VEGF-C/VEGFR3シグナルを軸とするリンパ管機能の破綻と、新たな治療戦略
英国・ロンドンおよび日本・名古屋を拠点とするLYMPHOGENiX Limited(本社:英国ロンドン、Director:岩宮貴紘、松永昌之)と名古屋大学大学院医学系研究科循環器内科学の研究チームは、駆出率が保持された心不全(HFpEF) の進行において、心臓リンパ管密度の希薄化とそれに伴うリンパ管機能破綻が、心臓リモデリングおよび拡張機能障害を規定する主要な病態メカニズムであることを明らかにしました。さらに、この病態に対し、リンパ管新生能を有する心臓線維芽細胞を用いた治療的リンパ管新生が、HFpEFの病態を改善し得ることを動物モデルで実証しました。本研究成果は、循環器領域の国際学術誌『Circulation Journal』 に掲載されました。
HFpEFは、左室駆出率が保たれているにもかかわらず、心筋の拡張障害を背景として心不全症状を呈する疾患であり、世界的に患者数が増加しています。しかし、治療選択肢は限られており、その病態進行を規定する中核メカニズムは十分に解明されていません。
本研究では、HFpEFの進行過程における心臓リンパ管の動態と機能的意義に着目しました。高脂肪食と一酸化窒素合成酵素(NOS)阻害薬(L-NAME)による2-hit HFpEFマウスモデルを用いた解析により、HFpEFの進行に伴って心臓リンパ管が段階的に減少することを明らかにしました。さらに、VEGF-C/VEGFR3シグナルを阻害してリンパ管新生を抑制すると、心筋肥大、炎症、線維化が顕著に増悪し、拡張機能障害が進行することが示され、HFpEFの病態進行がリンパ管機能に強く依存していることが実証されました。
次に研究チームは、この病態仮説を検証するため、リンパ管新生能を有することが既に報告されているVCAM1陽性心臓線維芽細胞(VCF)に着目しました。この細胞は、TNF-αとIL-4刺激により分化誘導され、強力なリンパ管新生能を示すことが既に報告されています(Matsuoka, Y., et al. Sci Rep 15, 32098 (2025))。
本研究では、これらのリンパ管新生能を持つVCFを治療ツールとして用い、HFpEFモデル心臓へ移植しました。その結果、心臓リンパ管新生が促進され、炎症・線維化・心筋肥大が抑制されるとともに、拡張機能障害が有意に改善されることを確認しました。これらの効果は、主としてVEGF-C/VEGFR3シグナル経路を介したリンパ管新生によるものであることが示されました。
本研究は、HFpEFをリンパ管機能の破綻が病態の中核をなす疾患として捉え直し、その病態メカニズムに基づいて、治療的リンパ管新生という新たな治療戦略を示したものです。
こうした知見は、HFpEFの病態解析を通じて、リンパ管機能の破綻が疾患の進行や病態形成に深く関与していることを明らかにしたものであり、リンパ管機能を標的とした治療介入の妥当性を示すものです。
LYMPHOGENiXは、このリンパ管機能の制御および再構築に基づく治療コンセプトを中核に据え、不妊症領域を最初の臨床開発対象として研究開発を進めています。これは、高いアンメット・メディカル・ニーズを有する不妊症領域において、同コンセプトの臨床的価値をまず確立することを目的としたものです。
本研究で得られたHFpEF領域における成果は、治療対象疾患の拡張を直ちに示すものではありませんが、LYMPHOGENiXが不妊症領域で推進する治療プログラムの基盤となる生物学的仮説の妥当性を、独立した形で支持する科学的検証結果と位置づけられます。
【本研究のポイント】
- HFpEFの進行に伴い、心臓リンパ管が段階的に減少することを解明
- HFpEFの病態進行は、VEGF-C/VEGFR3依存的なリンパ管機能に強く依存している
- 既報によりリンパ管新生能を有することが報告されているVCAM1陽性心臓線維芽細胞を治療手段として用いた
- リンパ管新生により、HFpEFの炎症・線維化・拡張機能障害が改善
【論文情報】
タイトル:Therapeutic Lymphangiogenesis Using Induced Cardiac Fibroblasts Protects the Heart From Heart Failure With Preserved Ejection Fraction Progression by Exerting Anti-Inflammatory and Antifibrotic Effects
掲載誌:Circulation Journal
公開日:2026年1月28日
DOI: 10.1253/circj.CJ-25-0757
【本件に関するお問い合わせ先】
LYMPHOGENiX Limited e-mail: info@lymphogenix.com
【HFpEFの病態進行メカニズムと治療的リンパ管新生の概念図】

HFpEFモデル(高脂肪食とL-NAMEで誘導したモデル)では、心臓リンパ管の減少に伴い、炎症、線維化、心筋肥大が進行し、心機能が低下することが明らかとなった。さらに、VEGF-C/VEGFR3シグナルを介したリンパ管新生を薬理学的に阻害すると、HFpEFの病態は一層悪化することが分かった。次に、心臓線維芽細胞を既報の方法によりリンパ管新生型間質細胞(VCF)へと分化させ、HFpEFモデル心臓に移植すると、VCFはVEGF-Cを分泌し、VEGF-C/VEGFR3経路を介してHFpEFモデルの心臓内でリンパ管新生を促進した。その結果、HFpEFに伴う炎症、線維化、心筋肥大が抑制され、拡張機能障害が改善した。これらの結果から、HFpEFはVEGF-C依存的なリンパ管機能によって病態が規定される疾患であり、治療的リンパ管新生が有効な治療介入となり得ることが示された。
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