「この子に出会えて、心から幸せです」と話し、笑顔で写真に収まる一家=岐阜市内(一部画像処理をしています)
岐阜県の里親登録数と里親委託率の推移
里親委託までの流れ

 児童虐待や親の病気などで実の親と生活できない子どもを、別の家庭で育てる里親制度。制度の普及が進み、里親になれるよう自治体に登録する人が増えている一方、岐阜県内では登録だけにとどまり子どもを預かるまでには至っていない、いわゆる〝ペーパー里親〟が8割を超えている。5日は「こどもの日」。子どもの健全育成に欠かせない役割を担う里親を取り巻く課題と、その意義をあらためて探った。(山田俊介、桂川景)

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 2019年2月の深夜、岐阜市内の車道の路肩に止まった1台の車から、赤ちゃんの甲高い泣き声が響いた。体重1800グラムに満たない小さな女の子。衣服もまとわず、冷えた車内に1人残されていたという。

 産みの母親は市内に暮らす無職女性=当時(26)=。産気づいて1人で病院に向かったものの間に合わず、車内で出産した。女性は混乱し、赤ちゃんを置いたまま車から離れた。

 「産んじゃったけど、どうしよう」。友人に相談するうちに少しずつ落ち着きを取り戻した女性は、自分で119番通報した。救急隊員が駆けつける頃には産後から約4時間が経過していた。

 女の子は脳内出血を起こし、低体温症を併発。感染症にもかかっていた。対応に当たった救急隊員が「この子は助からない」と思うほどに衰弱していた。

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 岐阜県関市の町工場で働くヒロさん(52)=仮名=と妻アキさん(49)=同=は、結婚して10年になる。子どもを望み、不妊治療を3年続けた。治療費は「新車が1台買えるぐらい」にまで膨らんだ。

 体調の悪化もあり、治療を諦めかけていた頃、里親制度の説明会に参加した。「血のつながりは関係ない」。そう考え、2人は里親になることを決心する。座学研修のほか、乳児院のボランティア活動に励み、実際に子どもが委託される時に備えた。

 「受けてもらいたい赤ちゃんがいる。女の子です」

 里親登録を終えてから1カ月がたった頃、子ども相談センター(児童相談所)から電話があった。担当者は続けて「障害があるかもしれません」と告げた。出生時の脳内出血などの影響で、その女の子は半身不随になる可能性があるという。返事は3日後に迫られた。

 「この子との縁を大切にしたい」。2人は迷いなく受け入れを決めた。委託を打診されれば、子どもの特徴にかかわらず、一生懸命に育てると決めていたからだ。退院する女の子を迎えに病院へ行くと、足をばたつかせて笑っていた。

 優しく、周りを助けられる人に育ってほしいとの願いを込めて、名前を付けた。真冬の車内で産まれるといった経緯は、3人での生活が始まった後で関係機関から知らされた。受け入れから1年ほどたって養子縁組し、3人は親子になった。

 結愛(ゆあ)ちゃん=仮名=は出生時の脳内出血の影響で右耳がほぼ聞こえず、夫妻はベビーサインを使ってコミュニケーションを取った。ミルクは1回当たり3ミリリットルほどしか飲まなかった。ヒロさんは「いつ息が止まるか心配で、眠れない日が続いた」と振り返る。

 結愛ちゃんは今年、4歳の誕生日を迎え、元気に成長している。アキさんは「命が助かり、家族になれたことは奇跡。この子に出会えて、心から幸せです」とほほ笑む。

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 実の親と過ごせない子どもたちにとって、里親制度は、より家庭に近い環境で過ごせる点でメリットがある。自宅で5~6人の子どもを預かる「ファミリーホーム」などと共に、国が普及を推進している。

 里親になるには、都道府県などへの事前登録が必要になる。岐阜県の場合、子ども相談センターや子ども家庭支援センターが相談を随時受け付ける。希望者は研修を受けた上で申請書を提出し、両センターの家庭訪問を経て、登録が完了する。

 岐阜県内の登録者は増加傾向で、13年度の145世帯から22年度には255世帯(21年度比17人増)となり、過去最多を更新した。一方、このうち8割以上は子どもの受け入れにまでは至っていない。

 里親やファミリーホームで生活する子どもの割合を指す「里親委託率」は21年度、岐阜県は16・4%で、全国の都道府県ではワースト5位。トップの宮城県は40・7%と地域差が大きい。岐阜県は20年に、29年までに約40%に引き上げるとの目標値を設定している。

 委託率が伸び悩む現状について県子ども家庭課は「分析を急いでいる」としつつ、心的外傷を負った子などを預かる「専門里親」が少ないことが一因とみている。

 21年度に県内の子ども相談センター(児童相談所)が対応した児童虐待に関する相談は、過去最多の2390件。専門里親になるには3年以上の里親経験や研修の受講などが必要だが、県内ではわずか8世帯。県内での委託は2年連続でゼロが続いている。

 日本福祉大の堀場純矢教授(社会福祉学)は、里親委託率が伸び悩む自治体の傾向として「マッチングの困難さや実の親が同意しないケースなどがみられる」と指摘する。「数値目標ありきでなく、行政側が里親への支援体制や、より実践的な研修を整備する工夫などが必要ではないか」との見解を示した。

山田俊介(やまだ・しゅんすけ)2012年入社。岐阜市政担当、司法担当を経て、22年6月から県警担当。本社遊軍、ひだ高山総局、羽島支局にも勤務した。1児の父。春から福祉系大学で学び直しを始めた。
桂川景(かつらがわ・けい)2022年入社。警察担当を経て、デジタル報道部。愛知県内の大学で社会福祉を専攻し、第34回社会福祉士国家試験に合格した。児童養護施設や児童相談所での実習経験がある。