地方通算1000勝の偉業を達成し、スマイル全開の宮下瞳騎手(NAR提供)

 目標にしていた大きな1勝に、輝く瞳スマイル全開―。「努力」という言葉が好きなママさんジョッキー。攻め馬やレース、息子2人の子育て、家事にと奮闘してきた根性は半端ない。5月にはレース中に落馬負傷。脳振とう、肋骨骨折、肺挫傷と診断されたが、翌日に退院したという頑張り屋さん。1鞍ずつ積み重ねてきた努力の結晶は「夢の大輪」となって開花した。

 名古屋競馬の宮下瞳騎手(44)=竹口勝利厩舎=が18日、名古屋第2Rで1番人気のリアルスピード(牝3歳、藤ケ崎一人厩舎)に騎乗し1着。国内女性ジョッキーで初めての「地方競馬通算1000勝」を達成した。1万1439回目の騎乗での大台到達。このうち笠松競馬では65勝を飾っている。

 「あと6勝」で迎えた東海菊花賞シリーズ。3日目には全11レースに騎乗する「鉄の女」ぶりも発揮し2勝。夢の1000勝まで「あと1勝」に迫っていた。単勝1.6倍に支持され、記録達成ムードが充満。宮下騎手の華麗な手綱さばきに応えて、リアルスピードは中団から先行勢を追撃。4コーナー大外を回り、直線では一気に突き抜けて鮮やかな差し切りV。第4R、第8Rでも勝利を挙げて1日3勝の固め勝ち。翌日も第1、2Rを連勝し1004勝まで記録を更新。「1000勝」を通過点にしてしまう充実した騎乗ぶりを見せている。

 ■「ママ、やったよ。息子たちがパワーの源です」

 1000勝達成に宮下騎手は「ほっとしました。本当にうれしいです。いつもリーチがかかると、なかなか勝てませんでしたので、夢のような感じ。まだ実感はない」。レース後は愛馬の首を優しくなでて「乗り難しい馬だったので、気持ち良く走らせてあげられたらいいな」と。大台を意識したのは「周りの人に言われてから」だが、10月の笠松戦では「1000勝も近いですね」と声を掛けると「頑張りま~す。まだ先は長いです」と明るくカウントダウンを楽しんでいた。

リアルスピードに騎乗しゴールイン。国内女性騎手として初めて1000勝を達成した宮下騎手(NAR提供)

 「応援してくれた息子たち(優心君、健心君)がパワーの源です。『ママ、やったよ』と伝えたい。復帰には筋肉など体力を戻そうとランニングや水泳など頑張りました。ここまで勝利を重ねることができたのは、馬主、関係者、ファンら多くの方の支えがあったからです。これからも感謝の気持ちを忘れず、そして2人の息子たちに『世界一かっこいいママの背中』を見せられるよう頑張っていきますので、応援よろしくお願いします」と、より高みを目指すジョッキー人生に意欲を示した。

 ■息子たちに「かっこいいママの姿を見せられた」

 鹿児島市出身で1995年9月デビューの美人ジョッキー。2011年、出産のため騎手を引退したが、長男から「ママが馬に乗るのを見たい」と言われ復帰を決意。厩務員の仕事も体験し、騎手免許を再取得して16年にカムバック。復帰レース後には「かっこいいママの姿を見せられて良かった。自分の記録を1勝ずつ更新できるよう頑張りたい」と語っていた。

 子育てと騎手の両立は簡単ではない。笠松所属で120勝を挙げた中島広美元騎手もママさんジョッキーの道を期待されたが、子育てに専念。現在、息子の貫太君がJRA競馬学校入りし特訓中で、再来春デビューを目指している。

 宮下騎手は「女性騎手は出産したらそのまま引退だった。私が出産してまた乗れるという道筋をつくれたかな」と後輩たちが続くことを希望。「息子も乗りたいと言ってくれたので、一緒にレースに乗れたら」と将来の夢も広がる。深夜から仕事が始まる厩務員時代の睡眠時間は2時間ほどだったそうだが、騎手復帰後も午前1時に起きて馬を調教する生活に耐えられるのは「やっぱり馬に乗るのが好き」だから。昨年は105勝を量産。信頼される騎手として有力馬への騎乗依頼は増え、今年も86勝を挙げており、まだまだ成長途上である。
 
