ゲートオープンとともに一斉にスタートする競走馬。笠松競馬場に再びにぎわいが戻るのはいつの日か

 馬券の不正購入問題で騎手、調教師計12人が「引退」となり、大きなヤマを越えた笠松競馬だが、なかなか立ち上がれない。

 セクハラ、SNS上の懸賞金問題に続いて足かせとなったのは、既に決着済みとみられていた「所得申告漏れ」だ。一連の問題で、うみを出し切ることは大切だが、レース再開はまたも先送りされ、8月以降になるという。例年なら、2歳馬たちが新馬戦でゲートイン。わくわくする新緑のシーズンだが、今年は不祥事が長引き、若駒たちが躍動する「夏の扉」も開けないことになった。

 名古屋国税局が摘発した騎手、調教師らによる計3億円の所得申告漏れでは、馬券の不正購入グループを中心に大量の行政処分が行われた。ところが、6月に入って新たに騎手らの「申告漏れ疑い」が浮上。ネット上での注目度も高く、「また笠松競馬か、もうダメかもしれない」とか「やり過ぎ。こんな問題、どこでもありそう」といった声が上がっている。

騎手、厩務員らを対象に実施された税に関する研修会

 ■調教手当など申告漏れか、またも聞き取り再調査

 5月20日に開かれた税に関する研修会。騎手や厩務員から、調教手当や企業協賛レース賞金などの所得について「申告したかどうか覚えていない」「修正申告が適正だったのか心配だ」と複数の相談が組合に寄せられた。調教手当は1回300円程度(保険料50円込み)で、月に10万円以上を得ている騎手もいる。1回当たりの所得が少額のため、所得申告を軽視していた例もあるという。組合は騎手、調教師、厩務員計114人に対して聞き取り調査を進め、関係者の処分は修正内容や金額によって検討していく。

 税務関係の聞き取り調査は2度目だ。名古屋国税局に申告漏れを指摘され、第三者委が2~3月に実施。厩舎関係者全員に対して確定申告の調査、検証が実施されたはずだが、不十分だったことになる。昨秋実施された馬券購入問題の聞き取りでもそうだったが、またしても対応が後手になり、負の連鎖に陥っている。

 競馬組合の河合孝憲管理者(副知事)は「税務調査が6月いっぱいかかれば、7、8月の再開も難しい」との見通しを示した。笠松競馬場に近い羽島市出身で、副知事就任時には「バランス感覚を持ち、時々の状況に応じてやっていきたい」と抱負を語ったが、競馬組合の新管理者としても手腕発揮が期待されている。

早朝からの攻め馬に励む若手騎手たち。レース再開を待ち望んでいる

 体重500キロ前後の競走馬に騎乗する騎手らはプロのアスリートであり、個人事業主である。体を張ってレースに挑み、自身の健康管理費や馬具などへの経費も必要になるが、事業所得としての申告ではしっかりとした対応が求められる。新たな税務調査では、必要に応じて速やかに修正申告を行い、この問題を早くすっきりさせ、レース騎乗につなげたい。

 ■ばんえい、JRAは素早い幕引きでレース続行

 休眠状態は半年以上続くことになったが、それにしても、再開までなぜこんなにも時間を要するのか。5年前のことだが、笠松競馬と同じような馬券の不正購入で騎手1人、厩務員9人が関与停止になった「ばんえい競馬」(北海道帯広市)では、開催を自粛することもなくレースを続行。再発防止策をさらりと発表し、幕引きを図った。

 JRAの騎手や調教助手らによるコロナ対策持続化給付金の不正受給問題では、170人が処分を受けたが戒告どまり。理事長や武豊騎手会長がいち早く謝罪し、何事もなかったかのようにレースを続行している。この不正受給、全国的には悪質な事件も目立ち、詐欺容疑で逮捕された大学生らも多かった。国民の生活に関わる大きな問題だが、JRAの処分では騎乗停止などもなく、マスコミの追及をかわして逃げ切ってしまった印象が強い。
 
