「韓国のファーブル」と呼ばれる昆虫学者石宙明(1908〜50年)が収集した昆虫標本が九州大で発見され昨年9月、韓国側に移管された。見つかったのは朝鮮半島や済州島で採集された35種129個体。石の標本はほとんどが朝鮮戦争で焼失するなどし、歴史的価値は高い。識者は「当時の自然環境を示す貴重な資料で、希少種の保全策の検討にも役立つ」と研究上の意義も強調する。
石は平壌生まれで日本の植民地下で育った。26年に鹿児島大農学部の前身に入学。リンゴの木に付く害虫を研究し、昆虫への興味を深めた。卒業後、朝鮮に戻って研究を続け、生涯で集めたチョウなどの昆虫標本は75万個体に上るとされる。
だが50年に朝鮮戦争が始まり、標本は失われた。石自身、何らかのトラブルに巻き込まれ、41歳の若さで亡くなった。
九大の広渡俊哉名誉教授(昆虫学)は「朝鮮戦争以前の現地の自然環境が推定できる。100年にわたる日韓の交流を継承し、共同研究をさらに進めたい」と話した。