岩手・水沢競馬場で快進撃を続けるミンナノヒーロー。3連勝を飾り、JRA復帰条件をクリアした

 笠松競馬発、有馬記念Vで完結した「オグリ伝説」から約30年。岩手競馬・水沢から新たなストーリーが始まった。

 オグリキャップの孫・ミンナノヒーロー(牡4歳、佐藤祐司厩舎)が15日、岩手・水沢競馬場で3連勝を飾った。これでJRA復帰条件をクリアしたが、次走は芝コースもある盛岡競馬場でのレースを予定。岩手リーディング・村上忍騎手とのコンビで、さらなる成長が楽しみだ。

 現役競走馬としてオグリキャップの血脈を継承し、元気な姿を見せてくれているミンナノヒーロー。祖父がデビューした笠松競馬場は不祥事続きで時間は止まったままだが、このタイミングでの快進撃は偶然なのか。眠っていた華麗なるオグリ一族の熱い血が騒ぎだしたかのようで、力強い走りは応援するファンの胸を打つ。「鉄の女」トウホクビジンのつながりで縁が深い岩手の地から、苦境に立つ笠松のホースマンらを元気づけ、再生への勇気を与えてくれている。

 笠松競馬のシンボルであるオグリキャップは11年前の夏に天国へと旅立ったが、日本競馬史上最高のアイドルホースであり、永遠のヒーロー。笠松復興の守り神でもあり、2度の骨折・手術から立ち上がって頑張る孫の姿を喜んでいることだろう。
 
 ミンナノヒーローは、デビュー戦では元中央オープン馬相手に惜敗したが、その後は楽勝続き。初めての1400メートル戦もスピードを生かして先頭に立つと、最後の直線でも村上騎手は手綱を持ったままで後続を引き離して大差勝ち。1分29秒5の好タイム。気合を入れて追っていればもう1~2秒速く、B級以上でも勝てそうな走りだった。村上騎手の進言もあって、水沢で3勝を挙げてJRA復帰を確定させ、初コースとなる盛岡ではプレッシャーなく走らせようという狙いだ。

勝利を飾ったレース直後のミンナノヒーロー

 生産者でオーナーの佐藤牧場(北海道新冠町)では「無事ゴールし、中央復帰の権利を獲得しました。レース後、問題がなければ、盛岡開催で出走する予定です。応援ありがとうございました」とツイッターで感謝のコメント。ファンからは「強すぎてびっくり。おじいちゃんも喜んでいる」「みんなの夢を乗せて走ってほしい。中央復帰、ワクワク」などと祝福のメッセージが多く寄せられた。

 まだ地方競馬C級クラスでの3連勝。相手関係に恵まれての勝利ではあるが、517キロの雄大な馬体から繰り出すフットワークは力強い。父もGⅠ・フェブラリーS勝ちがあるゴールドアリュールであり、JRA復帰後への夢は膨らむ。

 佐藤祐司調教師は「馬が力まないようにとスタートを切ったら、モサッと出てしまった。(村上騎手は)一瞬2番手からの競馬もよぎったが、抑えるのに苦労すると思い直し、先頭を奪ったという。次走については、左回りも経験させておきたいので、盛岡開催のどこかで走らせたい」とのこと(ローレルクラブ近況報告)。

 芝コースもある盛岡では、JRA復帰後をにらんで、距離やコース適性を試せるチャンスもある。佐藤調教師は、5月の初勝利後には「ファンが多い馬で、中央の戦いの場にお返しするのが最大の役目」と話していたが、JRAに戻っても広いコースや多頭数での競馬に戸惑わないよう、岩手で経験をもう少し積んでから復帰させたい意向だ。

 ■妹のレディアイコは、JRAで19日デビュー

 オグリ伝説の夢の続きはまだ始まったばかりだが、地方から中央へと駆け上がり、エリート馬をなぎ倒すサクセスストーリーは痛快で、日本人が最も好むもの。ハイセイコーやオグリキャップのような活躍は期待できないだろうが、1勝クラスからスタートして、まずは長男ストリートキャップが到達した「3勝クラス」を目指したい。

 兄たちに続けと、1歳下の妹レディアイコ(父モーリス、母父オグリキャップ)もさあゲートイン。JRAの美浦・尾関知人厩舎所属で、19日の東京3R(牝馬3歳未勝利戦、ダート1400メートル)でデビュー。新人の永野猛蔵騎手(18)が騎乗する。

 レディアイコは芦毛の3歳馬。母ミンナノアイドル(14歳)の子は全て芦毛で、オグリキャップの血統を鮮明に継承している。馬体重は推定380キロで小ぶりな体だが、まずは無事にゴールを目指してほしい。尾関厩舎では、オグリの子であるミンナノアイドルも世話した縁で、血統ロマンを何とかつないで開花させたいとのこと。兄弟馬のJRAでの出走は、ストリートキャップ(9歳)以来で3年ぶり。今年2月には父コパノリッキーの「ミンナノアイドル2021」も生まれ、この子も芦毛で、2年後のデビューを目指す。

村上忍騎手、関本玲花騎手の「勝負服マスク」とマスクストラップ

 5月に訪れた水沢競馬場。場内の飲食店街では焼きそばとホルモンを買い求め、おいしく味わった。レースの合間に堪能するご当地グルメは、ライブ観戦でのもう一つの楽しみ。「全国地方競馬B級グルメ選手権」があるとしたら、これまで定番メニューとして味わってきた笠松の「焼きそば&串カツ」などは上位にランクインか。競馬ファンは、馬券以上に「あの味」を求めて来場する人も多く、笠松競馬のレースとともに飲食店の再開も待ちたい。

