ヒップホップやR&B、ロックなどの楽曲分析を通じて、メディアと現代社会を読み解く「音楽社会科の授業」。英語科の教員(奥)が歌詞を取り上げ、曲が持つメッセージ性について説明する=岐阜市加納大手町、岐阜大付属小中学校

 主権者にとって必要不可欠な市民性の育成を目標とした社会科授業の原点は、常に生徒の「問い」にあります。「紛争を起こす必要はあるのか?」「発展とは何か?」「よりよい広告とは何か?」などの問いが生徒によって創(つく)られ、学びを進めてきました。こうした問いの探究には、教室での学びや教科書の知識を大切にしながらも、時には教室や教科書を離れる必要があります。育みたい資質・能力からは外れず、新たな教材を現代社会のリアルに見い出すことが重要で、外部との共同授業を行うのもそのためだと考えます。

 今回、岐阜大学の田中伸准教授が学生とともに開発した研究授業案を参考に「メディアの裏側には何があるのか?」を学習課題に据え、メディアの中でも音楽から社会を読み解く、通称「音楽社会科」という授業を中学3年生の公民で実践しました。ヒップホップやR&B、ロックなどの音楽を分析し、その曲が流行した時代背景や曲が風刺する社会的事象という視点からメディアと現代社会を読み解きます。

 この実践のポイントは、実に多様な学びの要素が混在することです。社会、音楽、英語、国語、技術科の5人の教員が、専門性を生かして一つの授業を組み立てる感覚を得ただけでなく、生徒は楽曲分析を通してメディアの持つメッセージ性に気付いたり、他にも隠された意味があるのではないかと互いに質問や協議し合ったりする力を身に付けました。

 生徒らは、分析対象を日本だけでなく世界各国のメディアに広げ、音楽や映画、アニメやドラマ、ゲームなど多岐にわたるジャンルから選びました。世界的に大ヒットした米国の楽曲を歌詞や曲調から分析したグループは、多様性の尊重、ありのままに生きることの難しさについて意見。別のグループは、人工知能(AI)が登場する米国映画と日本のアニメの比較分析を行い、社会的事象の捉え方の根底には異文化の影響があるのではと指摘し、「AIとの共存は本当に可能か」という新たな「問い」を仲間に投げかける姿もありました。また、授業から数日後の休み時間には、昨今の社会情勢に関連させながらメディア論を語る生徒同士の会話に立ち会うなど、授業や教科の枠を超えて社会的事象についての対話を重ね、自身の学びを深める主権者の姿が広がっているのを実感します。

 こうした教科横断的な学びこそ、教員が自由かつ柔軟な発想でチャレンジすることが大切です。紙の上で理論を煮詰めるのではなく、目の前の生徒が持つ「問い」と向き合い、一探究者として授業を創るスタンスが教員に求められるのではないかと考えます。