 19日には1000勝達成セレモニーも開かれた。宮下騎手は名古屋の所属騎手や笠松の大原浩司騎手会長らに囲まれて、大勢のファンらの前で花束を贈られた。「息子たちの応援があったから頑張れた」と話すと、「おめでとう」と長男からも祝福を受けた。

 ■笠松でも年間100レース以上騎乗、350勝と600勝を達成

 宮下騎手は笠松競馬でも準レギュラーとして、04~07年には年間100レース以上騎乗。05年には11勝を挙げている。先輩の小山信行騎手と結婚した05年、通算350勝目を笠松競馬場で達成。当時、吉岡牧子騎手(益田競馬)が持っていた女性騎手の日本最多勝記録に並んだ。マヨヒメに騎乗し、2着に半馬身差で勝利。今と違って場内では早速、花束贈呈のセレモニーも行われ、「一戦一戦、大切に乗ってきた。すごくうれしい」とにっこり。観客から「おめでとう」と祝福の声が飛び、照れながら「ありがとうございます」と繰り返した。翌日の新記録挑戦は9着、5着で達成ならず。名古屋で351勝目を飾って最多記録を達成した。09年2月には笠松第1Rでロイヤルスキーに騎乗し、通算600勝も達成した。

 昨年2月には東海クラウンをメモリートニックで逃げ切り、笠松での騎乗機会3連勝と波乗り。この頃は愛馬ポルタディソーニとのコンビで、名古屋重賞・梅見月杯も制覇。「最近絶好調だね」という声に笑顔キラキラ。半端なく「乗れている騎手」として勝利を量産し、年間100勝ラインを突破した。

1000勝達成セレモニーで息子2人と祝福を受けた宮下騎手(NAR提供)

 NARグランプリ優秀女性騎手賞には11回も輝き、円熟味を増した騎乗ぶりは、日本の女性ジョッキーのお手本。笠松でも見せてくれた「経済コースのインから、最後の直線で大外へ」といった力強い手綱さばきはすごみがあった。
 
 ■思い出深いポルタディソーニで重賞4勝

 重賞は名古屋で5勝。復帰後にコンビを組んだポルタディソーニでは秋の鞍、梅見月杯など4勝を飾っている。その一番大好きな馬を「ポルちゃん」と呼んでいたが、今年4月に引退。「馬に乗る楽しさ、厳しさなど教えてもらった。復帰してから重賞勝ちで自分を成長させてくれた馬なので、思い出に残っています」と1000勝達成後にも感謝していた。

 国内だけでなく海外にも目を向け、09年に韓国・釜山での「第1回KRA国際女性騎手招待競走」で優勝。その後の韓国遠征(釜山所属)では1年間に56勝を飾った。夫は名古屋の騎手を引退し、韓国で調教助手を務めている。
 
 ■親子で同じレースに乗る日が来るかも

 通算勝利745勝で女性騎手の2位につけていた高知・別府真衣騎手(33)は調教師試験に合格し、11月いっぱいで騎手を引退する。佐賀の鮫島克也騎手(58)、真島正徳騎手(51)も合格した。

 宮下騎手も引退後は調教師への転身を考えているというが「せっかく復帰してもらった免許なので、一日でも長く乗っていたいです」とも。もし、現在9歳の優心君が7、8年後にジョッキーになったとしたら、どうだろう。名古屋でデビューし、同じレースに騎乗して親子でゴールを目指す日が来るかもしれない。

藤原幹生騎手騎乗のシルバはジュニアクラウンを圧勝し、デビューから3連勝。「笠松のスターホース」へ成長が期待されている

 ■快速馬シルバ3連勝、笠松競馬のスターホースへ

 笠松競馬場では、準重賞のジュニアクラウンが行われ、藤原幹生騎手騎乗の生え抜き馬シルバ(牝2歳、後藤正義厩舎)が逃げ切りで圧勝。デビューから3連勝を飾った。最後は追うこともなく、持ったままで余裕のゴールだった。

