毎年、公園や河原などで暮らす人の数を調べる厚生労働省の「ホームレスの実態に関する全国調査」。名古屋市内は今年1月時点で77人(前年比1人減)だった。調査が始まった2003年は1788人だったことから、およそ20年で95%減少したことになる。
最多の86人だった03年から今年は2人にまで減った岐阜県と同様、実態を反映した数字とは言い難い。岐阜市は今年0人としているが、現に市内の道の駅には車上生活者が夜ごと集まる。名古屋市では毎日行われる炊き出しに多くの困窮者が列をなし、栄地区の高架下だけでも70人ほどが路上で暮らす。
本来の数を捉えるのが難しいのは、貧困の形が多様化しているからだ。高架下でテントを張って暮らす人は一部で、車上生活をしたり、ネットカフェで夜を明かしたりする人も多い。貧困の「見えづらさ」があるのは岐阜も名古屋も同じだった。
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名古屋市保護課の援護事業・保護施設担当の管野雄一課長(42)は「市の施策の対象は(調査結果の)77人だけではない。このままおのずと右肩下がりに減り続けるとも思っていない」と語る。
名古屋には、全国から生活困窮者を引き寄せる引力がある。生活保護の要否判定までを過ごす「一時保護所」、施設で生活相談や就労支援に尽くす「自立支援事業」など、手厚い支援の基盤がある。岐阜市にはない民間の「無料低額宿泊所」も市内だけで50件。計2千人以上もの人を受け入れることができる。
それでも、名古屋の路上には困窮者があふれている。要因の一つは、当事者の境遇が多様化し、複雑になっていることにある。高齢者、不安定な雇用にある人、そして知的障害や精神疾患から金銭管理ができなかったり、仕事が長続きしなかったりする人たち。長らく路上に暮らしていて「今のままでいい」と考えている人さえいる。管野課長は「いま路上に残っている人に、仕事を結び付ければそれだけで自立していくような人は少ないと捉えている」と言い、「実態調査で示した人数を本当の意味で減らしていくのは、非常に難しい課題です」と認める。
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「遅くなってごめんね」。路上生活者120人の特徴を記したリストを携え、高架下などで声をかける「野宿者を支援する会」(名古屋市)代表の東岡牧さん(60)は、この街には実態調査の2・5倍はホームレスがいると考えている。NPOや任意団体など、さまざまなグループの有志と協力して市内各所の拠点を定期的に訪ねて回っているが「すれ違っただけだとか、生活の痕跡を見ただけだとか、まだ直接話せていない人も多いんです」と明かす。当事者の境遇の多様化を実感しつつ、「みんなどこかで必ず助けたい。あらゆる社会問題を私たちが請け負うようにして、個々に関わっていくしかない」と使命感を語る。
確かに、名古屋市で炊き出しの列に並んでいたのはホームレスだけではなかった。生活保護を受けてアパートで暮らす人に加え、身なりの整った若者、壮年の男性や女性もおり、目算で半数ほどはこうした人たちだった。何に傷つき、何に苦しみながら列に並んでいるのか-。当事者の孤立によって貧困がより見えづらくなる中で、都会には支援の糸口を探して互いに手を取り合う人たちがいた。
=第4章おわり=
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