乳腺外科医 長尾育子さん
乳腺外科の外来には、検診の「要精検」の結果票を持って受診される方が多くいらっしゃいます。乳がん検診を受けた結果要精検となるのは1000人中60人ほどで、その中で乳がんと確定診断されるのは3人ほどです。今日は、乳がんの確定診断に欠かせない病理検査のお話です。
精密検査でマンモグラフィや超音波検査を行った結果、何も異常がないという結論となる場合もあります。しかし、画像検査で乳腺腫瘍が認められた場合には、良悪性の鑑別、病名の確定、腫瘍の病理学的特徴の検索を行うために、積極的に病理検査を行います。
主な病理検査には、細胞診、針生検、マンモトーム生検があります。
細胞診は、細い針を使って乳腺腫瘍から細胞を吸引し、顕微鏡で観察する方法です。この検査は局所麻酔が不要で、体への負担が少ないのが特徴ですが、採取できる細胞の量が少ないため、診断の確定が難しい場合があります。
針生検は、細胞診よりも太い針を使用して組織を採取する方法です。局所麻酔を使用し、多くの組織を採取できるため、診断の確実性が高まります。
マンモトーム生検は、専用の針を使用して機械で吸引をかけながら組織を採取する方法で、一度の穿刺(せんし)で複数の組織を採取することができます。この方法も局所麻酔が必要ですが、より多くの組織を採取できるため、腫瘍の詳細な情報を得ることができます。これらの病理検査は通常、超音波下で行われますが、超音波で判別が難しい小さな石灰化病変に対しては、エックス線を使用しながら行うステレオガイド下マンモトーム生検で組織を採取することができます。
乳がんの組織検査は、病名の確定だけでなく、腫瘍のホルモンレセプター(エストロゲン受容体とプロゲステロン受容体)やHER2(ハーツー)、PDL-1などのタンパク発現の有無を調べる検査も行います。これらの検査結果に基づき、ホルモン療法やHER2に対する標的療法など、効果が期待できる治療法が選択されます。病理検査結果は症例ごとに異なり、その方にとって最も適切な治療方針(薬部治療と手術治療の順番や投与する薬物の種類)を決定する上で非常に重要です。
「乳がん」、これは乳腺にできる悪性腫瘍の総称です。性質が異なれば、全く異なる腫瘍で、治療もそれぞれ異なると言ってよいでしょう。近年、乳がんの治療は目覚ましく進歩しています。乳房に針を刺す病理検査は、ともするとつらい経験ですが、最適な治療の基礎となる情報を示してくれる大切な検査なのです。