おじさんには、おじさんの食べたいものがある。「俺たちの岐阜メシ」は、岐阜市在住の食通・山本慎一郎さん(山本佐太郎商店社長)が、年間300日以上の外食生活で出会った“リアル岐阜メシ”を語る連載企画です。第4回は高等ライス。なんと130年前から岐阜で愛され続けています。明治のおじさんも令和のおじさんもとりこにするその味とは。(原則月1回掲載。岐阜新聞デジタル独自記事です)
スマホ見せてグルメ・買い物お得に 岐阜新聞デジタルクーポン◆三河亭は2021年に復活
祖父はカレーライスにソースをかけて食べていた。見慣れない食べ方。興味深々。ソースを舐めた。酸っぱい! 異文化だ! 高等ライスは幼少期の自分と祖父の姿を思い出す。
高等ライスを提供する店は岐阜市に2店ある。全国を調べても他に見当たらない。
三河亭は1894年に岐阜市で初めての洋食店として創業した。2013年に惜しまれつつも休業となったが、2021年に5代目の服部恵美さんが4代目の中島稔さんより味を受け継ぎ、大望の復活! 親子で営まれる。
◆あじろ亭は1907年の創業
あじろ亭は1907年の創業。創業の秘話を3代目の高井富美恵さん聞くことができた。
創業者は高井源左衛門さん、きんさん夫妻。きんさんは幼い頃に母を亡くし、父は行方不明に。そうして三河亭に奉公に出た。ある日、行方不明だった父がお坊さんだった源左衛門さんを連れて帰って来た。
2人は結婚。末広町であじろ亭の前身を始めたが、1921年に伊奈波通の元写真館の建物に移転。1996年には建物の老朽化に伴い取り壊し、装いも新たに現在に至る。あじろ亭の屋号は源左衛門さんの出身地岐阜市網代から名付けられた。
◆牛脂がこだわりポイント
さて、高等ライスはどうやって作るのか?あじろ亭の富美恵さんが教えてくれた。メリケン粉を牛脂で炒める。次にカレー粉を入れて塩コショウ。仕上げにタマネギとマッシュルームを入れる。牛肉は高いけれど、やっぱり味が違うからと富美恵さんはこだわる。
もうひとつのポイントのソース。レシピは秘伝。醤油に酢と生姜が入ってると推測するが真相は秘密。高等ライスの牛脂の甘みとコクには、このソースが欠かせない。酸味が油脂を切る。ひと口、もうひと口と手が止まらない。
高等ライスのネーミングは時代の背景を伝える妙がある。卵は明治時代には高級品で庶民に広まっていく過程。1871年に肉食が解禁され、イギリスから伝わったカレー粉によってカレーライスが普及する。高等ライスとはカレーライスに目玉焼きを乗せたものだが、西洋の食文化を取り入れ日本人の好みにアレンジして提供する文明開化の味なのだ。
明治時代に岐阜で起きたイノベーションが土地に根付き、家族で引き継がれていることが誇らしい。
▶住所 岐阜市八ツ寺町1-2
あじろ亭
▶住所 岐阜市伊奈波通1-65
やまもと・しんいちろう 1975年生まれ。岐阜市で1876(明治9)年創業の老舗油屋「山本佐太郎商店」4代目。油のプロ。南山大学経営学部を卒業後、23歳で家業を継ぐ。業務用卸問屋としてさまざまな油や粉、調味料を取り扱い、現在では東海エリアを中心に約500店舗と取引を行う。庶民派から高級店まであらゆるジャンルの飲食店を巡り年間300日は外食。岐阜グルメに詳しく、トークイベントなどでも活躍する。岐阜市旧中心市街地の通称「岐阜町」で空き家再生などに取り組む不動産業「岐阜まち家守(やもり)」社長も務める。









