主権者教育に欠かせないNIE授業=東京都目黒区、都立国際高校
メディアリテラシーにつながる新聞の読み比べ=同

東京都立公民科社会科教育研究会事務局長・都立国際高校主任教諭 宮崎三喜男

 2015年6月に改正された公職選挙法により、18歳に選挙権が付与されたのは記憶に新しい。また学校現場においても主権者教育が進められており、さまざまな実践がなされている。しかし主権者教育とは、どのような教育なのであろうか。「主権者教育=模擬投票」、「主権者教育=投票率を高める教育」と考えている人も多いことであろう。

 筆者は「課題を多面的・多角的に捉え、自らの意見を形成し、根拠をもって自らの考えを主張・説得し、また合意形成を図る力を育む」ことが主権者教育のあるべき姿であると考える。その際、欠かすことが出来ないのが、新聞の存在であり、NIEの視点である。

 課題を多面的・多角的に捉えるためには、情報を適切に読み取るリテラシーの能力が欠かせない。新聞などの一次資料は知識を得られるだけでなく、リテラシーの能力や見方や考え方を養うことができ、主権者教育には非常に有意義な教材であることは言うまでもない。また自らの意見を形成し、根拠をもって自らの考えを主張・説得するために話い合い活動の授業が効果的であると考えるが、その話し合いが単なる感情論に終わらないようにするために、新聞などの一次資料を基に議論を行うことが求められる。

 このような考えから筆者は新聞を活用した授業を実践しているが、その幾つかを、ここに報告したい。

 ①新聞を活用した3分間スピーチ 授業の冒頭に、生徒による3分間スピーチを実践している。テーマは自由なのであるが、新聞記事を基に発表するよう指導している。例えば、韓国籍の生徒が「靖国神社から考える日韓問題」というテーマで発表した際はアメリカの新聞記事を使用し、発表を行った。日本の新聞、韓国の新聞だけでなく、第三国であるアメリカはどのように報道したのかを分析したこの発表は、新聞の読み比べ授業の参考となる事例であろう。

 ②合意形成を目的としたパネルディスカッション型授業(ねらいは、パネルディスカッション、ロールプレイを通して、対立する課題を解決するための案を考え、合意形成を図る力を養う) 本授業は新聞記事を読み、それぞれの立場になりきり、課題を解決する授業である。新聞記事は課題の設定にしか過ぎないが、客観的に読むことと、当事者として読むことでは、捉え方に違いが生じ、新たな視点を見いだすことが出来る効果がある。ゆえに課題設定のための新聞記事であるが、授業のまとめとして最後にもう一度記事を読む時間を設けるなどの工夫をしている。

 主権者教育を端的に書くと「主体的に社会と向き合い、自分たちの社会をどんな社会にしたいのか考えさせること」であると考える。投票という行動は、どんな社会を目指すのかをきちんと考え、それを実現していく手段の一つにすぎない。そのためにはディスカッションなどを通し、若い世代にものの見方や考え方を学んでもらうことが必要である。そして「どのような社会で暮らしたいか、どのような社会を作りたいか」を考えさせることが最も重要であろう。そのためには安保法制などようなの生々しい話題でなくても、地方紙に載っている身近な課題から議論をすることから始めることも大事である。NIEを行うことは主権者教育であると強く訴えたい。