小学4年生児童が製作した新聞の切り抜き作品を示す古家正暢さん=東京都千代田区、日本プレスセンターホール
姫路市の消費者教育について話す北村純一さん=同

◆消費者教育やLGBT理解でも活用

 2020年度から順次、小中高校で実施される次期学習指導要領のキーワードの一つが「社会とつながる」。東京の日本プレスセンターで開かれた「第4回NIE教育フォーラム」では、現代社会のさまざまな課題に対応する資質や能力を学校教育でいかに育むかについて、研究者や行政担当者らが講演した。それぞれの取り組みの中で、新聞は重要な役割を担い、NIEは子どもたちと社会をつなぎ、学習意欲を育てると期待が膨らんだ。

 帝京大経済学部教授の古家正暢さんは、グローバル化する社会の中で、NIEが「学びに向かう力」を育む-と主張した。

 古家さんは中学2年生の時に、ファンだった歌手の記事を切り抜いたのをきっかけに、公害、沖縄、ベトナム戦争と新聞スクラップを続けてきた。「興味・関心を持ったことが、現在の研究テーマ『犠牲なき社会を構築することは可能か』につながった」という。

 NIEの実践は、社会科教師になった年に、牛を神聖視するヒンズー教徒の運転士が牛を避けようと鉄橋上で列車に急ブレーキを掛け、約800人が亡くなった記事を授業で使ったことがきっかけだった。「生徒らは、教科書だけでは得られないものを新聞から得ていると実感した」

 実践例は数え切れない。水俣病を取り上げたときは、語り部杉本栄子さんの言葉「知らないのは罪、知ったかぶりもっと罪、嘘(うそ)言う人はもっともっと罪」を知った生徒が、「じゃあ、授業で水俣病を少し知った私たちはどうしたらいいか」と悩んだ。

 家族の意向をくんで水俣病患者の写真を新たな出版や印刷に使わなくなったと知った生徒は、「社会科の授業であればその写真を使っていいのか」と発言した。選挙のマニュフェストに疑問を持った高校生たちが、内閣総理大臣に手紙を出すことにした。

 海洋プラスチック問題の記事の切り抜き作品を示した古家さんは「小学4年生が記事を読んで、実際にプラスチックのリサイクル工場を見学し話を聞いて、ぼくたち一人一人の努力と工夫が必要だと提案している」と、主体的、対話的で深い学びへ導いた新聞の力を力説。「子どもたちは感性を働かせた思いを基に学びに向かい、チョーク&トークの授業ではなく、新たな問いのある授業ができた。新聞を使う授業がいい」と断言した。

 兵庫県姫路市教育委員会の北村純一さんは、幼稚園から高校までを通し教科横断的に取り組んでいる消費者教育を報告した。目指すのは、被害に遭わない消費者、合理的意志決定ができる自立した消費者、そして社会の一員としてよりよい社会の発展のため積極的に関与する消費者の育成だ。そのためには、消費生活情報を分析し批判的に思考するメディアリテラシーの力が必要として、NIEの重要性を語った。

 また、LGBT(性的少数者)の研修や支援活動を行っている団体ReBit代表理事の薬師実芳さんは、学校教育で多様な性について取り組む必要がありNIEで学んでほしいとアピール。

 日本新聞協会の関口修司NIEコーディネーターがフォーラムをまとめ、「NIEタイムを活用すれば、現代的なさまざまな課題が、もっと取り組みやすくなる。NIEタイムは社会と学校をつなぐ」と提言した。