の18歳。地方競馬教養センターで2年間の訓練に励み、父と同じ後藤正義厩舎に所属。6人きょうだいの5番目で、騎手になったのは一人だけ。小学生の頃には笠松競馬での「じゃじゃ馬ホースショー」のポニーレースに出走し、見事優勝。「笠松競馬場でかっこいい父の姿を見て、ミツアキタービンの騎乗ぶりなどをビデオで見て、憧れを抱くようになった」とジョッキーになる夢を膨らませてきた

バレンティーノに騎乗し、先頭でゴールした東川慎騎手。2着・佐藤友則騎手にも活躍をアピールできた

 レースには父と同じ、胸にひし形をデザインした勝負服で騎乗。JRAのGⅠ・フェブラリーSで4着(ミツアキタービンに騎乗)、笠松リーディングには6回も輝いている父の大きな背中を追って、ゲートインを果たし、ジョッキー人生をスタートさせた。
 
 初日は計5レースに騎乗。4、7Rでは親子対決も実現。息子が7、9着に対して、父は6、7着だった。東川慎騎手は最終10R、中央帰りで4番人気のバレンティーノ(牝4歳、尾島徹厩舎)に騎乗。ファンや厩舎関係者も驚かせる会心のレース運びで、最高の結果を残すことができた。

 バレンティーノは中央のレースでは苦戦したが、咋年のラブミーチャン記念で2着、ライデンリーダー記念で3着と好走した実績馬。淡墨桜特別では、東川慎騎手は5番手から追撃を開始。抜群の手応えで3~4コーナーを回り、残り200メートルでは佐藤友則騎手騎乗の1番人気アースコネクター(牡8歳、尾島厩舎)を一まくり。駆け付けた家族らの歓声が上がる中、2着馬に1馬身半差で鮮やかにゴールを駆け抜けた。

デビュー初日、メインレースでの初勝利にうれしそうな東川慎騎手

 「勝っちゃったよ」。胸を張って戻ってきたルーキーを、父や尾島調教師らが出迎えた。この日は4R終了後、紹介セレモニーが行われ、「父を超えられるようにと思っていますが、まずは初勝利を目指したいです」と夢を語っていたが、その後のメインレースで堂々の勝利を飾るとは、なかなかの「持っている男」のようだ。

 「勝つならこのレース」と、装鞍所で待ち構えていたが、V直後のルーキーから喜びの声を聞くことができた。

 東川慎騎手 「リラックスして2、3番手からと思いましたが、前に行けなくて...。最後の直線で追ったら、よく伸びてくれた。騎乗馬と調教師の先生、馬主さんらに感謝しかないです。父からは、『ゲートを出たら、まずは馬にしがみついて行け』と。先生からは『走るのは馬だから、慌てずに落ち着いて』と言われていました」

 道中はフラフラしていたが、新人らしく「3キロ減」の有利さも生かし、最後まで一生懸命に追っていて良かった。騎乗馬も自分からレースをつくって、勝利をプレゼントしてくれたかのようだった。

息子の初勝利に感激する父と尾島徹調教師

 
 デビュー初日は「無事に乗ってくれるだけでいい」と思っていた父。息子の初勝利が決まると、感激して両手で目頭を押さえるシーンもあったが、満面の笑みで戻ってきた勝利騎手とがっちり握手。声援を送った東川ファミリーも「4コーナーを回って勝っちゃうのかと」「良かったね、おめでとう。興奮したよ」と大喜びだった。
 
 父・東川公則騎手 「スタートは上手に出ていた。コーナー回りは下手だったが、よく勝ってくれた。吉田勝利オーナーには、(強い馬に)こんないいタイミングで乗せてもらえて、ありがたいことです。下り坂から追っていくように指示したが、追うタイミングがドンピシャで、よく頑張った。スタッフの皆さんがよく仕上げてくれました」

 今年50歳になる東川公則騎手。デビューしたのは1987年で、人気のない馬での騎乗が多かったという。初勝利はデビュー23戦目(1400メートル)だったが、当時「笠松にも頼もしい新人が出てきたなあ」と感じたものだ。東川慎騎手は笠松の新人としては珍しい1800メートル戦で、父より早い5戦目での初勝利となった。開催4日間では19戦して1勝、2着1回、3着2回とまずまずの結果。ジョッキーとして第一歩を踏み出したばかりだが、父のように先行や好位差しで白星を積み重ねていきたい。

 2着に敗れた佐藤騎手は「(バレンティーノには)前回乗って内容が良かった。(俺が勝利して)しっかりとレースを教えていたからな」と先輩らしい一言。それでも「笠松競馬盛り上げ隊」の隊長として、新人騎手の活躍がうれしそう。「まだスタートしたばかり。浮かれることがないように。怖いのは『慢心』で、常に危機感を持って前を見ていけ」とトップジョッキーならではの激励もあった。若手の水野翔騎手や渡辺竜也騎手も、後輩の初Vを祝福していた。

淡墨桜特別を制したバレンティーノを囲んで、東川慎騎手の初勝利を喜ぶ家族や厩舎スタッフら

 東川慎騎手の今年の目標は「まずは30勝を目指し、渡辺騎手の1年目の記録(地方通算38勝)も抜けたらいいです。(NARグランプリの)優秀新人騎手賞も狙っていきたいです」と闘志満々。誕生日を確認すると、偶然にも自分と同じ1月24日だった。これは365分の1の確率でもあり、「万馬券」に当たったような気分。親しみも湧いてきて、これからの応援に力が入ることになりそうだ。

 一昨年デビューした渡辺騎手は「ヤングジョッキーズシリーズ」のファイナルラウンドに2年連続で出場したが、今年は東川慎騎手の出番となる。「同期の地方騎手にも負けたくないですね」と意欲を示しており、ファンも笠松ラウンドなどでの活躍を楽しみにしている。父は昨年7月、ラブミーボーイで地方通算2700勝を達成し、「3000勝を目指して頑張りたいです」と健在ぶりをアピールしていた。今後も続く親子対決では、父と勝ち負けを競って「ワンツーフィニッシュ」を決められるといい。