座談会に出席した高橋莉子さん(右)と佐々木千芽さん=7月26日、盛岡市
公開授業で、お互いが選んだ新聞記事について意見を出し合う大槌学園の小学生=7月27日、岩手県大槌町

 教育に新聞を活用する方法を考える「第23回NIE全国大会」(日本新聞協会主催、岩手日報社など主管)が7月26、27の両日、盛岡市などで開かれた。東日本大震災から7年を経た今年の大会スローガンは「新聞と歩む 復興、未来へ」。全国から教育、新聞関係者ら約1600人が集まり、発表や討論をした。

 1日目は、明治大の斎藤孝教授が「新聞力と復興」と題して記念講演。「災害で大事なのは経験の共有」とした上で、「新聞には蓄積された記録が残り、教材として優れている。新聞を読むことで切実さを感じ、自分のこととしてリアルに考え、災害への備えが動機づけられる」と話した。

 そして、全国の学校で行われている朝読書の時間に、切り抜いてきた新聞について発表する時間を設けることを提案。「4人一組となり、切り抜いて貼ってきた記事について1人1分でコメントするようにすれば、自分のこととして考えるようになり、当事者意識が養われる」と話した。

 続いて、震災を経験した子どもたちや、教育現場に携わる人たちによる座談会が開かれた。

 震災当時中学1年だった宮城教育大3年の高橋莉子さん(21)は、震災から1週間後に仲間と学校新聞「希望」を発行。避難所や仮設住宅を訪れ、一人一人に手渡した。「地域の皆さんを励ましたいと始めたが、地域の人たちとのつながりや、全国の人たちからの支援も広がり、逆に私たちが励まされた」と振り返った。

 震災当時小学3年だった岩手県立釜石高2年の佐々木千芽さん(16)は、震災の教訓を未来に伝えるために「語り部を増やすことが必要」と話した。「これから小学校に入学する子どもたちは震災を経験していない」とし、「そうした世代に、震災を知っている世代が経験を伝えることで風化が防げる」と話した。

 同県立総合教育センターの藤岡宏章所長は、新聞の役割について「学校と学校、学校と地域、子どもたちと社会をつなぐ接着剤のようなもの」とした。震災時に、それぞれの地域で子どもたちがどんな活動をしているのかを新聞が伝えてくれることによって情報共有ができたとし、「点から線、線から面への広がりを新聞が果たした」と評価した。

 2日目は、学校でのNIEの実践事例が紹介されたほか、岩手県大槌町立大槌学園による、復興をテーマにした公開授業などに注目が集まった。

 来年の大会は、8月に宇都宮市で開かれる。

苦労や願い、小学生が学ぶ 公開授業

 児童たちの手がぱっと上がり、「はいっ」と明るい声が響く。岩手県大槌町の小中一貫校「町立大槌学園」。6年1組の36人と担任の多田俊輔教諭の公開授業は、東日本大震災の傷痕に向き合いながら、前向きな雰囲気に満ちていた。

 町は震災で人口の約1割の1286人が亡くなり、家屋の約7割が被災。復興に向かう中で5年前、防災や郷土を学ぶ独自の科目「ふるさと科」を創設した。公開授業はその一こまで、テーマは「復興のために努力している人の思いを(記事に)読み取る」だった。

 教材は震災後の大槌に心を寄せる人々にインタビューした地元紙の数十本の記事。児童が各自1本を選び、授業に臨んだ。

 「他の人が選んだ記事と共通点がありますか」。多田教諭が尋ねると、「大槌のために努力している」「震災があっても、頑張っている」。次々と意見が出て、教諭が「その人たちにはどんな願いや苦労があるだろう」と問うと、児童の金崎心美さん(11)は自分が選んだ記事にある「悲しみ、苦しみ、ぶつけようのない怒りをどう処理していいのか」という歌手の言葉を挙げた。

 授業後の質疑応答で、見学者の熊本市の小学校長は「熊本でも風化は心配。子どもの気持ちにどこまで配慮して震災に向き合わせるべきか」と悩みを漏らした。多田教諭は「新聞を通して震災に向き合う人に出会うと、気付きがある。配慮は必要だが、子どもには出会う権利もある。授業で、事実の奥にある人々の思いまで知ることが、重要だと思う」と話した。