「禁煙のはずの学校で、先生がたばこを吸っている」。岐阜新聞社の「あなた発!トクダネ取材班」に、岐阜県内の小学生らから2件の情報が寄せられた。改正健康増進法の定めで、学校は敷地内禁煙だ。例外として受動喫煙対策が取られた屋外喫煙所を設置できるが、どちらの学校にもそうした喫煙所はない。一体どこで吸っているのか。取材を進めると、教員が駐車場にとめた自分の車の中でこっそりたばこを吸う不適切な「隠れ喫煙」が明らかとなった。

たばこ臭くて授業に集中できず

 1件目の相談は、岐阜市内の中学校を今春卒業した女子生徒が寄せた。3年生だった昨年度、担任の男性教員のたばこの臭いに悩まされたという。生徒たちの間で「〇〇先生(男性教員)は、たばこ臭い」と知られており、敷地内にとめた車の中でたばこを吸う姿が生徒たちに目撃されていた。授業に遅れて現れることも何度かあり、決まって「すごく臭かった」という。

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車の中でたばこを吸う、教員の「隠れ喫煙」問題が浮上(イメージ写真)

 相談を寄せた女子生徒は最前列の席だったため「たばこの臭いが気持ち悪くて、頭が痛くなって授業に集中できなかった」と振り返る。近年、こうしたたばこの臭いを「三次喫煙」と捉えた対策が進む。

 学校側は「生徒が帰った夕方以降、敷地外に出て吸う教員はいるが(男性教員の件は)認識していない」と説明。改めて敷地内や就業時間内に喫煙をしないよう周知を図るとした。

校長も学校で喫煙「やめられない」

 もう1件は羽島郡内の小学校。保護者を通じて児童から「校長先生がたばこを吸っているのを見た」と複数の情報が寄せられた。取材に対し、この男性校長は「いつも自分の車の中で吸っている」と喫煙していることを認めた。

 敷地内にとめた車の中も規制の対象だ。校長は「そうだとは思っていたが、敷地外へ出て吸うのは(人目があり)まずいと思った」と語った。

 ただ、今後について「やめようとは思うが、なかなかやめられない。吸った後は子どもの前に出ないよう気を付ける」と喫煙を続ける姿勢だ。

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学校の敷地内での喫煙は法律で禁止されている

 保護者の一人は「たばこやライターを落として、子どもが知らずに触ることもあり得る。校内での喫煙は絶対に許されない」と憤る。

車内で吸うのも違法

 岐阜市内のある中学校の女性教員は「校長など管理職がたばこを吸う学校は(喫煙の規制が)緩みやすい」と指摘する。過去に別の学校で、管理職が吸うたばこの煙のせいで体調を崩した経験がある。「今は法律で決まっているし、そもそも就業中なんだから学校敷地内の禁煙は当然」。しかし今の勤務校でも複数の喫煙者がおり「何人かは車の中で隠れて吸っているようだ」と明かす。

 一方、県内の高校に勤務する喫煙者の40代男性教員は「敷地外で吸うと、休憩時間であっても『仕事をサボるな』と近所から苦情を言われる。車の中もだめなら事実上、吸える場所がない。法律で規制されたことは重々承知しているけど、納得はできていない」と胸中を語る。

 2019年7月の改正健康増進法の一部施行により、学校や病院、児童福祉施設、行政機関などの「第一種施設」は敷地内禁煙となった。第一種施設でも受動喫煙が発生しない「特定屋外喫煙場所」を設けることはできるが、両校にはない。県保健医療課の担当者は「車内で吸っているのであれば、違法行為だ」と指摘する。

呼気の有害物質45分続く

 女子生徒がたばこの臭いによる頭痛を訴えたように、喫煙後の体や衣服に染み付いた「たばこ臭」を「三次喫煙」と捉え、健康被害をもたらすリスクがあるとして対策に乗り出す動きが各地で進んでいる。

 「教室という逃げ場のない空間での三次喫煙は、気管支ぜんそくなどの発作を起こすリスクがある」と話すのは、受動喫煙の被害を研究している産業医科大(北九州市)産業生態科学研究所の大和浩教授(61)だ。「たばこを吸うと、口の中や気管支にヤニが付いて、呼吸をするたびにニコチンやホルムアルデヒドなどの有害物質が吐き出される」と指摘する。

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街頭に設置された喫煙所

各地で三次喫煙対策広がる

 大和教授らが喫煙者の呼気を調べた実験では、喫煙前の状態に戻るまでに45分かかるとの結果を得た。こうした大和教授らのデータを基に、三次喫煙のリスクを防ぐ取り組みが各地で進む。

 京都市の洛星高校は昨年、生徒会からの申し入れを受け「喫煙後45分以内に授業がある場合、喫煙することは禁止」とのルールを設けた。教員のたばこ臭に悩む生徒の声が学校を動かした。

 大人向けの対策も進む。コンタクトレンズ大手のメニコンは出社の1時間前からの禁煙をルール化し、従業員だけでなく来客にも同様の対応を求める。奈良県庁は喫煙者に対して、同県生駒市役所は喫煙後45分間について、それぞれエレベーターを使わないよう職員や来庁者に呼び掛ける。

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歩きたばこの禁止など、喫煙を巡る規制は各地で進む

 福島県は今年4月、「ふくしま受動喫煙防止条例」を施行。条文の中で「喫煙をする人は、たばこを消した後に残留するたばこの臭気やその他の残留物に関して、子どもや妊婦等への配慮に努めなければなりません」と三次喫煙防止の視点に踏み込んだ。

たばこを吸うのは〝反面教師〟

 かつて一部の生徒が隠れてたばこを吸い、教員が叱りつける構図があったが、今や立場は逆転、教員の喫煙を生徒が見とがめる時代となった。大和教授は「喫煙は有害、と教えるのが学校。敷地の内外や年齢にかかわらず、喫煙はしないということを生徒たちに身をもって教えてほしい。教師の呼気がたばこ臭いなんて反面教師だ」と訴える。


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