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オグリの里

笠松競馬9月8日再開「待ってましたー」

立ち上がれ、あしたのために=その27



9月8日に再開されることが決まった笠松競馬。「公正な競馬」を徹底し、ファンの信頼を取り戻していきたい

 「待ってましたー、楽しみです」「やっと笠松巡礼できそうだな」

 どん底から、はい上がって一歩ずつ前へ。「黒い霧」に覆われて冬眠状態が長かった笠松競馬だが、ようやく国のお許しも出て、9月8日に再開されることが決まった。一連の不祥事による苦難を耐え忍んで、吉報を待ち望んできた馬主・厩舎関係者をはじめ、笠松のオールドファン、ウマ娘ファンは一安心。喜びがはじけた。

 それでも「夏の扉」は開けず、東海3冠レースの岐阜金賞も実施できず。これまで笠松競馬を盛り上げてきた騎手は1人減って、ついに1桁の9人になってしまった。勝利インタビューやファンサービスで笑顔が輝いていた男たちは、次々と競馬場から去って、どこかへ行っちゃったのだ。お気に入りだった騎手を失って、寂しさを感じるファンも多いだろう。このため、素直に再開を喜べない思いもあるが、競馬場で止まっていた時計の針は、ようやく動き始めた。

 笠松競馬では、昨年6月に馬券不正購入が発覚して以降、騎手9人、調教師6人(1人はセクハラ行為で免許が更新されず)が引退。レースの自粛は長引き、競馬場運営は危機的状況に陥っている。

 当欄のサブタイトル「立ち上がれ、あしたのために」は「その27」になって長期連載になってしまった。「その1・最悪だった昭和の不祥事」(1975年)では、覚醒剤・八百長事件で笠松競馬の騎手ら19人が逮捕(競馬法違反容疑など)されたが、競馬組合は2カ月後にはレースを再開させた。1月に再燃した今回の事件では「スピーディーな対応で浄化を」と提言してきたが、再開は8カ月後となった。「不祥事のデパート」はガタガタと揺れ、「また笠松か」と、競馬ファンもあきれる不祥事が続発した。もう出尽くしたと思いたいが、再開まで1カ月あり、油断はできない。

 ■「同様の事件が起きれば、廃止となる」

 クリアすべき課題は山積みだ。馬券不正購入でファンの信頼を裏切ったが、うみを出し切って公正競馬を確保できるのか。本年度は単年度赤字が必至の状況で、綱渡りの競馬運営となる。競馬組合が策定した「公正確保に向けた倫理憲章」では、「同様の事件を起こした場合は、笠松競馬が廃止となるとの危機感を常に心に刻みます」と強い決意を示した。組合管理者の河合孝憲副知事は「不祥事はあってはならない。結果的にそういう(廃止となる)可能性もある」と強調した。

 昭和の事件でも騎手7人が永久追放され、競馬組合は不正防止策を徹底。「公正な競馬運営ができる」と判断して、再開に踏み切ったが、今回、その教訓は風化して生かされなかった。何年後かに「笠松競馬の闇、再び」とか言われないことを願うばかりだ。

 1月の開催自粛後は、馬主・厩舎関係者への出走・騎乗手当などの補償費や、競馬場の維持費などで赤字額が膨らんでいる(1カ月で2億円程度)。施設改修のため蓄えてきた環境整備基金を取り崩し、本年度収支は「マイナスからのスタート」で、前途多難な再出発になる。

7月に行われた2歳馬の能力審査。9日からの模擬レースでは「新生・笠松競馬」をアピールしていく

 ■9日から、出走表付きで能力審査の「模擬レース」
 
 8月4日、総務省が笠松町と岐南町を公営競技施行団体に再指定。農水省に9月8日~10日の競馬開催を届け出た。笠松所属馬は約430頭。1月の実戦からは長期休養明けとなるため、コンディションづくりの確認が必要になる。8月9日、11~13日に競馬開催演習(能力審査)として、本番を想定した「模擬レース」を実施。出走表も発表済みで、午前10時から4~8頭立てで1日12レース(4日目は11レース)。馬券の販売やファンの入場は行わないが、映像はユーチューブで配信される(11~13日)。農水省やNARには実施状況の確認、指導をしてもらい、ファンに信頼してもらえる競馬ができるようにする。
 