 水沢競馬場には、笠松の愛馬会のようなグッズ店はなかったが、シアター型観戦エリア「テレトラック」の売店で、ミンナノヒーロー主戦・村上騎手と、笠松騎乗でもおなじみの関本玲花騎手の「勝負服マスク」を購入。サービス品として岩手競馬オリジナル・マスクストラップが付いてきた。

 地方競馬の勝負服マスクは浦和や川崎にもあるが、JRAの勝負服(馬主)と違って、騎手個人を応援できる強みがある。名古屋ではコロナ対策で、金シャチマークのマスクが入場者に配布されたりした。笠松には勝負服デザインのキーホルダーはあるが、現役騎手は10人に減ってしまって、グッズ販売にも影響。それでも、オグリキャップの聖地であり、再開にラブコールを送る「ウマ娘」ファンも増えている。いつか愛馬会などで、勝負服マスク&ストラップが販売される日が来るかも...。
 

東海ダービーを制覇したトミケンシャイリと今井貴大騎手ら関係者

 ■東海ダービーはトミケンシャイリ制覇、今井貴大騎手4勝目

 第51回東海ダービー(1900メートル、SPⅠ)は15日、名古屋競馬場で行われ、1番人気の芦毛馬トミケンシャイリ(牡3歳、竹下直人厩舎)が鮮やかに逃げ切って制覇した。今井貴大騎手(32)はこのレース4勝目で相性抜群の「ダービー男」に輝いた。竹下直人調教師(70)は一昨年のエムエスクイーンに続いてダービー2勝目となった。2着はブンブンマル(川西毅厩舎)、3着はスプリングメドウ(井手上慎一厩舎)。

 笠松勢は3年前のビップレイジング、昨年のニュータウンガールが優勝し意地を見せていたが、今年は寂しいことに出番なし。人馬は木曽川を渡ることなく、地元勢だけによる「名古屋ダービー」となってしまった。

 重賞3勝の生え抜き馬・ブンブンマルとの2強対決で注目されたが、終わってみれば、「駿蹄賞」1~3着馬がそのままの着順でゴールイン。堅いレースが多い名古屋モード全開の決着となった。

 好スタートを切ったトミケンシャイリを第3コーナーから懸命に追ったブンブンマルだったが、その差は詰まらず4馬身差。トミケンシャイリはJRAから名古屋移籍後、6連勝を飾って2冠目もゲット。4年前のドリームズラインのように「東海3冠馬」を目指したいところだが、8月26日に予定されていた3冠目の「岐阜金賞(笠松)」の開催は厳しい状況。名古屋のホースマンやファンには申し訳ないが、一連の不祥事とともに笠松関係者のスピード感を持った努力が足りなくて、ここでも情けないことになりそうだ。ダービーグランプリ(岩手)の指定競走にもなっている「最後の1冠」は中止になってしまうのか。 
 
 愛馬を勝利に導いた今井騎手は「自厩舎の馬で勝てたことが一番うれしいです。おとなしくて素直で、自分の言うことをよく聞いてくれます。先頭に立てて安心したし、強い勝ち方をしてくれた。前走から1カ月ぶりのレースでリフレッシュして臨めた。この馬でいろいろなタイトルを取りにいきたい」と東海ダービー4勝目の喜びに浸っていた。

 竹下調教師も「じっくりと調整でき、何とか頑張って勝ってくれて良かった。距離はあまり関係ない馬ですが、(岐阜金賞がないなら)次走どこを使うか、ゆっくり考えます」。2年前は悲願のダービー初制覇で目を潤ませていたが、今年は2勝目でダービートレーナーとしての風格を漂わせていた。

 昨年末のライデンリーダー記念Vのフーククリスタル(錦見勇夫厩舎)は先頭を奪えず4~5番手を追走したが、勝負どころで決め手を欠いて8着に終わった。岐阜県馬主会による2歳抽選馬事業で購入した1頭で、笠松再開までの期間限定で名古屋に移籍。唯一「笠松勢」に近い存在だったが、今後地元に戻ったら、スピードを生かせる1400メートル戦などで巻き返しを図りたい。

けがから復帰した宮下瞳騎手。地方通算1000勝達成を目指している

 ■宮下瞳騎手、けがから復帰し勝利

 落馬負傷のため休養していた宮下瞳騎手(44)は15日2Rから復帰。計6レースに挑み、ネット越しに応援するファンらに元気な姿を見せてくれた。

 宮下騎手は5月4日7Rで落馬し、脳振とう、ろっ骨骨折などのため療養していたが、驚異的な回復ぶりを見せて、約1カ月半ぶりのレースで躍動した。初日は10Rの3着が最高だったが、17日には復帰後初勝利を飾った(2着1回、3着3回)。これで地方通算960勝目となり、目標としている大台の「1000勝達成」に向けても視界良好となってきた。

 昨年12月には、国内女性騎手として初めての年間100勝を達成した宮下騎手。2児のママさんジョッキーとしても、仕事と育児を両立させて奮闘。笠松競馬でも年間100レース以上騎乗したこともあり、通算65勝を飾っている。

 競馬という仕事は、調教やレース中は絶えず落馬、接触事故などの危険を伴い、騎手も競走馬も命懸けである。宮下騎手の騎乗ぶりを見ていると、改めて日頃からの体調管理とともに、フェアプレーに徹した正攻法での騎乗の大切さを痛感させられる。大けがを克服し、前へ前へと騎乗馬を動かしてゴールを目指す不屈の闘志。笠松で再開を待つ騎手たちにも見習ってほしい「ジョッキー魂」である。