炊き出し会場のそばの路上に住む葉栗宗吉さん(仮名)。何度も話を聞くうちに、撮影を許してくれた=6日、名古屋市中区

 葉栗宗吉さん(62)=仮名=は、名古屋市内の路上に段ボールとブルーシートを組み合わせたテントを構えて3年ほどになる。「名古屋なら炊き出しもある。その日暮らしはできる」。名古屋なら、と前置きしたのは、以前に岐阜県内でも路上生活を試みたことがあるからだ。「岐阜なら(収入にする)アルミ缶が拾えるかなと思って」。直感を信じて木曽川の河川敷にテントを張ったが「食っていけないから、すぐ名古屋に戻ったよ」。

 ホームレスになったのは50代の頃。「公共の場に住まわせてもらってるんだから、このぐらいは」とテント周辺の草取りを日課とし、今では同じ境遇の人とつながって交際相手もいる。当初は「寂しくもないし、気楽だよ」と明るく話してくれたが、何度も話を聞きに行くと、生活保護の申請を断られた経験があることや、3度の離婚で家族と離れ、蓄えも持たないまま家を出て街をさまよったことなどを打ち明け始めた。「自分が死んだら-」と口にし、表情を曇らせることもあった。

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 支援活動に奔走して30年以上になる「野宿者を支援する会」(名古屋市)代表の東岡牧さん(60)は「いま路上にいる人たちには、断絶や挫折など心に傷を負っている人がすごく多い」と語る。訪問看護の仕事をしながら、路上生活者の拠点を直接訪ねて困り事を聞き取り、定期的に食料や衣類などを届けている。

 市内に点在する人々の特徴を書き取ったリストには高齢者を中心に120人の名前が連なり、このうち50人ほどが空き缶を拾って業者に売り、生計を立てている。「空き缶をつぶしているところに声をかけて『最近どうなの』って、いろいろな話をするの」。隣に座って傾聴し、本音を引き出していく。

 一方で、リストに「意思疎通が困難」や「難しい会話ができない」などと付記した人も40人ほどいる。こうした特徴がある理由は、精神疾患や知的障害があるためなのか、はっきりとは分からない。ただ、「貧困への支援だけではなく、精神保健の面でもケアが必要」との思いは強い。

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 ホームレスの「路上からの脱出」を支える資源は民間だけでなく、行政もまた充実しているのが名古屋市の特徴といえる。

 特に施設などハード面の受け入れ態勢は豊富にある。生活保護を受給して入所する「保護施設」だけでも定員200人の救護施設など5施設があり、大垣市に定員70人の1施設があるだけの岐阜県との差は大きい。このうち、単身者だけでなく困窮世帯が一家そろって入所できる「宿所提供施設」(定員27世帯)があるのは全国でも珍しい。

 このほか、生活保護を申請した後、受給要否の判定が出るまでの2週間を過ごす「一時保護所」に加え、生活保護を受給せずに暮らしや就労の支援を受ける定員70人規模の「自立支援事業」も2施設ある。

 しかし市によると、こうした施設の多くが、定員の半数ほどしか入所者がいないという。これほど整った支援基盤に空きがある一方で、高架下にはテントと段ボールがひしめき、連日の炊き出しに列ができるのは、なぜなのか。市の担当者が言う。「今どきの住居のない人は、単に仕事がないだけでなく、隠れた障害など難しい事情を抱えた人が少なからずいる」。民間だけでなく、行政にも同様の認識があった。


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