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オグリの里

笠松競馬の「黒いカネ」実態明らかに

立ち上がれ、あしたのために=その9



昨年のオグリキャップ記念で、内馬場にあるパドックを周回する競走馬

 やはり暗躍していた騎手らの馬券購入グループ。判明した4年間だけでも約1億4000万円の収益を得ていた。現役の騎手、調教師計4人も不正購入に関与。笠松競馬場を覆っていた「深い霧」を一掃しようと、「黒いカネ」の実態が明らかにされた。
 
 笠松競馬の騎手、調教師による馬券購入問題で岐阜県地方競馬組合は1日、第三者委員会がまとめた調査報告書を公表した。競馬法違反の罪で略式起訴された元調教師1人と元騎手3人を含め、現役の騎手2人と調教師2人の計8人が馬券の不正購入に関与。この他にも現役の騎手3人と調教師1人が、情報提供の見返りに現金を受け取っていたことも判明した。今後、対象者は処分委員会での聴聞・弁明などを経て、競馬関与停止などの重い行政処分を受けることになる。 
 
 第三者委は笠松競馬場の関係者133人から面談・聞き取り調査を実施。競馬組合のホームページに掲載された報告書は55ページに及び、踏み込んだ内容で不正行為が洗い出された。

 馬券購入グループの中心的存在だったのは、元調教師と元騎手の2人。2012年ごろから20年までの8年間、メンバー4~8人で、自分たちが騎乗するレースに関する馬券を購入していた。他の騎手に騎乗する馬の調子を聞くなど情報収集を行い、馬券が的中すれば成功報酬を渡していた。特に必要とした情報は「体調不良で勝負にならない」「ただ出走して回ってくるだけ」など馬の悪い調子に関するものだった。

レース開催中、騎手らが缶詰めになる調整ルーム内の娯楽室(笠松競馬提供)

■調整ルーム内、こたつのある場所が不正の温床

 馬券購入の「作戦会議」は、主に調整ルーム内の2階・娯楽室のこたつのある場所で行われ、不正の温床になっていた。調整ルーム内は携帯電話の持ち込み禁止だったが、厳格な取り締まりはなく、容易に持ち込めた。騎手らは外部の協力者と連絡を取り、インターネットで馬券を購入させていた。
 
 娯楽室は騎手らがレース映像を見たり、くつろいだりする場所。2年前、「笠松けいばNews」(ファンクラブ会員冊子)で調整ルーム内が特集されたことがあった。騎手らは食堂やサウナなどでリラックス。娯楽室は騎手仲間と談笑し、心身とも疲れを癒やす場所。その日に騎乗したレース映像を真剣なまなざしでチェックする元騎手3人の姿もあり、「研究熱心ぶり」が紹介されていたが、たまたまだったのか。

 調整ルームでは、レース前日から最終日まで缶詰めになる騎手たち。1階が食堂で、2階に娯楽室やサウナ、3・4階は個人部屋。関係者によると、馬券購入グループの1人だった元騎手が手先になって「夕食の時間に他の騎手を束ね、初日の第1レースから『この馬は来る』」などと話していたこともあったという。食堂というオープンスペースでもレース展開を指南していたのか。「先行馬でも無理やり出遅れたりしていた。みんな、たたけばほこりが出る。クリーンな若手騎手ら5人ぐらいしか残らないのでは」との声もあった。

 八百長行為については、第三者委の調査で複数人から「騎手らによる八百長があった」という供述を得たが、「レースを見た自己の評価によるので、八百長を指摘するレースも一定ではなく、事実を認定するには至らなかった」とした。

 中心的存在の2人は、出走番組表を基に予想の立てやすいレースをピックアップ。出走馬に騎乗する他の騎手らに相談を持ち掛けて、馬の調子を聞き、購入する馬券の絞り込みを行っていた。馬券は主に高配当になる「三連単」を購入。3着以上が見込めない馬を除外。3~6頭に絞り、さらに1~3着の具体的な着順まで予想。少なくて2~3点、多くて12~13点程度の馬券を買っていた。購入金額は1回につき50万円前後になることもあり、馬券の的中率は3割程度だったという。

 12~16年ごろ、グループで買う馬券が決定すると、中心的存在の2人が、調整ルーム内に持ち込んだ携帯電話で、外部にいる協力者(現調教師の妻)に連絡して購入を指示。購入する馬券と金額をメモした写真を送信する形で行われた。13年の馬券購入額は約6500万円で、約1億円の払戻金があり、3500万円ほどを得ていた。情報提供があった騎手には、レース終了後に数万円を渡すことが度々あった。

 騎手らによる馬券に関しても、少なくとも8年間にわたって、最大8人がグループで馬券購入をしていた。自らが競走の公正さに対する社会的な信頼の対象であるとの自覚が欠如。騎手ら同士で安易な情報のやりとり、馬券購入、現金の受け取りの原因になった。

 ■セクハラ問題では「炎上モード」

ゲートからスタートダッシュを決める各馬

 一方で「不適切事案」として調教師によるセクハラ問題も公表され、「不祥事のデパート」は再び炎上モードに突入した。報告書では、現役の男性調教師が女性厩務員らに対して、セクハラ行為を繰り返し行っていたことも認定された。調教師は18年から今年2月にかけて、女性厩務員の尻を触ったり、抱きついたりしたほか、競馬場の出入り業者の女性らに対して、性的な言動を浴びせるなどした。
 
