重力波やKAGRAの話に熱中する中高校生ら参加者=岐阜新聞本社
研究者としての体験談を交えて重力波について話す宮川治さん=同

 アインシュタインが100年前、時空のひずみが波のように伝わる「重力波」を予言した。重力波観測へ向け、飛騨市神岡町の地中で準備が進む「KAGRA(かぐら)」。岐阜新聞本社で開かれた第9回サイエンスカフェでは、KAGRA立ち上げから関わってきた東京大宇宙線研究所助教の宮川治さん(46)を中高校生らが囲み、最先端の宇宙研究に熱中した。研究者を目指す生徒からは、鋭い質問が続々。宮川さんは一昨年重力波を世界で初めて確認した米国の研究施設「LIGO(ライゴ)」でも研究しており、体験談を交えながら「自分で考え、とことん夢中になり、知識だけじゃなく、新しいことを考える事がすごく重要」と、若い世代にエールを送った。講演の要旨を紹介する。

◆宮川東大宇宙線研究所助教が解説 神岡「KAGRA」でも準備

 LIGOは、アインシュタインが1916年に理論の中で予言した重力波の初観測を一昨年、発表しました。LIGOにはハンフォードと3千キロ離れたリビングストンに観測所があり、0・007秒差で観測。重力波は光速で移動するため時間差が起きたのです。解析してみると、約13億光年先から届いた重力波だと分かりました。そのとき、太陽の重さの36倍のブラックホールと、29倍のブラックホールが合体して、太陽の62倍のブラックホールができました。計算が合わないのは、太陽三つ分のエネルギーが重力波になって放出されたことを示します。LIGOには現在千人を超える科学者が関わっていますが、延べ4千人の研究者が22年間努力して、やっと観測できました。

 昨年8月にはLIGOとともに、フランスやイタリア、オランダがイタリアのピサに造った観測施設VIRGO(バーゴ)でも重力波を観測しました。3カ所で観測でき、重力波が発生した場所をかなり特定できました。さらに同じ月に2例目の重力波を検出しましたが、今度はブラックホールでなく中性子星の合体からの重力波で、世界各地の望遠鏡が明るい光やガンマ線も捉えました。現在、データを解析中で、重力波天文学が盛り上がっています。今後、神岡にあるKAGRAが本格稼働すれば、さらにいろいろな事が分かってくると思います。

 こうして、アインシュタインが一般相対性理論の中で予測した重力波が確かめられました。ニュートンが物体は引力で直接引き合うと考えたのに対し、重い物体が時空をゆがめるために引き合うと考え、ニュートン力学の矛盾も説明しました。そのほか、重力レンズや膨張宇宙などを予言、後世に確かめられています。カーナビもアインシュタインの理論を使っています。

 二つの中性子星や二つのブラックホールが互いの周りをぐるぐる回ると、時空がひずみ、光速と同じ秒速約30万キロで重力波を伝えます。KAGRAは、3キロの腕が直角につながっており、角からレーザーを飛ばして、両腕の先に付けた鏡に反射させます。重力波が来てどちらかの腕がひずんだら、戻って来たレーザーの波形がずれて重なり、明るさが変化して分かります。

 反射する鏡は、振り子の防振効果を利用して13メートルのワイヤでつるし、メインは直径約20センチ、厚さ約15センチの人工サファイヤです。熱振動を防ぐため、最適なマイナス253度に冷やして精度を高めています。私は制御とデータ処理を担当していますが、KAGRAには15カ国の100の研究機関から約400人の研究者が参加、リーダーは梶田隆章先生です。今後研究が進み、宇宙初期についても、分かってくると思います。研究は半導体の小型化や医療分野などにも応用されています。

 アインシュタイン100年の宿題を、やっと解くことができました。今まさに重力波天文学の幕開けの時代です。研究に関心を持つ中高校生は、学校の勉強が役立ちます。重要なのは、チャンスを逃さない事。そのために普段から準備し、得意なもの、すごいと思われる何かを持ってください。