 不祥事への対応は主催者の判断次第となるが、笠松競馬では馬券購入問題の決着後も、別の不祥事が小出しにされ、レース再開が先送りされている。当欄では1月以降、「スピーディーな対応で浄化を進め、不正のうみを出し切って再生へとつなげたい」と提言してきたが、再開への動きはスローダウンしてしまい、残念な流れになっている。主催者は「手続きに時間が...」とか言っておらずに、4月に行政処分を発表した時点で、速やかに再開時期を明言すべきだった。

 公営ギャンブルとはいえ、ダーティーでブラックな部分も多いとされる競馬社会。中央と地方の格差は大きく、年間の売上高が3兆円近い「巨大企業」といえるJRAに対して、長年の赤字体質で経営基盤が弱い笠松競馬。馬券の不正購入グループを一掃したが、ファンの信頼は失墜した。国やNAR(地方競馬全国協会)からの締め付けは厳しくなっており、これ以上、新たな問題が発覚して騎手が減少したら、存続自体が危うくなる。組合としては少々の問題や雑音は押し切って、浄化・再生を進めていかないと、いつまでたっても再開に踏み切れない。

「笠松けいばオフ...」と表示され、開催自粛の延長を知らせている笠松競馬のオフィシャルホームページ

 ■「笠松けいばオフ...」笑えます

 笠松けいばオフィシャル(公式)ホームページ。スマホ版ではメニュータイトルが「笠松けいばオフ...」と表示されており、これに気付いて笑ってしまった。長引く「開催オフ」に引っ掛けた「自虐ネタ」のようにも感じたからだ。タイトルは7文字までで、「けいば」を漢字にすればもう1文字表示されるが。あえて平仮名を使っているのは「ギャンブル色を薄めるためでは」といった声も...。

 「笠松けいばオフ...」のすぐ下には「6月25日まで競馬の開催自粛を延長します」と、毎度おなじみになった開催自粛のお知らせ。1開催ごとの先送りで、1月20日から始まって、9回目になった。今後も延長の案内は続きそうだが、うんざりしているファンのためにも、再開に向けた取り組み状況をもう少し詳しく説明するべきだろう。

 組合では6月再開を目指していたが、懸賞金トラブル、所得申告漏れ問題と相次ぎ急ブレーキ。レース開催を求める国への指定手続きは撤回された。4月以降、笠松競馬はレースを開催できない状況にあり、ファンも指摘していたように「開催自粛」という表現は不適切といえよう。公式ツイッターの凍結状態(引退騎手のセレモニーを最後に)も誠意を欠いており、今後「新生・笠松競馬」をアピールしていくなら、こういった姿勢や体質を改善し、ファン目線での競馬場づくりを進めていくことが必要になる。

 ホームページのメニューには「再発防止策の取組状況」や「公正確保等に関するファンの声(情報提供・意見書)」の投稿ページも新設された。不適切事案の再発防止策では、税金など各種研修会についての報告があるが、予定されていたセクハラ撲滅のための研修会についての報告はなし。関係者のプライバシーに配慮したいなら、写真は掲載せずに記事だけ流してもいいのでは。第三者委であれだけ詳細に報じて処分を発表したのだから、今後開かれるセクハラ研修会については隠さず、報告すべきだ。

 ■カウント8では立ち上がって

 1年前には17人いた騎手は10人に減った。競走馬は110頭ほど減り、レース再開時には何頭残っているのか。馬がいなくなれば、出走手当相当分の補償も減り、騎手や厩務員の生活は苦しくなるばかりだ。

 かつての経営難では、現場の賞金・手当を大幅カットして、廃止のピンチを何とか切り抜けてきた。痛みに耐えてきた厩舎関係者からは「組合の人たちは給料は下がらないだろうけど、こっちは大変ですよ」といった声がまた聞こえてきそうだ。

 笠松競馬に対しては「もう廃止にしろ」という厳しい意見の一方で、「再開を願っている」と応援するファンの声も多い。「立ち上がれ、あしたのために」のこの連載は「その18」になってしまった。人気漫画「あしたのジョー」連載当時のボクシング世界戦は15ラウンドまであって、リング上の2人は気力を振り絞って必殺パンチを繰り出していた。「不祥事のデパート」は重いパンチを浴び続け、バッタリと倒れ込んだ状態にあるが、カウント8では何とか立ち上がってファイティングポーズを取ってほしいものだ。