【岐阜第一8―1多治見工】

 7回11奪三振、失点1、自責ゼロ。岐阜第一の1年生左腕エース水野匠登が大器の片りんをみせつけた。光ったのは無四球だった制球力。球速は120キロ中盤と速くはないが切れよく、内外に投げ分け、決め球のスライダーで三振の山を築き、詰まらせて凡打に打ち取る。草津シニア時代は制球難だったというが、高校入学後に飛躍的に制球力が増した。中でも新チーム発足当初の大阪桐蔭との練習試合で九回に3連続四球で降板した苦い経験が水野を成長させた。

岐阜第一×多治見工=7回1失点11奪三振と好投した岐阜第一のエース水野=KYB

大阪桐蔭戦の3連続四球で成長。制球力増す

 好素材が多い1年生の中でも投打の核として田所孝二監督期待の水野。入学直後の春季県大会では2番、夏は3番と上位を任された。投手として公式戦の登板はなかったが、新チームとなって背番号1を託された。大阪桐蔭戦での好投はじめ、龍谷大平安(京都)戦も7回2失点ながら自責ゼロ。大垣日大戦も5回無失点と練習試合で結果を残している。

 制球力が増した要因について「特にフォームを変えたとか、特別に練習したとか思い当たることはない」とひょうひょうと語るが、大阪桐蔭戦の九回3連続四球の悔しさは鮮明。降板後、3人の走者がすべて生還してしまったからだ。この一戦から、より制球に心がけるようになった。

 秋季県大会3回戦の多治見工戦も制球に傾注した。同じく1年生の捕手永安弘和も「低めに制球され、頼もしく、リードしやすかった」と相棒をたたえる。ただ、時折、甘くなった直球を6安打されたが、味方の失策による1失点を除き、落ち着いてピンチを切り抜けた。

 最速は134キロ。「球速にはこだわっていない」と言うが、最後の打者に投じたのはこの日最速の130キロ。田所監督も「球速より、技巧派として大成させたい」と語るが、発展途上の1年生、球速はこれから増すはずだ。今、取り組んでいるのがシンカー。龍谷大平安コーチで元プロの川口知哉さんから「シンカーを習得すれば無敵」のアドバイスを受けたからだ。

岐阜第一×多治見工=6回裏岐阜第一1死二、三塁、左前適時2点打を放つ水野=KYB

1年水野、2年鑓水の両左腕が安定。打力が選抜への鍵

 初戦の2回戦の2年生左腕鑓水佑哉に続く、両左腕の好投。田所監督は「打線が課題」と指摘する。これまで2試合とも序盤に得点を重ねられず、中盤のビッグイニングでのコールド勝ち。3回戦では水野が2点打、「夏はばてて、フォームを崩していた」という女房役の4番永安も大量点の口火となる左翼線二塁打を放った。田所監督の「ホームランバッターなので、全然ものたらない」は主砲への期待の高さを物語る。左腕両輪に打力が備われば、23年ぶり選抜への道は開かれるはずだ。

岐阜第一×多治見工=6回裏岐阜第一、先頭で7得点のきっかけとなる左翼線二塁打を放つ好リードの4番永安=KYB
 森嶋哲也(もりしま・てつや) 高校野球取材歴35年。昭和の終わりから平成、令和にわたって岐阜県高校野球の甲子園での日本一をテーマに、取材を続けている。