エスラインギフの前身・岐阜合同産業の設立から70周年の節目に向けて、エスライン社長の山口嘉彦は、役員会で「次のステップとして東証への上場を目指す」と宣言した。3年ほどかけて準備を進め、目標に掲げた70周年記念日の2017年3月10日、東証2部への株式上場を果たし、翌年3月20日には東証1部に指定替え、名証1部にも上場した。

 「銀行の金利は低く、市場からの資金調達の色合いは薄くなっていた」。上場は、資金調達より会社の知名度を高めて取引の拡大、社員の採用に生かすのが狙いだった。「この頃から社員の採用には苦労していた。東証に上場すれば、会社のネームバリューが上がり、採用しやすくなる」と考えての決断だった。

 東証に株式上場を果たし、東京証券取引所から贈られた記念の盾

 70周年の式典は開かず、会社をアピールしようと7月に記念事業を展開した。会社発展の礎を築いた昭和40~50年代の象徴として、本社で唯一保存していたオート三輪トラックを東京、名古屋、大阪などで走らせて注目を集めた。

 車両は1969年式「マツダTVA32S型」。小回りが利き、道路の狭い繊維問屋街などで活用したトラックで、部品を交換して濃緑に塗装し直した。ボディーには岐阜トラック運輸の社章、荷台の幌(ほろ)には「おかげさまで70周年 エスラインギフ」の文字を記した。

 時速40、50キロしか出ないため高速道路は走行できず、東京へはキャリアカーで運んだ。ベテラン運転手が乗り込み、昭和の雰囲気を醸し出すレトロな車体がゆっくりと轍(わだち)を刻み、エスラインギフの社名を都市部の人に売り込んだ。「70周年の感謝とともに、当社の歴史を知ってもらおうと復活させた」といい、業界では粋なプロモーションとして語られた。

 設立70周年記念事業で走らせたレトロなオート三輪トラック。都会の人にエスラインギフをアピールした=2017年7月29日、東京・浅草

 嘉彦は社長をしながら財界活動に励む。父の二代目山口軍治も会長を務めた県経営者協会と県トラック協会は、現在も会長を務めている。

 2021年6月に第15代会長に就任した県経営者協会では、コロナ禍で活動が制限される中、会員企業の関心が高い「働き方改革」の先進事例を調査した。多様な機器を通信でつなぐモノのインターネット(IoT)による生産計画の見える化を進めたメーカーなど10社の事例を冊子にまとめ、経営の参考にしてもらおうと会員企業に配った。22年はポストコロナに向けた取り組みとして、SDGs(国連の持続可能な開発目標)、デジタルトランスフォーメーション(DX)、カーボンニュートラルなど社会課題に関する啓発活動や、行政と連携してデジタル技術を活用した業務の効率化、高付加価値化を担う人材確保、育成支援を重点活動に据えた。

 山口嘉彦が会長を務める県経営者協会が作成した冊子「働き方改革」

 県トラック協会の8代目会長には20年5月に就任した。「新型コロナの影響はあるが、会員の英知を結集して会員事業者のための協会を目指してかじ取りをする」と方針を打ち出し、就任直後、会員企業全884社に非接触型医療用体温計を配った。どこも品薄で価格は高騰していたが、関係団体を通じて調達した。

 二代目軍治が筆頭代表幹事を務めた県経済同友会では、06年から常任理事を務める。同友会の提言活動では、11年に地方経済の活性化を考える委員会の副委員長として、「地産外商地消による地方経済の活性化」に関する提言の取りまとめで役割を担った。地域の企業が強い商品やサービスを産出する「地産」、それを県内外や海外に売り込む「外商」、その利益を地域内で再投資したり、消費活動を行ったりする「地消」をサイクルさせることで、県経済の活性化を狙ったものだった。(敬称略)

 経営や財界活動について語る山口嘉彦=2021年12月21日、羽島郡岐南町平成、エスライン本社