放射線治療医 田中修氏

 今日10月26日は「原子力の日」です。1956年、日本が国際原子力機関へ参加した日ということで制定されました。原子力といえば放射線が一番に頭に浮かぶと思います。放射線は原子力発電所などが事故を起こすと非常に重大な事態を引き起こしますが、安全利用をすればがんを治すことも可能です。放射線治療は長年の研究からどこまでが安全か分かるようになり、機械やITの技術向上も相まってがん治療の一つの柱になりました。

 放射線治療医は基本的にがん患者さんしか診察しません。がんだけではなくそれに付随した症状を持った患者さんもたくさんいます。そのうち、疼(とう)痛や吐き気が多いのですが、うつ病になる方もいます。自分がうつ病であることに気が付いていない場合もあり、そのあたりのセルフチェックも踏まえてお話ししたいと思います。

 基本的にうつ病は、患者を無力にする症候群であり、がん患者の約20%がかかります。つまり5人に1人がかかるわけで、医師も本人も見過ごしている場合があります。うつ病に対する間違った考え方として「うつ病に対する治療は役に立たない」というものがあります。

 うつ病の発症を早期に発見し、適切な治療を始めますが、その範囲はカウンセリングから薬物療法や心理療法など多岐にわたります。例えば婦人科がんの患者さんで、リラクゼーションやカウンセリングを行った場合、心理的症状を軽減するともいわれています。またうつ病と診断された患者さんの傾向として、年齢が若かった、社会的関わりが小さかったなどがあります。余命が半年以内の患者さんにおける「他者への負担の感覚」は、うつ病による絶望感や先の見通しが立たないことと関連性が高かったという研究結果もあります。

 うつ病になった場合の対処として、自分で、またはカウンセラー・精神科医と共にできることは①日常生活への積極的な関与を維持する②生活上の役割(例えば、夫婦、親族、会社員)が病気によってなくなるのを最低限にとどめる③病気に対する心の反応をできるだけ正常に調整する④絶望感や無力感などの感情にうまく付き合う、ということです。これらは小さなことかもしれませんがうつ病治療として非常に大切なことです。

 うつ病は見逃されやすい病気です。現在はインターネットからうつ病の点数をチェックできるサイトがたくさんあります。そこで、気になった場合はチェックしてみましょう。実は自分の不安や思い込みだったのがうつ病から来ていると分かることがあります。うつ病は正しい治療をすれば治る病気です。

 最後に注意したいことですが、インターネットにはさまざまな情報があります。怪しい薬やキノコ、軟こうなどを売っているサイトもあります。もし何か購入して試してみたいと思ったらまずは主治医に相談してみてください。正しいうつ病の治療は正しいがんの治療につながっていますので、心の健康も一緒に治療していきましょう。

(朝日大学病院放射線治療科准教授)