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オグリの里

笠松競馬、「不祥事のデパート」返上を

立ち上がれ、あしたのために=その7



放馬事故の危険があり、「馬に注意」の交通標識もある堤防道路を横断。円城寺厩舎から笠松競馬場に向かう競走馬

 近年「笠松競馬がまた何かやらかした」と、競馬場内外でのアクシデントで注目されることが増えた。騎手、調教師らの所得隠し・馬券購入事件では7開催連続自粛の緊急事態。オグリキャップや安藤勝己騎手を生んだ「名馬、名手の里」はかつての輝きを失っており、残念なことに競馬界の「不祥事のデパート」にもなっている。

 競馬場と円城寺厩舎は約1.5キロ離れており、厩務員に引かれた競走馬は専用馬道を通って堤防道路などを横断する。「馬に注意」「馬横断」と書かれた標識があり、交通量は多く危険性を伴う。元騎手ら4人が書類送検されて大揺れとなったが、朝の調教時に放馬などで車との衝突事故がまた起きれば、競馬場の存続は一気に厳しくなる。

 馬券購入事件の闇は深く、今後レースが再開されても笠松競馬の馬券を買うファンは減るだろう。売り上げが伸びず、地方競馬のお荷物扱いされないためにも、浄化を進めて汚名を返上していきたい。

 今回はここ10年ほどに起きた笠松競馬のアクシデントを振り返った。岐阜新聞の社会面トップとなるような重大ニュースも多かった。

まさかの「笠松大障害」。整備用トラクター2台がコース内に進入し、人馬の進路を妨害した。5頭は衝突を回避するため進路変更しゴールへ。後方には名鉄電車の姿もあった(オッズパーク提供)

 ■レース中にトラクター進入、「ババヲナラスクルマ」による笠松大障害(2011年1月7日)

 第3レース、最終4コーナーを回って先頭は...トラクター?―。笠松競馬場は木曽川河畔にあり、のどかな「草競馬」的な開放感が魅力の一方で、安全意識に欠ける珍事件も発生した。

 コースを1周半余り走る1800メートル戦。整備用トラクター2台がレース中に進入し、人馬の走行を妨害した。衝突事故は奇跡的に回避できたものの、800メートル戦と勘違いした整備員による人為的ミスだった。実況アナウンサーは異変に触れることが遅れ、ゴール後、トラクターを「ババヲナラスクルマ」と呼び、「直線コースに2台出ております。3レースは審議です」と伝えるのがやっと。「不祥事のデパート」の笠松モード全開となった事件で、ワールドクラスの仰天レースとなった。

 東日本大震災が起きた年で、あれからちょうど10年。「危険過ぎた笠松大障害」として当欄でも紹介したことがあるこのレース。5頭立てで人馬は障害物の間を擦り抜けて無事にゴールしたが、レースは不成立となり、馬券の売上金786万円は返還された。

 先頭の馬(本命・フサイチフウジン)に騎乗し、1着で入線したのは尾島徹元騎手(調教師に転身し、昨年引退)だった。前年には107勝を挙げてリーディング2位。「直前で(車両に)気付き何とかよけたが、とにかく驚いた。頭数が少なく、ばらけた展開のレースだったから、けがなく済んだが本当に危なかった」と振り返り、「こんなずさんなことでは、ファンの信用を失ってしまう」と憤った。衝突のリスクを回避して好騎乗を見せたこのレースでは、フェアプレーぶりが素晴らしかったが...。

 いまだに「これはひどい」とネット上をにぎわすババヲナラスクルマ事件。後方には名鉄電車が迫るように走る姿もあって、笠松大障害の「名脇役」を務めてくれた。

競走馬が逃走した笠松競馬場の装鞍所出入り口。死亡事故後、警備員を増員し、鉄柵の開閉など安全管理の徹底に努めている

 ■競走馬が脱走、軽乗用車と衝突し運転男性死亡(2013年10月28日)

 午前3時ごろ、笠松競馬場で調教中だったコスモビジョン(2歳牝馬)が突然暴れだし、騎手を振り落として場外へ脱走。軽乗用車と衝突し、死亡事故を起こした。

 調教師らが非常ボタンを押し「(鉄柵を)閉めろ」と叫んだが、装鞍所出入り口の警備員は持ち場を離れていたため、鉄柵は開放状態。置き柵などの放馬対策も機能しなかった。脱走した馬は約300メートル東の堤防道路で、男性が運転していた軽乗用車と正面衝突した。軽乗用車は弾みで対向してきた乗用車にも衝突。2人が死傷し、馬も死んだ。地方、中央競馬で前例のない惨事となり、競馬場運営の大前提である安全管理の姿勢が問われた。事件によるレース自粛(1開催)は、昭和の不祥事(1975年、覚醒剤・八百長事件)以来だった。

 2013年の馬の脱走は4度目。2、3月には車と接触し、1人が負傷。4月にはレース前に放馬し、10キロほど離れた各務原市役所近くまで「場外レース」。競走馬が逃走するなどの事故が、1991年以降、15件以上発生。車と接触する事故は少なくとも7件起きている。

