投球練習に励む多治見工高の渡邉直投手。左手にグラブをかぶせるように持つ=多治見市陶元町、多治見工高

 第105回全国高校野球選手権記念岐阜大会が8日、開幕した。15日の2回戦で岐阜城北高との初戦に臨む多治見工高(多治見市陶元町)には、生まれつき左手がない3年生の渡邉直(すなお)投手(18)=恵那市武並町=がいる。「できないことに、あえて挑む」を信条に、チームメートの助けを得て投球に磨きをかけてきた3年間。その全てをぶつける覚悟だ。

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 「大変だと思ったことはないです」。投球練習に励む渡邉投手は歯を見せて笑った。右手のグラブで捕球すると、すぐさまグラブを左脇に抱えて球を取り出し、今度は自由になった右手で投げ返す。一連の動きは滑らかで、球威は監督の折り紙つきだ。

 小さい頃から水泳や空手に親しんだ。小学4年生の頃、祖父の「元からできることをやっても仕方ない。できんことを習って、できるようにするといい」との言葉に奮起。地元の少年野球チーム「武並クラブ」に入団した。

 肩の強さもあり人並み以上にプレーできるようになったが、子どもたちからは好奇の目にさらされた。「変な視線を向けられたり、直接言われたりした。かなり嫌な思いもした」と目を伏せる。このまま野球を続けるのか-。孤独を感じることもあったという。

 転機になったのは現在のチームメートとの出会い。中学3年で所属したチームで、現在は多治見工高でショートを守る3年内山颯人選手(17)=瑞浪市上平町=と意気投合した。「一緒に入らないか」と誘われ、古里の恵那市から離れた多治見工高に進学することを決意。内山選手は「小学生の頃から『頑張っているやつがいる』と思っていた」。渡邉投手がひたむきに野球に取り組む姿を、ずっと見ていた仲間がいた。

 高校入学後は、さらに地道な努力を重ねた。筋力トレーニングに励み、体重は入部時から10キロ以上増加。直球は安定して135キロ前後を出せるようになった。「甲子園に行きたいという強い思いで頑張ってくれている」と青木崇監督。内山選手は「手なんて、なんとも思わない。甲子園で直が投げている横で守ってみたい」と目を輝かせる。

 最後の夏が、いよいよ始まる。「強豪校を倒して甲子園に行きたい」と渡邉投手。野球は多くのことを教えてくれた。ハンディキャップをカバーするために頑張ること、かけがえのない仲間を得たこと-。「皆が一つになれば勝てると信じている」。その思いを込めて、力いっぱいの球を投げ込む。