11月10~13日、愛知、岐阜の両県で世界ラリー選手権(WRC)の日本ラウンド「フォーラムエイト・ラリージャパン」が開催される。最終日の13日には、恵那市と中津川市が戦いの舞台となる。「世界選手権って銘打っているけどどうすごいの?」「もうチケットは売り切れてるからどうせ見られないんでしょ」「そもそもラリーってどんな競技?」。ラリーなどのモータースポーツではさまざまな専門用語が飛び交い、正直に言ってルールも少し分かりづらい。しかし、「よく分からないから」という理由でスルーするのはあまりにももったいない。自称・岐阜新聞社モータースポーツ宣伝部長の記者が、できる限り分かりやすくラリーとラリージャパンの魅力をお伝えしたい。キーワードは「スペシャルステージ」「レッキとペースノート」「リエゾン」「サービス」だ。
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ラリーとは、公道を走ってタイムを競う自動車競技の一種。F1などサーキットで行われるレースとは異なり、出場する車が一斉にスタートし、最初にゴールをした車が優勝―というルールではない。ラリーでは車が1台ずつ一定の間隔を置いてスタートし、決められた区間を走ってタイムを計測。それを何回も繰り返し、合計タイムの速さを競う。車には運転をするドライバーと、道順を案内するナビゲーター役「コ・ドライバー」の二人が乗車するのが特徴だ。
ラリーの最高峰がWRC
そんなラリーの最高峰に位置付けられるのが世界選手権であるWRCだ。ヨーロッパを中心に中南米、アフリカ、アジア、オセアニアなど世界各国を年間を通じて転戦し、各国のラリーの順位によって与えられるポイントで選手権を競う。ラリージャパンはWRCの最終戦として開催される。
具体的にどんなところに注目して観戦すればいいのか。ラリーを楽しむ上で欠かせないポイントを掘り下げていきながら、ラリージャパンの見どころを一つ一つ紹介していく。
「スペシャルステージ」
ラリーカーがタイムアタックをする区間を「スペシャルステージ(SS)」と言い、走る順にSS1、SS2と表す。大会最終日の最終SSは「パワーステージ」と呼ばれ、このステージの順位に応じてボーナスポイントが与えられる。
ラリージャパンでは4日間で19のSSを走る。うち一般チケットが販売された観戦エリアは9カ所。残念ながらSSのチケットは完売してしまっている。
ラリージャパンのコースは全てターマックと呼ばれる舗装路面で行われる。ラリーと聞くと、車が土煙を巻き上げながら走る姿を想像する人も多いと思うが、そういったシーンはグラベル(未舗装路)ラリーで見られる光景だ。
全日本ラリー選手権で9度の総合優勝を誇り、ターマックラリーを得意とする勝田範彦選手は「見た目の派手さはないが、ラリーカーの速さを存分に味わえるはず」と見どころを語る。ターマックと言っても、車が1台ずつ走るたびに泥などがコース上に出るなど路面の状況は刻々と変わる。「砂利や落ち葉、ぬれた箇所に乗るだけでタイヤのグリップレベルが極端に変わるため、グラベルやスノー(雪道)に比べるとすごく難しいんです。僕でも走っていて恐怖を覚えるほど。ラリージャパンはドライバーの力量が試されるラリーになりそうですね」。そう話す勝田選手も今回のラリージャパンに出場する。WRCにフル参戦している貴元選手との親子そろっての熱い走りに注目したい。
「レッキとペースノート」
「レッキ」とは、ドライバーが本番前にコースを試走すること。いわゆる下見である。実はラリーでの戦いはすでにこのレッキから始まっているのだ。
レッキは決められた日時でしか行えず、多くはラリーが行われる週の火曜日と水曜日に設定される。ドライバーとコ・ドライバーはコースを一般車(競技車両は禁止)で走り、コースの情報を「ペースノート」に書き込む。本番では、このペースノートをコ・ドライバーが読み上げてドライバーに指示を送る。
全日本選手権に参戦する美濃加茂市出身のラリードライバー兼松由奈選手にペースノートを見せてもらった。そこにはアルファベットや数字が並ぶばかりで、素人には何が書いてあるのかさっぱり。「ペースノートにはカーブのきつさ、ストレートの長さ、路面のギャップ(凹凸)、落ち葉や砂の有無などを書き込みます」と兼松選手。例えば、数字の1~7はカーブの曲がり具合を表しており、1は最も曲がり方がきつく、数字が大きくなるほど緩やかになる。RはRIGHT(右)、LはLEFT(左)の頭文字で、緩い右コーナーは7R、きつい左コーナーは1Lなどと書くという。この書き方は基本的にどのドライバーも共通らしい。
