泌尿器科医 三輪好生さん
人に相談できないお下の悩みはいろいろありますが、中高年女性においては特に多いようです。陰部のピリピリするような痛み、繰り返す膀胱(ぼうこう)炎などで、クリニックを受診してもなかなかすっきりよくならない症状、それはGSMかもしれません。
GSMは閉経関連尿路性器症候群「Genitourinary syndrome of menopause」の略語で、閉経後のエストロゲンの低下で外陰部・腟(ちつ)が萎縮して皮膚や粘膜が薄くなることにより、外陰部のかゆみや痛み、尿失禁などさまざまな症状を引き起こす症状症候群のことをいいます。以前は萎縮性腟炎、老人性腟炎と呼ばれていたものもこれに含まれます。
代表的な症状は外陰部の痛み、性交痛、繰り返す膀胱炎、頻尿、尿失禁で、閉経後の女性で特に多くみられます。GSMは慢性かつ進行性の疾患であり、中年以降の女性の約半数が関連した症状を持っているといわれています。似たような症状でも他の病気の可能性もあるので、きちんと検査を受けて診断してもらう必要があります。
治療としては女性ホルモンの低下に対してホルモンの補充を行う場合、副作用を考え通常は飲み薬ではなく腟内に入れる錠剤を使用します。それでもよくならない場合はテストステロンの塗り薬を使用することもありますが、保険診療の適応外になります。
外陰部の潤い不足に対しては専用の保湿剤やせっけんなどを使用することも効果的です。皮膚の表面を保護している皮脂が落ちてしまわないように、トイレで温水洗浄の使い過ぎには注意する必要があります。骨盤底筋の緊張が強くなり肩凝りのように固くなっていることがあるので、骨盤底筋をリラックスさせるリハビリテーションも有効といわれています。
女性ホルモンの低下に伴い、腟内の環境を整えている善玉菌である乳酸菌が不足して、腸内細菌である大腸菌などが増えると膀胱炎になりやすくなります。このような場合には乳酸菌製剤の内服が有効なことがあります。腟内に挿入して照射する専用のデバイスを用いてCO2(炭酸ガス)レーザー、エレビウムレーザー、高周波(RF波)・HIFU(超音波)などで腟壁の細胞の活性化を促す治療もありますが、保険適応外であり、一般のクリニックでは受けることができません。治療効果に関しても日本国内でまとまった治療成績はまだ報告されていません。
診断方法や治療法がまだ十分に確立されていないのが現状ですが、潜在的に困っている患者さんは大勢いることが予想されますので、今後の発展が大いに期待されます。