小児科医 福富悌さん
身体活動量は先進国、発展途上国を問わず世界的に低下し、深刻な健康上の問題として捉えられるようになりました。特に高齢者の年齢層では運動不足により運動機能が低下することをロコモティブシンドローム(ロコモ)と呼ばれています。また、加齢による筋肉量の減少および筋力の低下はサルコペニア、身体能力のほか、精神的、社会生活面にも衰えが見られる状態をフレイルといいます。フレイルは介護が必要となる寸前の状態です。これらの状態を回避する基本は運動、食事、社会参加の三つです。ところがこのような運動量が低下しているのは高齢者だけではありません。幼児から小中学生の子どもたちも同じように活動量が低下しています。
テレビゲームの登場から、スマホ、オンラインゲームと進化してきました。そのため、これらによって外で走り回って遊ぶという時間をどんどん奪われ、体を使った遊びは少なくなってきました。気付くと日本の子どもたちのITメディアの接触時間は、世界最長といわれるほどになっています。これは子どもたちの成育環境が極めて困難な状況にあると考えられます。
これについて最近の研究で、幼少期の運動能力が、身体活動量や運動習慣の形成に影響を与えて、青年期以降の健康状態にも反映されることが分かってきました。また、運動は脳内の神経ネットワークにも関わり、成人期以後の認知機能に影響を与えることも報告されています。そのため幼少期の運動はロコモやフレイルの予防のためにも大切です。
この子どもの頃の運動についていくつかの考え方のモデルが示されています。まず、ピラミッド型は、生後の反射・反応の活動から基本的運動能力が形成され、専門的・特異的な運動能力へとつながっていきます。次に砂時計モデルは、子どもの頃からの運動量を砂として表現し、たまった砂をひっくり返すことで、若い時に運動した分だけ、成人期以後にできる運動を表しています。もう一つの山型の考え方は、専門的運動は、どの山を積み上げるかによって違いますが、土台となる運動能力は同じであることを示しています。
1~2歳の子どもの運動能力は判断しにくいものですが、5歳ごろになると判断がつきます。そのため、子どもの運動機能を確かめるために5歳児健診が大切です。子どもの一生を左右する運動機能が心配な場合は5歳児健診を受けましょう。