兼松選手の場合、レッキ後にコ・ドライバーと再度録画した走行動画を見返して、見落とした情報などをペースノートに追記するという。「ここは砂が出やすい」「このコーナーはインベタで」といった目には見えない路面の特徴や最適な走行ラインなども書く加えることで、ペースノートの精度を高めていく。ここでは両ドライバーの経験値と想像力が物を言う。同じく全日本選手権に出場する三枝聖弥選手=恵那市長島町=はこう語る。「ペースノートの完成度は速さに直結します。ペースノートに自信があれば、先が見えないコーナーでもアクセルを踏んでいけるんです」
「リエゾン」
SSから次のSSまでの移動区間を「リエゾン」と呼ぶ。ラリーカーは自走で移動するわけだが、このときは一般の車と同じく交通法規を守って走らなければならず、スピード違反などを犯せば容赦なく反則切符を切られる。逆に、観戦者にとっては走るラリーカーをじっくりと見ることができるチャンス。リエゾン区間は無料で誰でも沿道などから見ることができる。
リエゾン観戦のコツについて、三枝選手は「リエゾンではぜひドライバーに向かって手を振ってみてください。ドライバーにも観客の姿がよく見えますし、ファンの応援はうれしいですから。手を振り返してくれるかもしれませんよ」と話す。推しのチーム、ドライバーを決め、うちわや横断幕といったグッズを手作りするのもお勧めだ。
「サービス」
「あと3分で(車を)出すぞ」。ラリーカーの周囲を慌ただしく動き、作業をする何人ものメカニックたち。SSを走り終えたラリーカーは、チームのメカニックたちが待ち構える「サービスパーク」と呼ばれる場所で整備や修理を受けることができる。しかし、サービスを受けられる時間は限られる。コースアウトやクラッシュなどを喫し、車が大破して帰ってくることもある。制限時間内にいかに万全な状態に直して送り出すか。サービスはもう一つの戦場であり、ショーでもある。
10月に高山市で開催された全日本選手権では、初日のSS3とSS4の間に20分、SS6終了後に45分のサービスが認められた。45分のサービスでチームはどんな作業をするのか。トヨタGR企画部モータースポーツ推進室の新井健悟さんに聞いた。「通常は足回りなどの部品の緩みのチェック、ブレーキのエア抜きといったルーティン作業を行い、ドライバーに車の動きについて聞きます。『足の動きが悪い』という報告を受ければ、アライメントの調整やセッティングの変更を試みます」。では、車に大きなトラブルがあった場合はどうするか。「ドライバーから症状を聞き、とにかく走れる状態にもっていきます。例えばトランスミッションの故障だったら、45分あれば交換してしまいます。車に触れる人数はルールで決まっているので、チームの連携プレーは見ものですよ」
ラリージャパンのサービスパークは、豊田スタジアム(愛知県豊田市)に設けられる。新井さんは「サービス中は、お客さんがドライバーに近づくチャンスでもあります。ヘルメットを脱いだ姿を見られるのはここだけ。ファンサービスをしてくれるドライバーも多いですから、サインをもらうならここです」と教えてくれた。車やドライバーとの距離感の近さは、F1など他のモータースポーツにはない魅力の一つ。サービスパークのチケットはまだ購入可能(11月3日時点)なので、SSでの観戦をあきらめていた人にはぜひお勧めしたい。
工程表を参考に観戦を
ラリーの魅力や見どころについてイメージしていただけただろうか。
最後にアドバイス。ラリー観戦には主催者が公開する「アイテナリー」と呼ばれる行程表を参考にすると良い。何時にどの場所をラリーカーが通過するのかが書かれており、アイテナリーを基に自分なりの観戦計画を立ててみよう。ラリー会場は非常に広範囲だが、SS、リエゾン、サービスの全てを見ることも不可能ではない。
観戦者も参加者
ラリーでは観戦者のことを「スペクテイター」と呼ぶ。スペクテイターもラリーの一部であり、一緒にイベントを盛り上げる〝参加者〟という位置付けだ。モータースポーツには危険が伴うため、観戦ルールを守ることが第一。その上で12年ぶりに日本で開催される世界最高峰のイベントを大いに盛り上げ、楽しんでほしい。