 歴代優勝馬にはオグリキャップ、オグリローマン、ラブミーチャンらGⅠ馬がズラリ。東海ダービー馬のトミシノポルンガ、ビップレイジング、ニュータウンガールも名を連ねる伝統の出世レース。

 そんな偉大な先輩たちに続けと、シルバは新馬戦の800メートルを47秒4のレコードタイムで9馬身差完勝。1400メートルに距離が延びた2戦目・秋風ジュニアでも危なげなく連勝。月1走のローテーションで、ジュニアクラウンを目標にしっかりと乗り込んで好仕上がり。単勝110円でここも通過点となった。
 
 藤原騎手は「気分良く走ってくれました。最後までしっかりと、強い競馬でしたね」。3コーナー手前でカントリードーロが並びかけ、見てる方は一瞬ヒヤッとしたが、スッと反応できて加速した。「ラストは前走よりも伸びそうで、落ち着きも出てきて、どんどん成長しています。スピードが違いますね」と好感触。

 後藤正義調教師も「レース内容も良くなってきた。今後は距離延長にも対応していければ。年末のライデンリーダー記念を目指している」とのこと。「笠松のスターホースの第一候補で期待してます」と、さらなる飛躍をお願いしておいた。来年の東海ダービーなどを視野に入れて、再生を目指す笠松の希望の星としてきらめいてほしい。

 ■岡部騎手が渡辺騎手を抜きリーディングトップ

 前開催リーディングは向山牧騎手の7勝。藤原幹生、松本剛志、岡部誠騎手が6勝で続いた。この結果、負傷療養中の渡辺竜也騎手の34勝を抜いて、岡部騎手が36勝でトップに躍り出た。藤原騎手が29勝で松本騎手は25勝。渡辺騎手の年内復帰は厳しいとみられており、年末に向けたリーディング争いは、岡部騎手を追う笠松勢という構図になりそうだ。

 ■レディスジョッキーズシリーズに深沢騎手ら8人参戦

 深沢杏花騎手は、地方競馬の女性騎手が対決する「レディスジョッキーズシリーズ2021」に出場する。11月23日の岩手、27日に高知、来年2月18日の名古屋までの3戦。それぞれ2競走ずつで総合ポイントを競う。宮下騎手や関本玲花騎手(岩手)ら計8人が出場予定だ。

 宮下騎手が1000勝を達成した日には、深沢騎手も名古屋に参戦していた。ヤングジョッキーズシリーズ(YJS)の名古屋ラウンド(2戦)も開催されていたが、深沢騎手は笠松不祥事の余波で騎乗できず、悔しい思いを味わった。来年こそは東川慎騎手、長江慶悟騎手とともに笠松勢3人がそろってYJSに挑戦し、思い切った騎乗を見せてほしい。

24日の笠松グランプリ開催をアピールするポスター

 ■24日に笠松グランプリ(1400メートル、SPⅠ)

 11月24日には笠松グランプリ(1400メートル、SPⅠ)が開催される。昨年は兵庫のエイシンエンジョイが優勝をさらったが、今年も全国から強豪が勢ぞろい。アザワク(北海道)、コパノフィーリング(船橋)、リュウノシンゲン(川崎)、コウエイアンカ(兵庫)、ダノングッド(高知)の5頭で、笠松からはタイセイサクセサーなど5頭、名古屋からは東海ダービー馬トミケンシャイリなど2頭が出走を予定している。コパノフィーリングには全国リーディングの森泰斗騎手が騎乗する。
 
 プレゼントやイベントも盛りだくさんで、WEB予想会では安藤勝己元騎手がゲスト出演し、インターネット配信(13時30分~)やパドック解説を行い、表彰式にもプレゼンターとして登場。岐阜工業高校吹奏楽部による生ファンファーレ演奏も楽しみだ。秋の恒例イベント「畜産フェア」も開かれ、来場者に飛騨牛カレー(23日)、ネットでは県産畜産物のプレゼントもある笠松グランプリシリーズ(23~26日)。馬券を当ててグルメも味わって「実りの秋」を満喫できるといい。