ロシアによるウクライナ侵攻や新型コロナ禍で世界は騒然としている。毎日の生活は輸入に頼る。もし輸入が止まったら、岐阜に住む私たちは食べていけるのだろうか? そんな疑問から、岐阜新聞の記者(47)が岐阜県産食材だけで1万分(約1週間。1週間は1万80分)暮らした。見えてきたのは「買う」以外の選択肢を持つことの重要性だった。

かんたん検索! 岐阜県・東海のイベント お出かけ情報総合サイト「ぎふっと!」


INDEX
■県産食材だけで過ごした1週間
■食べ物「買う」以外の選択肢を
■10年後「コメ」は希少価値?


 

 岐阜新聞社はニュース動画に力を入れています。岐阜新聞のYouTubeチャンネルを2017年5月に開設。これまでに約1400本の動画を公開し、23年1月に登録者1万人を超えました。読者、視聴者の皆さまに感謝するため、今回「1万」にこだわった記事と動画を用意しました。ぜひ動画もご覧ください。

 そもそも岐阜県産の食材とは何か。飛騨牛は岐阜県産だ。だが、餌は県産とは言いがたい。日本の家畜飼料の自給率は25%程度、餌の主原料であるトウモロコシは国外に依存しているという。輸入がストップしたら餌は止まる可能性が高い。この企画では、肉や卵、牛乳は残念ながら対象外とした。海がないのだから、魚はもちろん淡水魚だけだ。調味料は制限しなかったが砂糖は最低限とし、お菓子は禁止。パンやビールはNGとした。

初日のランチは持参した弁当。ご飯、漬物、煮たシイタケ=岐阜新聞社本社

 【1日目・1月13日(金)】体重は72・1キロ。朝食は焼きみそおにぎり、熟した柿など。ジュクジュクの柿、あまり得意ではないが、輸入ストップの想定。ぜいたくは言ってられない。食べるとゼリーのようでおいしい。

 出社。仕事をしているとやけにおなかが減る。ランチはお弁当。大根葉ふりかけご飯、シイタケの煮物、白菜の漬物。

 夕食は会社で梅干しのおにぎり、煮シイタケ。物足りない。わかめのおにぎりが好きなのだが、わかめは岐阜県では生えない。

夕食の大根ステーキ=岐阜新聞社本社

 【2日目・1月14日(土)】朝食はご飯、だしなしみそ汁など。かつお節も昆布も岐阜では取れないので、だしはなし。まずくはないが、おいしくはない。

 自宅で昼食。蒸しキャベツにショウガじょうゆ。午後から出社。仕事の合間にお弁当。大根ステーキだ。

 帰宅。あす、豆腐を作ると決めた。この取材のための準備はあえてあまりしなかった。輸入が止まるなんて大事件は、おそらく急に起こるだろうから。東日本大震災もそうだった。危機は突然起きる。だが、中津川市の会社から豆腐作り器だけ買っておいた。家に1年前の県産大豆もある。洗い、水に浸した。

自家製豆腐と鹿肉の鍋。豆腐は豆の香りが濃厚。鹿肉は硬く、焼いた方が食べやすかった=岐阜市内の自宅

 【3日目・1月15日(日)】朝ご飯は梅干しおにぎり、焼きネギ。近くの産直市場で鹿肉を購入。ブロック肉800グラムで1944円。ラベルには「原産地 岐阜市」とある。これは食べられる。昼食は柳ケ瀬で持参したおにぎり。

 帰宅し、夕食の準備をする。メニューは自家製豆腐と鹿肉の鍋。豆腐を作るのは初めてだ。ここで疑問を抱く。海のない岐阜ではにがりが取れない。いざとなったら豆腐も作れないのか?

 鹿肉は薄く切って鍋へ。硬い。方針を変え、塩コショウしてごま油で焼く。こちらが正解だった。うまい。鍋はだしを入れていないのでポン酢で食べる。

 美濃加茂市産のコメを使った日本酒を購入しておいた。県産に限定しても、ぜいたくな食卓は可能だ。これは強がりではない。

いただいたアジメドジョウなど。非常においしかった=岐阜市内の自宅

 【4日目・1月16日(月)】朝食は雑炊。ランチは取材先の郡上市で持参した弁当だ。ふたを開けるとご飯の上に鮎の甘露煮が1匹。なかなかインパクトがあるが、この甘露煮は岐阜市の産直市場で買ったもの。おそらく養殖鮎だ。養殖鮎の餌は県産かどうか分からない。残念ながら残した(後日食べた)。

 この取材先でうれしいことがあった。郡上市の川で取れた小魚を約1キロもらった。アジメドジョウやカジカも入っている。帰宅後、妻が甘露煮に。これが素晴らしくうまい。山椒をかけると味に奥行きが出た。こんなにおいしいものがあるのか。大発見だ!