 セクハラ被害の申告を受け、組合は18年に調教師に「注意書」を交付。調教師は「誓約書」を提出したが、セクハラ行為は続いたという。昨春、笠松では女性騎手がデビューしたが、名古屋競馬の先輩騎手から「セクハラに遭ったら、相談してね」とアドバイスを受けたという。「名古屋ではかつてセクハラ訴訟が一時あったが、笠松ではどうかな」と当時は思ったが、「そういうことだったのか」と納得した。

 女性ファンからは「セクハラの話まで出るとは驚きました。笠松競馬にも女性厩務員や女性職員が増えましたから、仕事をやりやすい環境を考えてほしい」と訴えていた。

 第三者委は「不適切事案検討委員会」ということで、最初からセクハラ問題も想定していたのか。報告書には「セクハラ常態化」の記述が計8ページ盛り込まれており、一部のツイッター上では馬券購入問題以上の注目度。このタイミングで出され、結果的には、馬券問題から目をそらさせる形にもなった。

 ■賞金・手当の大幅カットで存続、待遇改善もっと

 報告書の最後では、年間所得が100万円台の騎手が多くみられ、100万円以下の騎手もいることや笠松競馬の賞金の低さについて触れ、このような状況が違法行為につながった可能性にも言及。「信頼を取り戻すため、競馬場関係者が一丸となって経営の問題点を解決し、待遇改善を考慮していく必要がある」との意見も添えた。
 
 これについては、2005年以降、笠松競馬が存続できたのは騎手、調教師、厩務員らの賞金(進上金)・手当の大幅カットの歴史があったからだ。存続の署名活動に力を注いでいた04年11月、「賞金額は既に最低レベル。家族もいて、もうこれ以上は無理」と当時の騎手会長。存続のため、05年には約7億円のコスト削減でぎりぎりの生活に耐えてきた。

 その後も「単年度赤字=廃止」を回避するため、カットは続き、馬券販売が過去最低の100億円台に落ち込んだ10年前には、賞金・出走手当は15%削減された(当初は40%削減の提案)。笠松競馬の賞金を比較すると、オグリローマンが桜花賞でGⅠ制覇を飾った1994年当時のC級特別で140万円。現在は40万円と3分の1以下。賞金・手当は馬券販売額に応じたスライド方式で増額していけるといい。

スタンド前でレースを観戦するファンたち

 今回の問題では、不正に対する怒りのほか、再生を願う声もファンから聞かれた。

 「報告書の内容は『登場人物』の多さに驚いた。いわゆる八百長ではないとのことだが、疑われるような事は最初からしてはいけない。しっかり浄化しないとファンは戻らない。処分が終わって復帰する騎手もいるだろうが、もう前のように応援できないことも肝に銘じて、笠松競馬にはしっかりしてほしい。たくさんの人が関わってしまって、競馬場を存続できるのか。どうやって立て直すのか」

 中心的存在だった元騎手は昨年6月、悲願の重賞タイトル(東海ダービー)を制覇。春の重賞では勝利インタビューで「僕もジョッキー人生そう長くないですから、ラストチャンスのつもりで」と語っており、「あれっ、まだ30代なのに、おかしなことを言うな」と感じたものだが、今となってはその後の「引退」を暗示していたような発言だった。笠松の装鞍所エリアの騎手控室前で「ミニインタビューお願いします」と申し込むと 「僕、高いよー」と冗談を言ったり、勝利を量産して「ミルク代を稼がせてもらいます」と話していたのも印象的。華のあるジョッキーだったが、黒いカネに手を染めていたとは悲しいことだ。装鞍所エリアでは、レース映像を見ていた関係者から「(騎手が)引っ張ってくれたから良かった」などと八百長行為を連想させる声を聞いたこともあった。

 笠松競馬ファンの馬券購入は当然シビア。通常は競馬専門紙「エース」やスポーツ新聞の印通りに売れるのだが、締め切り直前の大量購入などで、時々おかしな配当も見受けられた。元騎手らが騎乗した1番人気の馬があっさり飛ぶことも時々あり、人気のない馬同士の決着でも、異常に配当が安いことがあった。「おかしいぞ。ああ、やったな」と笠松のオールドファンなら思うことがあったし、それも織り込み済みで馬券を買っている人もいただろう。

 ■裏切り行為を一掃し、ファンの信頼回復を

 今回の問題は元々、厩舎関係者からNAR(地方競馬全国協会)に内部告発の書類が提出されるなどして始まったものという。レースを監視し、着順を判定する裁決委員はNARから派遣されているが、笠松のレースでは近年、無気力騎乗(闘志の欠如)での騎乗停止も相次ぎ、公正確保の面から看過できなくなっていた。NARからは競馬組合への指導もあったのだろう。笠松競馬としては身を切る覚悟で警察に捜査を依頼し、うみを出し切ろうとした。

 今後は笠松競馬に関わる全てのホースマンが「浄化」に励んでクリーンな競馬に徹し、ファンへの裏切り行為を二度と起こさず信頼回復に努めることが第一。笠松競馬の変革を推し進めるターニングポイントとし、ファンによりフェアでエキサイティングな競馬を楽しんでもらいたい。