柴山雄一騎手らも参戦。笠松競馬で熱戦を繰り広げたJRA交流戦の雪割草賞

 オグリキャップ、安藤勝己騎手を生んだ「名馬、名手の里」は、JRAの騎手にとってもパワースポットだ。

 今年、笠松競馬ではJRA交流戦が3レース行われたが、栗東や美浦から参戦したJRA騎手たちは、その後の中央のレースで相次いで勝利を飾っている。今年未勝利だった山田敬士騎手ら4人は、うれしい初勝利となった。

競走距離誤認による騎乗停止処分から復帰後、初勝利を飾った山田敬士騎手。1月には笠松にも参戦した

 笠松でのJRA交流戦は水曜、木曜日に開催されることが多い。中央馬は5頭(未勝利、500万クラス)が出走。今年は計8人のJRA騎手が挑んだが、勝ったのは冬将軍賞の加藤祥太騎手だけ。2着以下だった7人は、その週末などに中央のレースで勝利を挙げている。

 のどかな風景美が楽しめる笠松でリフレッシュするとともに、流れの速いレース展開に刺激を受けて、笠松パワーを体感。土日の競馬に集中して良い結果につなげたのかも...。

 若手のお騒がせジョッキーとしても注目を浴びる山田騎手は、競走距離誤認(昨年10月・新潟)による3カ月の騎乗停止処分から復帰後、初勝利となった。1月の笠松では返し馬中の落馬・放馬のため、重賞初挑戦がお預けとなっていた。
 
 笠松でのJRA交流戦(1月23、24日)では葉牡丹特別で4着、冬将軍賞で9着。エキストラ騎乗も含めて2日間で8レースに騎乗し、2着が最高だったが、リーディングの佐藤友則騎手や岡部誠騎手とも腕を競った。吉井友彦騎手からは、小回りコースに合わせた馬の動かし方や他馬へのプレッシャーのかけ方などを学んだ。

 笠松参戦から2週間余り。山田騎手は東京7R(ダート1600メートル)を、5番人気ペイシャボム(美浦、本間忍厩舎)で会心の勝利。最後の直線では3頭によるデッドヒートで、内に戸崎圭太騎手(1番人気・サンチェサピーク)、外には田辺裕信騎手(2番人気・ゴールドクロス)。トップジョッキーに挟まれながらも、懸命に追って力強く先着を果たした。
 
 処分を受けたときと同じ北所直人オーナーの馬で、温情に応えての勝利。「感無量です。一つ一つ大切に乗ろうと思っていました。こういう状況で、乗せてもらい続けて、オーナーに『ありがとうございます』と伝えたいです」。イメージ通りに良いレースができ、「これからが再スタートです」と目を潤ませていたそうだ。ウイナーズサークルでは、ファンから「待ってたよ、頑張れ」と声を掛けてもらい、全員にサインすることができた。

 昭和の時代、笠松で1周勘違いした井手上慎一元騎手(愛知、現調教師)はその後、愛知の騎手リーディングを5回獲得し、NAR(地方競馬全国協会)の優秀騎手賞を受賞する活躍を見せてくれた。同じように悔しい思いを味わい、騎乗技術の未熟さを痛感した山田騎手だが、まだ21歳。長いジョッキー人生は始まったばかりで、巻き返しが楽しみでもある。

笠松・雪割草賞で2着に入った富田暁騎手。週末の京都では今年2勝目を挙げた

 山田騎手のほか、笠松・葉牡丹特別に出走し、2着、3着だった若手の藤懸貴志騎手、水口優也騎手もその週末、ともに中央のダート戦で今年初勝利を飾った。藤懸騎手は中京10Rで逃げ切り、水口騎手は京都1Rで2番手から抜け出して完勝。同じダート戦で、先行力が要求される笠松でのレース経験が生かせたのではないか。

