~新プロジェクト始動!計20,000セットの「お口の防災訓練キット」を配布~
日本歯科医師会は、国民の歯とお口の健康を守る「8020運動」(80歳になっても20本以上自分の歯を保とうという運動)の推進と歯科医療への正しい理解促進を図るため、2018年より「いい歯は毎日を元気に」プロジェクトを開始し、「歯とお口の健康の見直し」啓発活動を展開しています。
2026年11月には防災庁の新設が予定されるなど、社会的に防災意識が高まる中、当会では全国の20代〜60代の男女400名(一般生活者200名/避難生活経験者200名)を対象に、「災害時のオーラルケアに関する意識・実態調査」を実施いたしました。
災害時におけるオーラルケアは、単なるエチケットではなく、誤嚥性肺炎などの関連死リスクを下げ「命を守る」ための重要な行為です。本調査の結果、災害時のお口の健康リスクに対する認識不足や実際の備えの遅れに加え、避難経験者が直面した「水不足下でのケアの限界」が判明しました。さらに、死亡リスクという事実を伝えるだけでは無関心層の意識改革には限界がある実態も明らかとなり、個人の防災意識向上に頼るだけでなく、避難所へのオーラルケア用品の常備といった「仕組み化(環境整備)」の重要性が改めて浮き彫りとなりました。
こうした実態を受け、日本歯科医師会は新プロジェクト『日ごろの”投歯”で笑顔をまもる。~お口から命をまもる防災~』を始動しました。日々のケアを自己投資とする「投歯」を通じて、災害時にお口から命を守るための実践を社会へ呼びかけてまいります。
<「お口の防災」および災害時のオーラルケアに関する意識調査サマリー>
| ●【リスクの認知不足】「重要」と考える人は約8割と高いものの、実際の準備率はわずか29% ‐「重要」と答えた層の4割は誤嚥性肺炎等の具体リスクを知らず、漠然と捉えている認知不足が浮き彫りに。
●【避難経験者の実態・備えの課題】避難経験者の44%がケア不可、「水と物資不足」が障壁に ‐オーラルケアが十分に出来なかった主な理由は「水不足」と「ケア用品の不足」。水なしでできる「代替ケア」の周知と避難所の環境整備が課題。 ‐ガム咀嚼やガーゼ・ハンカチを指に巻いて拭くなど、水を使わないケア方法の認知率は3~4割にとどまる。
●【意識変化の難しさ】災害時のオーラルケアの無関心層(n=104)の約6割(59.6%)は、死亡リスク提示後も意識転換せず ‐危険性を伝えるだけでは動かない“意識の壁”が存在し、啓発(危機感の周知)だけに頼らない「避難所へのケア用品標準配備」など環境整備(仕組み化)の必要性が判明。 |
■調査結果詳細
災害時のオーラルケアを「重要」と考える人は約8割と高いものの、実際の防災準備率はわずか29.6%にとどまる
災害時のオーラルケアについて重要性を尋ねたところ、「とても重要(32.8%)」「重要(46.4%)」合わせて約8割(79.2%)が重要だと認識していることが判明しました。しかし、防災対策として「実際にオーラルケア用品の準備を行っている」と答えた人は約3割(29.6%)にとどまり、意識の高さと実際の備えとの間に大きなギャップが存在する実態が浮き彫りとなりました。
このギャップの背景にあるのが、リスクに対する“漠然とした理解(雰囲気理解)”です。実際、オーラルケアを「重要(とても重要含む)」と回答した層であっても、その41%が災害関連死などの具体リスクについては「何も知らない」と回答しました。多くの人が「お口のケアは大切」と答えつつも、切迫感のない表面的な理解にとどまっていることが、優先順位を下げ、事前準備を後回しにする大きな要因になっていると考えられます。
リスク認知全体について見ても、誤嚥性肺炎等への波及(31.6%)や「命を守ることに繋がる」という認識(29.8%)はいずれも約3割にとどまり、半数近い49.4%が「具体的なリスクはいずれも知らない」という実態が浮き彫りとなりました。
避難経験者の44.4%が災害時のオーラルケアが十分にできなかったと回答。「水と物資の不足」が最大の障壁
過去に避難生活を経験した人(n=250)のうち、「現地でオーラルケアが十分にできなかった」と回答した人は44.4%(「まったくできなかった」9.6%+「あまりできなかった」34.8%)と半数近くに達しました。