 おやつを発見できたことも大きい。地元産の干し柿だ。郡上市の道の駅に立ち寄った際に見つけた。久々に甘いものを食べた。

持参した弁当。おかずは梅干し、小魚の甘露煮、おから=岐阜新聞社本社

 【5日目・1月17日(火)】朝食はおからとだしなしの白菜みそ汁とご飯。先日、豆腐を作った際のおからだ。ランチは会社で弁当。おやつに郡上で買った干し柿と、後輩からもらった岐阜県産の手作り干し柿。人生最高の濃度で干し柿を食べている。

 夕食は自宅でみそ煮込みうどん。県産小麦で作ったうどんだ。だしはない。肉や油の摂取を制限しているからか、やせてきた。

ランチは焼きいも。700グラムほどあった=岐阜新聞社本社

 【6日目・1月18日(水)】朝食は雑炊。昼食の弁当は県産の約700グラムの焼きいも。まきストーブで焼いて中までほくほくだが大きすぎる。半分で飽きた。夕食はおにぎり(小魚の甘露煮入り)とリンゴ。肉を食べていないからか、お腹に力が入らない。

最後の食事はシイタケのおにぎりとリンゴ=岐阜新聞社本社

  【7日目・1月19日(木)】最終日。妻は「やっと献立を考えなくてすむ」とこぼす。申し訳なかった。朝食は白菜と昨日の残りの焼きいものみそ汁、ご飯。ランチは出張先で持参した弁当。最後の夕食は会社でおにぎりとリンゴだった。

 最終日の夜、体重を測ると70・1キロだった。1週間で2キロやせた。今回の企画の趣旨から考えると歓迎すべきことではない。必要なカロリーが足りていないことになる。



 もっとも、この企画は当初から結論が分かっている。輸入がストップしたとき、岐阜県産食材だけで生きていけるか。答えは「できない」。岐阜県の食料自給率(カロリーベース、2020年度)は24%だ。全然足りない。そもそも日本の自給率(同)が37%。輸入が止まれば私たちは飢える。

「買う」以外の選択肢が安心・安全構築

 輸入が止まらないよう国に外交してもらうにせよ、私たちはどうすればいいのだろう。期間中、取材先で印象に残った言葉がある。「買う、以外の選択肢を意識的に持たないといけない」。

 岐阜では、買わなくても生きていける手段が実は豊富だと思う。作る、育てる、採取する、もらう、あげる。「買う」以外の手段が人と人のネットワークをつくり、有事にはセーフティーネットになるのではないか。

 安全や安心は、日頃から自ら丁寧に構築していくことが必要なのだと思う。それに気付かせてくれた1万分だった。

10年後、毎日コメ食べられない?

 農業に詳しい岐阜大応用生物科学部の大場伸哉教授(60)の話

 もし本当に輸入が止まって、岐阜県民が県産だけで生きていくことになったら、暮らしは江戸時代に戻る。

 燃料と化学肥料、家畜用飼料が入ってこないことが大きい。燃料がないとトラクターなど農業用機械が動かせない。化学肥料がないと収穫量が減る。今、コメは10アール当たり約500キロ取れるが、化学肥料も堆肥もないと半減すると推測される。化学肥料の原料の一部は日本にはない鉱物で、ほとんど輸入品だ。

大場伸哉教授

 牛や豚の餌もなくなる。日本の飼料の自給率は低い。やがて牛肉や豚肉などの代わりに、人工肉が一般的になるかもしれない。動物性たんぱく質が不足し、県民は再び蜂の子など虫を食べるようになるかも。

 戦争などがなくても、そもそも日本の農業は担い手不足で危機的だ。2020年の農林業センサス(確定値)によると、岐阜県の基幹的農業従事者(個人経営体)の平均年齢は70・9歳。高齢化が進む。

 日本の食卓は今後10年で大きく変わる。人工肉や海外産の小麦粉のパンを食べ、コメは時々食べられる。そうなるかもしれない。