 騎手らは本番レース時と同じように、前日から調整ルームに入る。馬券不正購入で問題となった携帯電話の持ち込み禁止ルールを含め、装鞍所、調整ルームの監視を強化し、透明性の高い競馬開催に努める。レースからは7カ月近く遠ざかっており、早く実戦感覚を取り戻していきたい。

 ■現役騎手は9人に半減、少頭数のレースに

 レース運営のための「生命線」である競走馬と騎手たち。昨年6月の時点で17人、10月にデビューした新人を加えれば計18人いた笠松所属騎手。馬券購入グループとして、警察の家宅捜索を受けた3人が、昨年8月に騎手免許を取り消されて引退。今年4月には5人が「関与停止」(半年~5年)の行政処分を受けて引退。8月に入って、新たに1人の騎手が引退となったことが判明。この結果、「笠松サバイバルレース」で生き残った現役騎手はわずか9人になり、半減してしまった。競走馬もオープン級など有力馬が相次いで他場へ流出しており、100頭以上減少。休養馬もいて、今回の模擬レースで使えるのは300頭余り。フルゲートは12頭だが、騎手も馬も不足しており、本番再開当初は5~8頭立てでの少頭数のレースが増えそうだ。

 騎手不足を補うためには、名古屋の騎手たちの協力が必要になる。競馬組合では「出場の了解を得ているため、レースに影響はない」としているが、どれだけの騎手が参戦してくれるのか。4日間の演習ではベテランの加藤利征騎手をはじめ、村上弘樹、尾崎章生、丸山真一、加藤聡一騎手の計5人が参戦してくれる。1人でも多く笠松で騎乗して助けてもらえればありがたいことだ。伸び盛りの若手も増えており、遠慮なく勝利を量産していただきたい。笠松勢も負けられないし、名古屋勢との「バチバチ感」が楽しみだ。

 ■馬券のネット販売は? ファンは購入してくれるのか
 
 再開時、懸念されるのは馬券発売の問題。コロナ渦もあって、笠松では昨年度の売り上げの93%をインターネット投票が占めた。もしネットや他場の場外で馬券を売ってくれなければ、売り上げは激減する。また、騎手らの不正購入で不信感を募らせているファンは、笠松の馬券を買ってくれるのか。
 
 開催自粛前は好調だったネット投票について、河合副知事は「再開後の販売は確定していないが、4日間の演習を含めて公正だと確認されることが重要。演習は試金石」と強調。「一連の不祥事で笠松競馬への信用は全くなくなったが、再発防止策を徹底し、開催に向けて万全を期していきたい」と述べた。

正門横でファンの来場を待つオグリキャップ像

 現在、地方競馬の馬券をネット販売しているのは「オッズパーク」「SPAT4」「楽天競馬」と、「JRAネット投票」(中央、地方ともに投票可能)の計4サイト。騎手・調教師らの馬券購入グループは、内部情報を悪用し、ネット投票で「黒いカネ」を動かし、不正を繰り返していた。競馬ファンへの裏切り行為で、ネット業者が笠松競馬の投票受け付けを見合わせる可能性もあり、取り巻く環境は厳しい。まずは模擬レースで公正競馬をアピールし、本番に向けて信頼を取り戻していきたい。

 ■的中馬券の払戻率が高いアイデアレースを

 笠松競馬場の正門横では、ウマ娘ファン・聖地巡礼の主役であるオグリキャップ像が、来場を待ってくれている。オグリを主人公に、笠松競馬場を舞台にして描かれた連載漫画「シンデレラグレイ」は単行本も大ヒット。再開されれば、大勢の若者が来場するとみられており、場内の環境整備も進めていきたい。

