常連客らの励ましもあり、店を再開した倉田房子さん(左)。右の写真は和雄さん=岐阜市京町、ニューカトレア

 岐阜市京町の官庁街に店を構える創業50年の老舗喫茶店「ニューカトレア」。マスターの倉田和雄さん(80)が今年6月、新型コロナウイルスに感染して亡くなり、しばらく店を閉めていた。しかし、常連客らの励ましもあり、翌月には妻の房子さん(77)が営業を再開。「優しくて、すてきな人。和雄さんのおかげでいい人生を送らせてもらった」と、半世紀にわたり二人三脚で歩んできた感謝を胸にコーヒーを入れ続けている。

 1971年に始めた同店は、岐阜中署や岐阜地検、市役所などが並ぶ官庁街の一角にあり、会社員や公務員の憩いの場だった。和雄さんが作るケチャップ味のスパゲティは、昔ながらの味わいで一番人気の名物メニュー。話し上手の房子さんが明るい接客でもてなしていた。

 家庭では、仲良い夫婦。毎日2人で500円ずつ貯金し、年末年始に国内旅行をするのが楽しみだった。房子さんは年齢を重ねても「和雄さん」と名前で呼び、夫婦げんかはほとんどなかったという。「思いやりがある人。ずっと仲良しでした」と話す。

 創業50年の節目を迎えた今年5月、新型コロナウイルスが2人を襲った。突然高熱を出した和雄さんの感染が分かり、症状のない房子さんも陽性と診断された。2人は同じ市内の病院に入院。和雄さんは治療を続けたが、容体は悪化していった。

 房子さんが先に退院。和雄さんは約3週間後の6月中旬、静かに息を引き取った。「いつもと変わらない、すてきな顔をしていた」と房子さん。棺(ひつぎ)には入院中に房子さんが送り続けた励ましの手紙を入れ、別れを告げた。

 悲しみに暮れる中、店の再開には迷いがあったが、房子さんを励まし、後押ししたのは店を愛した警察関係者や常連客だった。一緒に働き、和雄さんを慕っていたアルバイト従業員も協力。「もう一度頑張ろう」と再開を決めた。

 「和雄さんの味が出せるか不安」と、まずはコーヒーの入れ方を和雄さんに近づけた。看板メニューのスパゲティ以外は、以前と変わらないメニューを提供。そんな房子さんを支え、元気づけようと、常連客が足を運んでいる。

 店内は、優しくほほ笑む和雄さんの写真が見守る。体力的にも店を切り盛りするのは大変だが、「ここまで来たら頑張らないと」と房子さん。あふれる涙を拭い、夫のいないカウンターに立っている。