仕事内容や仕事に対する考え方などを聞く生徒=高山市下之切町、門造園土木
同じ寝屋親にお世話になる生徒が集まり、情報を共有する寝屋子会=同市上岡本町、松倉中学校

◆職場体験、郷土愛も育む

 高山市上岡本町の松倉中学校は、キャリア教育の一環として、1人の生徒が3年間にわたって1人の事業主と関わり、生き方などを学ぶ「まつくら寝屋子(ねやこ)プログラム」を行っている。本年度で3年目に入り、生徒は、夢や「なりたい自分」の実現に向かって地域の大人から多くのヒントを得ている。

 プログラムは、三重県答志島に残る「寝屋子制度」を参考に作られた。もとは中学を卒業した男子が自分の家を出て世話をしてくれる人の家で寝泊まりし、結婚して独立するまで過ごす制度で、その間に漁の仕事を教わったり冠婚葬祭のルールを学んだりする。松倉中では地域の事業主を寝屋親、通う生徒を寝屋子とし、寝泊まりはしないが、1事業所に各学年1~2人が継続的に通う。寝屋親には、校区内を中心に110人(事業所)が協力している。食品製造や伝統工芸、建築、福祉、農林業、保育園など業種はさまざまだ。

 地域の働く人と関わることで、郷土教育や将来地域を支え活躍する人材の育成につなげる目的もある。3年の村山史侑さん(14)は古い町並みにある飲食店主が寝屋親。「いろいろな話から高山を大事にしていると感じて、私も地元を大切にしたいと思った。都会で働きたい気持ちが大きかったけれど、高山で働こうかなという気持ちも少し大きくなった」と気持ちの変化を語る。

 本年度のプログラムでは、1年生は春に事業所を数カ所訪問、秋に職場見学し、2年生は春と秋に職場体験をする。3年生は修学旅行で東京を訪れ、大企業や中小企業を見学、高山と比較して違いや優れたところなどを学ぶ。夏休みに、その研修で感じたことを報告しに行く。その他、礼状や年賀状のやりとりを行う。

 同じ事業所に世話になる1~3年生が集まり交流する「寝屋子会」も開く。村山さんは後輩に「人前に出るので、笑顔や明るさを忘れないことや、従業員へのあいさつを大事にするよう伝えた」という。

 プログラムを通し、家庭や学校とは違う社会の中で別の関係を築く。柏木憲司校長は「社長らが自分だけにアドバイスをくれる。親や先生とは違う関係だからこそ素直に受け入れられることもあるだろうし、普段の生活にも変化が出てくるはず」と語る。特別養護老人ホームに通う2年の大田結心さん(14)は「最後まで責任を持ってやることの積み重ねが信用につながる」と言われた言葉が印象に残っている。「最後まで関わり続ける自分」になれるよう「クラスで困っている人がいたら助けたい。班長をしてる時には、信頼してもらえるよう最後までやりたいと思う」と話した。

 村山さんは寝屋親に将来のことも話した。「諦めようとしていた夢のことを話した時には、『頑張って。笑顔がいいよ』と後押ししてくれてうれしかった」と笑う。柏木校長は「長く関わることで、1、2日間の職業研修だけではしない深い話ができる。将来のために生き方や考え方をしっかり学んできてほしい」と語った。