大垣工×大垣西=9回表大垣西1死三塁、伊藤駿が中前適時打を放つ=長良川球場
大垣工×大垣西=女房役としてエース伊藤駿(右)の投球を支えた大垣西の江森=長良川球場

 就任からわずか3カ月。西濃の雄・大垣西が監督初経験の坂東龍一郎監督によって鮮やかに生まれ変わり、開幕戦を制した。相手は秋も春も地区大会で敗れている大垣工。リベンジを果たしての新たな第一歩は、エース伊藤駿冴の180度の大変身はじめ、いくつもの変革の積み重ねによってもたらされた。

◇週休2日制、スピード感。坂東監督のチーム変革
 大垣西は、福島秀一監督、小牧憲充監督といった名将によって選抜21世紀枠の東海候補校になるなど県の名物校。今春、中部学院大の野球部長になった小牧監督が昨秋チームを離れ、後任の松野幸元監督も転勤。市岐阜商の副部長だった坂東監督が就任した。

 高校時代に県岐阜商で甲子園出場経験のある坂東監督は母校とは違う公立普通科ならではのチームづくりを目指した。朝練習は毎日行うものの高校野球では珍しい週休2日を採用し、短時間で集中。「スピード感」をテーマに掲げ、ダッシュを徹底した。エースで主将の伊藤駿が「自分たちにマッチした指導」と語るようにポジティブに取り組めるようになり、瞬く間に〝坂東イズム〟は浸透した。

◇エース伊藤駿の緩急生かした技巧派への大変身
 中でも開幕勝利の要因となったのが伊藤駿の大変身。130キロを超すストレートで押す力まかせなタイプだったが、100キロ台の坂東監督の言う「力5割のストレート」に、95キロ前後のカーブを交える技巧派に生まれ変わった。力で押す伊藤駿を打ち込んできた大垣工打線を完全にほんろう。開幕1カ月前だという内野手江森彩輝の捕手へのコンバートも奏功した。「引いて、冷静に試合を見られる」(坂東監督)適性が、新・伊藤駿とマッチした。

 緩急をさらに生かしたのが先制攻撃。2度の敗戦による大垣工エース安田翔哉の「カウントを取りにくるスライダーを狙い打つ」戦術がさえ、立ち上がり3長短打による2点で完全に主導権を握った。

◇課題もあった開幕試合。新生大垣西の新たな一歩
 ただ九回裏、伊藤駿が「勝ちを意識してしまった。連打が止まらず、正直焦った」と振り返るように2点差まで詰め寄られたのは反省点。結果的に表の攻撃での追加点が大きかったが、二塁打の江森を主砲でもある伊藤駿が返す、バッテリーで挙げた1点だった。

 トーナメントの同じヤマには、大垣工同様に秋春、苦杯をなめた相手がひしめく。伊藤駿が「失うものは何もない」と語る新生大垣西。新たな歴史の扉は確かに開かれた。

 森嶋哲也(もりしま・てつや) 高校野球取材歴35年。昭和の終わりから平成、令和にわたって岐阜県高校野球の甲子園での日本一をテーマに、取材を続けている。