「ボランティアオアシス」の配食を受け取る当事者(右)。メンバーは渡すだけでなく、一人一人の事情にも耳を傾ける=10月、名古屋市中区

 名古屋市の路上生活者を調べると、約6割が精神疾患や知的障害、またはその両方を抱える人だった-。ホームレス状態が長期化する要因をメンタルヘルスの観点から捉えようと、NPO法人「ささしまサポートセンター」(同市)や岐阜大の研究者らが2014年に路上生活者114人を調査し、その結果として導き出された数字だ。市内の各団体の共通認識となり、より一人一人に合った支援を展開する上での基礎になっている。

 センターの生活医療相談に携わる加茂郡川辺町出身の精神科医・渡邉貴博さん(49)は、岐阜市内の病院に勤務していた頃に調査に携わった。08年のリーマン・ショックを機に路上生活者が急増した時期、東京・池袋の当事者を調査した研究が報告されたのをきっかけに、名古屋でもと話が持ち上がった。「当事者にレッテルを貼ることにならないかと反対の声もあった。まずは相談を通じて当事者と関係を築くことから始めた」と振り返る。約4年の歳月を経て調査に移り、出された結果は「6割」。調査からおよそ10年たったが、割合は大きく変化していないと感じている。

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 「『ホームレスはだらしがない』みたいなイメージがついて回るけど、そんな浅い話じゃないから」。名古屋高速道路の高架下での炊き出しや夜回りに取り組む任意団体「ボランティアオアシス」(名古屋市)のリーダー・西川直希さん(47)は強調する。

 10月、オアシスの炊き出しを訪れた男性(37)の苦境は典型的だった。

 30歳の頃に故郷の岩手県を離れ、愛知県内で解体業など寮付きの日雇いの仕事を転々とした。「頑張れば生まれ変われるかもって思っていたけど、心が追い付かなかった」。2年ほど前に病院で診察を受けると、うつ病であることに加え、自身に軽度知的障害があることを初めて知った。

 「だから、だったのか」。4人きょうだいの末っ子で「自分だけが他と違っている」という違和感はあった。親とも疎遠になり、どんな職に就いても「自分がストレスに感じていることが伝わらない」と人間関係に苦しんだ。その原因は分かったが、孤立感は解消されなかった。「生きていても仕方がない」。アパートとメンタルクリニックを行き来するだけの暮らしに嫌気が差し、ある時アパートを飛び出した。男性は今、市内の路上で生活している。

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 西川さんは友人に誘われたのをきっかけに、20年近く活動に携わる。元から困窮者支援に関心があったわけではなく、ホームレスに対する寛容さを持ち併せていたわけでもない。「路上の人たちと話す中で本当の大変さが分かってきて、ご飯をあげて住まいにつなぐだけじゃ足りないことを理解していった」。当事者に寄り添う中でそれぞれの境遇と現状を知り、「路上にいることで精神の安定を保っている人さえいる」と気づいた。

 ただ「それを社会に理解しろというのが難しいのも分かる」。職場の同僚からは、路上生活者をやゆする心ない言葉を言われたこともある。「そもそも貧困はその人の孤立から始まっていて、経緯はそれぞれ違う。それでも炊き出しという場所で経験を分かち合うことで、関心が深まっていけばいい」。理解者が増えていくことを願いながら、個々と向き合う。


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