【準決勝 市岐阜商2―0県岐阜商】

 〝負けないチーム〟県岐阜商の3連覇への挑戦は終わりを告げた。「チャンスで1本が出なかった。踏ん張り続けるエースの今井(翼)を援護することができなかった」。2度の主将交代、能力がありながら結果が出せなかった今チームを高めてきた主将小林凜人は、涙をこらえながら語り、思いを創部100年世代の2年生以下に託した。

市岐阜商×県岐阜商=3回裏県岐阜商2死、小林凜がチーム初安打となる左前打を放つ=長良川球場

◇能力が発揮できないチームが見事に進化

 新型コロナウイルスへの感染で、主力多数がよもやの入れ替えの末、初戦敗退した昨夏の甲子園。「勝負の舞台にも立てなかった先輩たちの思いを果たす」ため、新チームは始動した。能力は歴代の鍛治舎県岐阜商の中でも高く、強豪との練習試合でも勝利する中で迎えた秋季県大会。準々決勝で大垣日大に3―9で大敗を喫した。

 「こんなはずではなかった」と悔しさをかみしめ、コロナ禍で中断していた年末年始の熊野合宿を3年ぶりに復活。2度の主将交代を経て就いた小林凜を中心にナインは再起を誓った。掲げた目標が「練習試合から勝利にこだわって、負けないチームになる」。合宿での個々の成長はめざましく、見違えるチームに生まれ変わった。

 今春は県を制し、東海大会でも選抜出場校の東邦(愛知)を下すなど準優勝。一番欠けていた〝自信〟という武器を手に粘り強い負けないチームとなって、3連覇をかけた岐阜大会を迎えた。緩い球を打つ、継投の確立など課題をクリアしつつ、階段を駆け上がってきた。だが…。

市岐阜商×県岐阜商=7回表のピンチの場面でマウンドで声を掛け合う県岐阜商の森(右)と捕手大東=長良川球場

◇新たな負けないチームへ。創部100年世代の挑戦は始まった

 市岐阜商との準決勝、鍛治舎巧監督が決めた今チーム盤石の継投策「エース今井―2年の森厳徳―最速王小林希」を初披露し、2失点に抑えたが、打線が相手エース森楓真を打ち崩せなかった。

 鍛治舎監督の攻略策は「ストライク率が高いストレートを狙う」。だが、これまであまり投げてこなかった80キロ台のカーブも交えて変化球を多投。後半の修正も実らなかった。

 それでも三回の小林凜、2年日比野遼司の連打、四回の2年生大砲加納朋季の二塁打、終盤の小泉慶の2打席連続安打など、今大会で手にした「しっかり見極めて、甘い球を確実に捉える打撃」は真価を発揮した。だが、チャンスであと一本が出ない。「3連覇は本当に難しい」と名将も落胆を隠し切れなかった。

 先輩たちの思いを胸に主力となるべき2年生は誓う。「どんな相手でも、自分たちのバッティングをやり切れるようになる」と日比野。加納は「大事な場面で打てる選手になる」。エースとして期待の森は「自分が終わらせてしまった先輩たちの夏を教訓に、ここぞという時のストレートのコントロールを磨き、誰にも打たれない投手になる」。

 悔しい夏の終わりの瞬間、好素材ひしめく名門100年世代の挑戦は幕を開けた。〝新たな負けないチーム〟をつくり上げ、戦後初の県勢甲子園制覇に向かって突き進む。

 森嶋哲也(もりしま・てつや) 高校野球取材歴35年。昭和の終わりから平成、令和にわたって岐阜県高校野球の甲子園での日本一をテーマに、取材を続けている。