ケアが十分に行えなかった・困った理由としては、「水が不足していた・使えなかった」が最多の51.6%にのぼり、次いで「歯ブラシやケア用品を持っていなかった・手に入らなかった(38.4%)」「洗面所がない・周囲の目が気になりケアする場所がなかった(29.6%)」と続きました。個人の備え不足だけでなく、避難所における水やプライバシー環境などのインフラ不足がケアを阻む大きな障壁となっています。
<避難生活経験者のリアルな声(自由回答より抜粋)>
| 「身体の健康だけでなく“心のケア”としても重要」 「単に口腔内を清潔にするだけでなく、気分をリフレッシュさせる意味でも重要だと感じた」 「口内環境を保つことが体の健康だけではなく、心の健康の為にも重要だと感じました」 「長引く断水・水不足を見越した準備が必要」 「断水で水が使えない期間が長かったので、マウスウォッシュやウェットティッシュタイプの歯磨きも準備しておくと安心です」 「防災リュックには歯ブラシを入れるだけでなく、フロスなど日頃使っているものを揃えておくべきだと感じた」 |
また、断水時などに役立つ「水なし・少量の水でできる代替ケア」の認知状況については、「液体ハミガキ・マウスウォッシュ(59.0%)」の認知が約6割である一方、「ガムを噛む(39.6%)」や「ガーゼ・ハンカチを指に巻いて拭く(27.4%)」などの方法は3〜4割程度にとどまっており、断水環境を生き抜くための具体策の更なる周知・啓発が求められます。
災害時のオーラルケアの無関心層(n=104)の約6割(59.6%)は、死亡リスク提示後も意識転換せず
「呼吸器系の疾患が災害関連死の28.4%を占めている」という事実を提示した上で再度意識を尋ねたところ事前調査でオーラルケアの重要性を低く捉えていた無関心層(「あまり重要ではない」「全く重要ではない」「考えたことがない」の合計:n=104)のうち、意識が変わらず「重要だと思わない」と回答した人が59.6%(62人)に上りました。
この結果は、「災害関連死や死亡リスクといった重大な事実(危機感の告知)を伝えるだけでは、無関心層の意識改革には限界がある」という“意識の壁”を示しています。防災におけるオーラルケアを推進するためには、個人の防災意識に頼る啓発アプローチだけでなく、避難所へ「水不要のオーラルケア用品(液体ハミガキや歯みがきシート等)」を標準装備・配備するなどの「環境整備(仕組み化)」を同時に進めることが不可欠です。
| 《調査概要》 ・名称:防災時におけるオーラルケアに関する意識調査 ・調査対象:20歳~69歳の男女 ・調査対象:全国 ・調査期間:2026年10月2日(金)〜5日(月) ・調査方法:インターネット調査 ・有効回答数:500名 (一般:250名/避難生活経験者:250名) |
「日ごろの”投歯”で笑顔をまもる。~お口から命をまもる防災〜」プロジェクトを始動
日本歯科医師会では、本調査結果および2026年11月の防災庁新設という社会的な防災意識の高まりを受け、新プロジェクト「日ごろの”投歯”で笑顔をまもる。~お口から命をまもる防災~」を始動いたしました。
防災啓発との親和性が高い「空港」「オフィス」「学校」の3主要スポットを中心に、株式会社ロッテの協力のもと開発した「お口の防災訓練キット」を計20,000セット配布・設置しています。
2026年9月24日には熊本県の被災地避難所を訪問し、口腔衛生用品の配布を実施いたしました。過酷な避難生活の中で後回しにされがちなオーラルケアの重要性を直接お伝えするとともに、水が出ない状況でも唾液の分泌を促し口腔環境を清潔に保つ「ガム咀嚼」や「唾液腺マッサージ」を現地で紹介。物資不足に苦しむ被災者のお口の衛生状態改善と誤嚥性肺炎リスクの低減に寄与するとともに、被災された方々の心身の負担軽減や笑顔の回復を後押しする支援活動を行いました。
日本歯科医師会は、個人の防災意識向上に向けた啓発活動を継続するだけでなく、本調査で浮き彫りとなった「仕組み化(環境整備)」の実現に向け、自治体や企業と連携して避難所・備蓄拠点への「水を使わないオーラルケア用品の標準配備」の推進を働きかけてまいります。平時からの「投歯」を習慣化し、どんな時でも誰もが笑顔と命を守れる社会の実現を目指してまいります。




