 死亡事故を受けて、県地方競馬組合や厩舎関係者は「今度、馬に逃げられて大きな事故を起こしたら、競馬場自体の存続が危ない」と安全管理を強化。馬のかぶり物を着けた職員が装鞍所に向かって走りだし、放馬事故を想定した訓練を行うなど脱走防止に努めてきた。監視を怠り、スライド式門扉を閉めなかったため馬を脱走させたとして、警備員は業務上過失致死傷の疑いで書類送検され、罰金50万円の略式命令を受けた。
 
 ■厩舎内で放馬、JR踏切を渡って住宅街を暴走(2019年6月12日)

 円城寺厩舎内で放馬(4歳馬)があり、住宅街を国道22号線近くまで暴走した。ごみ収集車のエンジン音に驚いて暴れだし、厩務員が握っていた手綱を切って出入り口から逃走。JR東海道線の踏切を渡って走り続け、田んぼで厩務員に捕獲された。

 走行距離は約1500メートル。笠松競馬場のコース(右回り)は1周1100メートルで、右回りで逃げたのはレース経験のある競走馬の習性だったのか。「馬が道路を走っている」という110番通報も相次いで大騒ぎになり、テレビニュースで放映された。付近の防犯カメラの映像では道路中央を猛スピードで走る馬の姿も映し出され、逃走経路の近くには中学校やスーパーなどもあった。この事故でも1開催が中止になった。

 過去の放馬事故では、国道22号の新木曽川橋を渡った暴れ馬もいた(02年4月)。円城寺厩舎から堤防道路を渡るところで逃げ、橋の南100メートルで車と接触事故を起こし、男性にけがを負わせた。円城寺厩舎は、競馬場すぐ東にある薬師寺厩舎エリアへ早期に移転し、放馬・衝突事故を回避させたい。

ゲート内に厩務員がいるのに発走したため、競走取りやめになったレース。ゴールを過ぎて戸惑う騎手たち

 ■ゲート内に厩務員がいるのに発走、レース取りやめ(2020年4月2日)
 
 ゲート内に厩務員がいるのに発走し、レースが取りやめになったこともあった。一歩間違えば人命に関わる人為的ミス。無観客レースで運営面での気の緩みがあった。

 9頭立て、1600メートルのレースで発走委員が真正な発走と認めず、スタートをやり直す「カンパイ」となり、競走取りやめになった。9番枠のゲート内には大原浩司騎手騎乗のエネルムサシ(牡7歳、笹野博司厩舎)を誘導する厩務員がいたが、発走委員がこれを見落としてゲートオープン。前方200メートル地点で「カンパイ」の白旗が振られたが不十分で、騎手たちは気付かず。場内からも「カンパイだ」の声が響いたが、馬はゴールまで走ってしまった。騎手たちは装鞍所前で騎乗馬を止めて「走らせるのは、もう無理」と困惑の表情。1番人気馬で先頭に立っていた深沢杏花騎手はデビュー初勝利はお預けになってしまった。

 ゲート内で馬に蹴られそうになった厩務員は尻もちをついて倒れ込み、打撲を負った。馬主や調教師らは、謝罪に訪れた発走委員らに「(厩務員の)命が懸かっているんだから、しっかりやってほしい」と猛抗議。無観客でのうっかりミスでは済まされない事態となった。

 ■ツイッター上で公開説教、「ウマ娘」協賛レース取りやめ

 「お騒がせ」関係では公式ツイッターでの公開説教があった(19年3月)。笠松競馬の採用内定者と研修担当者とのツイッター上のやりとりが物議を醸した。内容が公開され、閲覧した他ユーザーから賛否の声が上がった。ネット上で炎上し、テレビのニュースやワイドショーなどでも注目を集めた。過熱報道に懲りてか、公式ツイッターはしばらく閉鎖されたが、今回の所得隠し・馬券購入問題でも同様の状態が続いている。

 所得隠しが発覚した今年1月19日には、予定されていた「ウマ娘シンデレラグレイ1巻発売」を記念した協賛レースも取りやめになった。笠松競馬場を舞台にオグリキャップを主人公にした連載漫画の単行本の発売日で、ウマ娘ファンらによる「聖地巡礼」効果も期待されていた。コロナ禍での無観客が一時緩和され、正門やオグリキャップ像などをバックにスマホで記念撮影を楽しむ若い女性らの姿が増えつつあっただけに残念だ。イベントなどでのコラボ企画も計画され、笠松競馬をアピールするチャンスだったが、場内の封鎖が続いている。

 競馬場は敷地の大半が借地で、コースの内側には地主らの墓地があるほか、農家の田畑が広がっている。かつてはレースの合間にリヤカーなどを引いた農家の人がコースを横切ったりし、ファンもびっくり。「レース中の競走馬が柵を越えて、野菜畑に突入してしまった。おなかがすいていたんだろう」とか、「笠松初出走の名古屋の馬が、コース西側を走る名鉄電車が迫ってくるのに驚いて、3~4コーナーで止まってしまった」などと聞いたこともある。

 いろいろとやらかす草競馬場で老朽化も進んでいるが、場内に足を一歩踏み入れれば、日本の競馬史上最高のヒーロー・オグリキャップの銅像が待つパワースポット。のどかな田園風景とともに、昭和時代のレトロ感が色濃く残り、ほっとできるワンダーランドでもある。オグリキャップが笠松出身だと知らない若い世代も多いが、5月にレースが再開されたら、オグリ像がある正門から「笠松デビュー」を果たしてもらいたい。