待望の初勝利を飾り、喜びをかみしめる深沢杏花騎手(笠松競馬提供)

 「深沢杏花、ゴールイン。ルーキー、これが初勝利です」と実況アナの声がインターネット越しに響き渡った。デビューから36戦目、待望の初Vに18歳少女は涙をにじませた。

 1日にデビューしたばかりの深沢騎手(湯前良人厩舎)。15日の第6レース(1400メ-トル)、圧倒的な1番人気・プラピルーン(牡4歳、井上孝彦厩舎)に騎乗し、鮮やかな差し切り勝ち。笠松競馬生え抜きの女性騎手としては、2000年9月27日の中島広美さん以来20年ぶりとなる勝利。
  

1番人気のプラピルーンに騎乗し、ゴールを目指す深沢騎手(笠松競馬提供)

 プラピルーン騎乗では、2日に不運なレース取り消しとなり、仕切り直しの一戦。「体調は安定していて、距離も歓迎でき、楽に行ければ」と厩舎サイドの仕上げは万全。好スタートを決め、3番手から追走。4コーナー手前から外を回って一気に先頭を奪うと、最後の直線では、筒井勇介騎手騎乗のライトリーを突き放して5馬身差。力強い手綱さばきを見せて、愛馬でぶっちぎりの勝利を飾った。

 無観客ではあるが、ネット越しから大勢のファンが声援を送ってくれ、感謝の初勝利インタビュー。「(なかなか勝てなくて)とても長く感じました。乗る前はすごく緊張していましたが、1着でゴールできてホッとして涙が出てきました。関係者の皆さんに感謝でいっぱいです」と、初々しい受け答えでスマイルいっぱい。

 ファンへは「やっと1勝することができました。次からも勝てるよう頑張るので応援してください。これからも一鞍一鞍大切に乗って、1勝ずつ積み重ねていきたいです」と闘志を燃やした。

初勝利インタビューで「1勝ずつ積み重ねていきたい」と喜びを語る深沢騎手(笠松競馬提供)

 初Vをプレゼントしてくれたプラピルーンはここ6走、1着、2着を交互に繰り返し、今回は勝つ番でもあった。昨年7月から半年間の笠松実習では、攻め馬で騎乗した馬。地方競馬教養センターに戻ったが「大塚研司騎手がいつも調教してくださっていた馬で、仕上げてもらったからこそ、勝つことができました。レース前には佐藤友則騎手にゲート内での姿勢を教えてもらい、そのおかげでうまくスタートすることができました。周りの方のサポートがあったからこそ達成できた初勝利です。本当に感謝しています」とも。

 初勝利のゴール後には、佐藤騎手らから祝福を受け、涙をちょっと見せていたそうだが、装鞍所に戻るとすぐにいつも通りの笑顔に。みんなから「おめでとう」と声を掛けられて「1勝の重み」をかみしめていた。
 
 この春、新型コロナウイルス感染防止のため、笠松競馬場内の景色は様変わり。「女性ジョッキー誕生」と注目されていたが、深沢騎手には試練が待ち受けていた。1日のデビュー戦は、雨の中での無観客レースで、華やかに行われるはずだった歓迎セレモニーにファンの姿はなかった。

 翌2日は、初勝利を挙げる大きなチャンスがあった。馬主の吉田勝利さんに「デビューしたら乗りたい」と騎乗をリクエストしていたプラピルーンとの一戦。第1コーナーでは先頭に立ったが、ゲート内に厩務員がいたのに発走した事故のため、レースは取りやめ(全馬競走除外)になるアクシデント。まさかの展開にショックがあっただろうし、これ以降は騎乗馬にも恵まれず。なかなか勝利を挙げることができなかったが、仕切り直しとなったレースで結果を出した。

愛馬プラピルーンを囲んで勝利を喜び合った関係者(笠松競馬提供)

 吉田オーナーも「リクエストに応えたのは僕だが、期待に応えたのは彼女。本当に良かった。大塚騎手と彼女の仕上げのおかげです」と喜びのコメント。初勝利を祝う口取り撮影では、プラピルーンを仕上げてきた井上調教師や厩務員らと並び、笑顔がはじけた。単勝1.3倍という断トツ人気で、プレッシャーもあっただろうが、日頃から「1番人気の馬で勝つことは最高にうれしい」と話していた井上調教師を喜ばせた。

 続く第7レースでは、もう一つうれしいことがあった。2日の発走事故で、奇跡的に難を逃れた厩務員が担当していたエネルムサシ(笹野博司厩舎)が渡辺竜也騎手騎乗で5馬身差の圧勝。プラピルーンととも前走でのうっぷんを晴らしたのだった。

 笠松での女性騎手勝利インタビューといえば、関本玲花騎手(岩手競馬所属)のときは盛り上がった。1月から1カ月余りの期間限定騎乗だったが、5勝を挙げる活躍。サインや記念写真で大勢のファンと交流していたが、3月からは誰も予想できなかった無観客開催になってしまった。

 岩手に戻った関本騎手は、笠松で磨いた騎乗技術を生かし、積極的なレース運びで5勝を挙げた。しかし、今月11日、能力試験のレースで落馬負傷し「左側肩関節脱臼、2カ月通院加療」の診断を受けたという。

 関本騎手は深沢騎手の半年先輩で、教養センターで一緒に学んできた。実習生の経験から「笠松はいい所だよ」と所属を勧め、「杏花なら、うまいと思うんで頑張ってほしい」と、岩手に戻る前にエールも送ってくれていた。深沢騎手のデビュー戦では、ライブ中継での観戦を呼び掛けてくれたし、仲の良いお姉さん的存在。「好きです笠松競馬。来年も期間限定騎乗で来たいです」と笠松が気に入った様子だった関本騎手。ファンの前で、深沢騎手と同じレースで腕を競える日が来るといいが。

 深沢騎手は17日まで50戦して1勝、2着3回、3着4回。騎乗機会には恵まれており、初星を飾った15日には計9レースも乗った。新型コロナウイルスでの移動制限があって、名古屋での騎乗は当面なさそうだが、地元・笠松でのレースに集中。早朝の攻め馬から、持ち前の元気さで笑顔を忘れずに頑張っていきたい。

 馬主さんをはじめ、先輩騎手や厩舎スタッフに温かく見守られて初勝利を挙げ、大きな一歩を踏み出すことができた。深沢騎手のジョッキー人生は始まったばかりだが、今年の目標は「30勝以上」という。次は自厩舎の馬で1着ゴールを飾るなどして、笠松競馬を盛り上げていってほしい。