 笠松・雪割草特別(2月6日)に挑んだ富田暁、西村淳也、柴山雄一騎手の3人も、その週末には中央のレースで勝利を飾っているから驚きだ。笠松出身の柴山騎手は、佐藤騎手や東川公則騎手ら懐かしい仲間と再会し、気分一新。小倉で騎乗し、1日2勝を挙げる活躍ぶりで今年4勝目。富田騎手は2勝目、山田騎手と同期の西村騎手は6勝目と好調だ。

 昨年2勝どまりで、JRAの新人3人のうちでは、出遅れ気味だった服部寿希騎手。今年はまだ勝利がない。愛知県出身でもあり、今後は地元の名古屋や笠松にも積極的に参戦すべきだろう。地方競馬でのJRA交流戦勝利は、見習騎手の勝利数にも加算されるから、騎乗依頼があればどんどん挑戦したい。一昨年、笠松で18戦騎乗して2勝を挙げた荻野極騎手。昨年13戦して6勝を量産した川又賢治騎手。笠松でも活躍した2人は、17年と18年の「中央競馬騎手年間ホープ賞」にも輝いている。

 ベテランでは、笠松・葉牡丹特別に参戦した51歳・小牧太騎手(園田競馬出身)が、京都で今年初Vを飾った。昨年はけがで騎乗数が減り、8勝に終わったが、桜花賞(レジネッタ)と朝日杯FS(ローズキングダム)を制覇し、GⅠで2勝の実績。本人は、騎手生活を長く続ける意気込みを示しており、これからも穴馬での大駆けが期待できそうだ。

交流ハンターの佐藤友則騎手。笠松でも中央馬に騎乗して活躍している

 JRA交流戦は、笠松のA3組とJRAの500万クラスによる特別レース。または、笠松3歳2組とJRA3歳未勝利馬による特選レースとして実施されている。JRA勢が圧倒的に優勢で、昨年のA3組戦では、中央馬が7勝2着7回、笠松馬が1勝2着1回。地元のベルボームが2月にいきなり勝ったが、その後はJRA勢が強かった。

 笠松の馬が勝っても賞金は40万円余りだが、中央馬が勝てば400~600万円(差額を含む)。賞金面では二重構造となっているが、JRAの未勝利戦で頭打ちの馬にとっては、初勝利を挙げて昇級する大きなチャンスでもある。

 中央馬には笠松の騎手が騎乗することもある。昨年は佐藤騎手が、中央馬で3勝2着5回と「交流ハンター」ぶりを存分に発揮。賞金面からも中央馬での勝利は魅力が大きいということだ。佐藤騎手は今年も、最初の葉牡丹賞を中央馬メイショウトキンで制覇。JRAの厩舎や馬主サイドにも好騎乗をアピールできた。

一昨年、大井でのヤングジョッキーズシリーズに挑んだ藤田菜七子騎手。笠松にも参戦して、渡辺竜也騎手らと腕を競ってほしい

 笠松競馬の次回開催は18日からの梅花シリーズ(5日間)。20日(水)にはJRA交流戦の梅見月賞と春寒特別がある。梅見月賞には美浦・根本康広厩舎のマサノエリゼも参戦。前走の2歳未勝利戦(新潟)では、藤田菜七子騎手(根本厩舎)が騎乗して10着だった。菜七子騎手は地方競馬にも数多く参戦して勝っているが、笠松と水沢ではまだ騎乗がない。今回、マサノエリゼには厩舎先輩の野中悠太郎騎手が騎乗する。

 女性騎手初のGⅠ挑戦となる、コパノキッキングでのフェブラリーS参戦で、競馬界を盛り上げている菜七子騎手。デビューから4年目だが、これまでは、笠松競馬サイドからの騎乗依頼には応えられていない。

 東海地区での騎乗は、名古屋止まりではあるが、美浦からのJRA交流戦挑戦も増えており、菜七子騎手の自厩舎である根本厩舎の馬が、笠松に参戦することは、一歩近づいたともいえる。本人にも「全国の競馬場を制覇したい」という意向はあるはずだから、いつか笠松でも騎乗してくれるだろう。ヤングジョッキーズシリーズで腕を競った渡辺竜也騎手らとの対戦も楽しみだ。オグリパワーを体感して、大きな飛躍につなげてもらいたい。