山梨県にあるリニア中央新幹線の実験線。2020年8月から「L0系」の改良型試験車が走り始めている。どのように改良されたのだろう。そして、その乗り心地は―。10月上旬、報道機関向けの試乗会があったので、その乗車リポートをお届けする。一言でいえば、リニアは飛行機のような乗車感覚だ。

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(今回は、記者2人でビデオカメラ4台を駆使して走行中の車内を撮影しています。その動画も併せてご覧ください。10月14日に日本の鉄道開業から150年を迎えましたが、鉄のレールの上を鉄の車輪で走る「鉄道」とは異なる、リニアの〝走行音〟にも注目です)

 山梨県の都留市に乗車場となる山梨実験センターを置き、東の上野原市と西の笛吹市を結ぶJR東海の山梨リニア実験線。その総延長は13年に延伸し、現在は42・8キロ。そのうち、35・1キロがトンネルだ。

 フルマラソンとほぼ同じ距離を最高時速500キロで走るのだが、その走破時間は、走り始めてから止まるまでの加速と減速を含めても、わずか約8分。かなり速い。

改良型試験車の車内(前方)。各紙記者とも熱心に写真撮影している=リニア中央新幹線「L0系」改良型試験車

 リニアは、宙を浮いて走る。その浮力と推進力に使われるのが、磁石の力(磁力)だ。磁石は不思議なものでN極とS極は引き合うが、同じ極同士は反発する。引き合う時は近づけるだけでカチャッと勝手に着く一方、反発する時は何もない空間に〝見えない力〟が働き、意地でも接触しようとしない。

 そんな磁石の特性を生かし、①反発して押し上げる力と引っ張り上げる力で車両を浮かせ、②同じく、反発して押し出す力と引っ張る力で前に進む。それがリニアだ。

山梨リニア実験線を走るL0系試験車=山梨県都留市、山梨県立リニア見学センター

 もちろん、リニア中央新幹線では一般的な固体の磁石(永久磁石)ではなく、電気を流すことで磁力を発生させる電磁石が使われる。車両には、マイナス269度まで冷やして「超電導現象」を起こした強力な磁石(超電導磁石)を搭載。ガイドウェイと呼ぶ〝線路〟の側壁には電磁石のコイルを並べ、車両の超電導磁石との間でN極とS極が交互に引っ張り合ったり、反発し合ったりして車両を浮かせ、前に進めていく。超電導磁石は、電気抵抗がゼロになる―といった難しい話もあるのだが、そもそもとして時速500キロを実現させるためには欠かせない磁石だという。

 うんちくはここまでとして、実際に乗ってみる。リニアは、まずタイヤ走行で加速する。当然、鉄道のように「ガタンゴトン」とは鳴らない。タイヤで走る神戸市のポートライナーのようなソフトな感覚だ。ちなみに、走行を地上からコントロールする自動運転システムを採用しているため、運転士は乗っていない。

改良型試験車の車内(後方)。東海道新幹線と比べると、より近未来感が出ている=リニア中央新幹線「L0系」改良型試験車

 車両は、時速150キロを超えたところで浮上走行に切り替わる。この瞬間、ふっと静かになる。ただ、加速するにつれて、ゴーッという音が車内に響き渡る。宙に浮いたままなので、文字にするなら「スーッ」かと思いきや、「ゴーッ」だった。それなりに騒音はある。だが、宙に浮いているのに何の音だろう。後で確認すると、走行中の〝風切り音〟だという。トンネルの中を高速で走ることによる空気抵抗の音のようだ。ただ、耳が詰まる感じはしなかった。

(動画でタイヤ走行から浮上走行に切り替わる時の走行音の変化、そして最高時速500キロの時の風切り音が確認できます。ヘッドホンなどを使い、聴き比べてみてください)

 トンネルが大半のため、車窓の先は暗闇。トンネル側面の照明が連なり、光線のように見える。ゴーッという風切り音も後押しし、まるでタイムマシンに乗って、どこかにワープしているような気分だ。

 最も印象的だったのが、減速して再びタイヤ走行に戻る時の感覚。これが、飛行機の着陸と似ていた。ザザッと前のめりになるような衝撃が伝わる。常に車輪がレールと接触している鉄道にはない感覚だ。

座席の周辺

 記者は2度目の試乗。改良型は初めてだったが、以前は東海道新幹線と似たような車内の造りで、座席前のテーブルを引き出せたと記憶している。それが、改良型は車内がより近未来感のある雰囲気に。テーブルもなく、高速バスにあるようなドリンクホルダーが添えられているだけだった。

 以前の試乗で、時速400キロを超えたあたりからの振動が気になっていたので、今回、紙コップにオレンジジュースを注いで観察してみたが、確かに小刻みに波紋が発生するも、こぼれるようなことはなかった。動画では、ビデオカメラが広角で量が少ないように見えるが、少なく注いだわけではない。

オレンジジュースはこぼれなかった

 テーブルがないため、駅弁を楽しめないかもしれない。とはいえ、東京・品川―名古屋間は最速40分で、大阪までは同じく67分。豚まんを食べる暇もなさそうだ。岐阜県がらみでは、中津川市に整備している岐阜県駅(仮称)に停車する場合、品川―岐阜県間は60分程度、名古屋―岐阜県間は15分程度という。思うに、岐阜県からは名古屋も近く、中津川の岐阜県駅と名古屋駅の二つを利用できる岐阜県は、沿線の中でも便利な県だといえるのではないか。

 このほか、改良型では先頭部の形状を最適化し、空気抵抗を約13%低減。車内の照明などに使われる電気も、これまではガスタービン発電装置を車両に搭載していたが、それを置かずにガイドウェイからの「誘導集電方式」に切り替え、充電している。スマートフォンのワイヤレス充電のような仕組みだという。

 リニア中央新幹線は東京、神奈川、山梨、長野、岐阜、愛知と走り、その後、大阪に向けて伸びていく。太平洋に沿って走り、開業から半世紀を超えた東海道新幹線の〝バイパス〟として途中、南アルプスと中央アルプスを突き抜けながら、最高時速500キロで日本の三大都市圏をつなぐ次世代の高速交通だ。

リニアの車窓からの景色。ほとんどはトンネル内だ

 この日、約1時間の試乗会のために岐阜市から車に乗って、東海環状自動車道、中央自動車道と走り、都留市に向かった。

 往復8時間。恵那山トンネルを抜けると、長野県飯田市で南アルプスが望める。山の向こうに山梨県があるのだが、いったん諏訪湖まで北上しなければならない。途中、工事もあり、到着は集合時間のギリギリ3分前。リニアなら岐阜県―山梨県間は30分程度のようだ。エナジードリンクに頼ることもなく、さぞかし疲れ知らずだったに違いない。

瀬戸覚旨(せと・さとし) 地理・地図帳の教科書出版社、新幹線の経済誌などを経て、2014年12月中途入社。西濃支社、中津川支局、生活文化部、現在は本社報道部。埼玉県出身。帰省時は、中央本線(名古屋―東京)を中津川、塩尻、高尾の3回乗り換えで帰りたい「乗り鉄」。

馬田泰州(うまだ・たいしゅう) メディア本部長兼デジタル報道部長。学生時代、シベリア鉄道でモスクワからウラジオストクまで乗った7日間が忘れられない。