 再開後の笠松競馬では「新たな魅力づくりも必要になる」というが、一つの案として、特定のレースで的中馬券の払戻率を引き上げてはどうか。地方競馬では、馬券の払戻率は主催者の判断で70~80%の範囲内で設定できる。笠松の場合、払戻率は単・複が80%、馬連・馬単・ワイドが75%、3連複・3連単は72.5%である。

 他場では既にメイン以外の目玉レースとして取り入れており、高知競馬の「一発逆転ファイナルレース」は払戻率77%で大人気。名古屋競馬が始めた「モーニングフィーバー」(第1、2R)は通常の72.5%に5.2%上乗せし、77.7%で実施。さすがは名古屋、パチンコ発祥の地のアイデアだ。笠松でも何か秘策を練って、ファンサービスの一環として「お得感」があって楽しめるレースを提供してはどうか。
 
 モーニングサービスといえば、岐阜、愛知の喫茶店文化だが、最近ではケーキ類付きの「アフタヌーン」「ティータイム」サービスもあるという。笠松競馬でもネット投票を利用しやすいランチタイムなどに、払戻率を高めたアイデアレースを提供し、ファンに楽しんでもらってはどうか。

 苦しい台所事情では、配当の上乗せは厳しいと感じるだろうが、経営努力は必要。ファン心理をくすぐり、トータルでは売り上げアップにつながるのでは。魅力あるレース作りでは、ファンのアイデアも公募して盛り上げられるといい。

 昨年6月の7日間、第5R(午後1時台発走)で実施した「新型コロナ対策医療従事者支援レース」では売り上げを大きく伸ばした。その一部を県の窓口に寄付したが、こういった素晴らしい取り組みもまたできるといい。

レース再開に向けて、早朝からの攻め馬に励む騎手たち

 ■騎手たち「頑張ります」と元気いっぱい

 「早く競馬をしたいです」と再開を信じて、早朝からの攻め馬に黙々と励んできた騎手たち。「レースの再開近いね」と声を掛けると、「頑張ります」と元気いっぱい、笑顔も目立っていた。能力審査や本番レースに向けての目標ができ、騎乗フォームにも力が入ってきた。

 昨年笠松リーディング2位の渡辺竜也騎手は「こんな笠松ですが、再開されましたら精いっぱい頑張りますので、気にかけていただけたら、うれしいです」とツイッターでコメント。再開日の発表を待ち望んでいた笠松ファンからは「見に行くから、いいレースをしてくれよ」「新しい笠松競馬をつくっていってください。応援しています」と温かいメッセージが相次いだ。
 
 県調騎会長の後藤正義調教師も「再開の決定を待ちわびていた。二度と不祥事を起こさないよう皆で気を引き締めてやるしかない。ファンの信頼を取り戻すため、いいレースを提供していきたい」と、浄化・再生への決意を示した。

 生まれ変わる笠松競馬。大原浩司騎手会長をはじめ、最年長で若手教育係の向山牧騎手、中堅の松本剛志、藤原幹生、森島貴之騎手。若手では渡辺竜也、東川慎騎手のほか、昨年デビューした深沢杏花、長江慶悟騎手。少数精鋭で、野球でいえばレギュラーの9人。全員がけがなどなく、騎乗馬とゲートインし、まずは模擬レースで全国の競馬ファンに元気な姿を見せてほしい。

 騎手、調教師らの馬券不正購入など不祥事が続いた笠松競馬だが、レース運営は馬券を購入していただく多くの競馬ファンがいてこそ成立するもの。笠松競馬に関わる全てのホースマンが一丸となって不正根絶に努め、「ファンファースト」の精神で、信頼回復に全力を挙げるべきだ。公正競馬の原点に立ち返って「新生・笠松競馬」へと変革を推し進めていきたい。