ポイント
・ASMR の心地よさは、人間の意図的な行為で生じるもので、自然環境における体験とは異なる
・ASMR 動画は、副交感神経系の活性化において、自然環境映像よりも高い効果を示す
概要
中京大学大学院心理学研究科 博⼠後期課程の寳崎大悟と指導教員の近藤洋史教授は、江崎 貴裕 特任講師(東京大学)および Giulia Poerio 准教授(サセックス大学、イギリス)との共同研究で、自律感覚絶頂反応(ASMR)(*1)における知覚統合の重要性を指摘しました。さらに、 ASMR 動画は自然環境映像よりも副交感神経系を活性化させる効果があることを示しました。
ASMR とは、特定の映像を視聴することによって、頭⽪や⽿元、⾸筋に生じるゾクゾクするような⽪膚感覚を指します。一般に、ASMR 体験を通じて心地よさが得られますが、自然環境映像による心地よい体験との違いについては、これまで十分に検討されていませんでした。
本研究では、2つの実験を実施しました。大学生の男女計 66 名に実験への参加を依頼して、様々な ASMR 動画あるいは自然環境映像を視聴してもらいました。視聴中の参加者はゾクゾク感や心地よさの程度を継続的に報告しました。
その結果、視覚と聴覚の知覚統合が ASMR 体験において重要であることが示されました。さらに、主観的な心地よさは自然環境映像のほうが高かった一方で、ASMR 動画は副交感神経系をより強く活性化させることが明らかになりました。これらの成果は、ASMR が生じるメカニズムの解明と、その効果の科学的証明に資するものであり、ウェルビーイングへの貢献が期待されます。
本研究成果は、2025 年 5 月 8 日(木)オンライン公開の Neuroscience of Consciousness 誌に掲載されました。

ASMR 映像の例

自然映像の例
【背景】
2018 年の厚生労働省⽩書によると、日本の労働者の半数以上が心理的ストレスに苦しんでおり、
精神疾患の人々は過去 10 年で倍増していることが報告されています。そのため、ストレスを軽減するための身近で効果的な方法に対する社会的な関心が高まっています。本研究では、気分転換だけではなく、抑うつの低減や安眠の導入にも利用されている ASMR に着目しました。ASMR の背後にある心理学的・生理学的メカニズムを、2 つの実験を通じて探求しました。
【研究の手法と成果】
実験 1 では参加者を視聴覚条件と聴覚条件に分け、5 種類のビデオクリップによって惹起されるゾクゾク感の主観報告をそれぞれ比較しました。その結果、視聴覚条件でより強いゾクゾク感が誘発されることが示されました(図左)。
実験 2 では ASMR 動画と自然環境映像をそれぞれ 4 種類ずつ提示し、惹起される心地よさの主観報告を比較しました。また、指尖容積脈波(*2)を同時計測し、安静時と視聴中の脈拍数を比較しました。その結果、主観的な心地よさは自然環境映像のほうが高くなりました。一方で、ASMR 動画の条件で脈拍数の顕著な低下が確認されました(図中央および図右)。これは副交感神経の活性化、すなわちリラックス状態を示しています。



【今後への期待】
ASMR で生じるゾクゾク感は視聴覚情報から転移する⽪膚感覚です。この感覚の特性は、握手や抱擁、手当てといった他者との身体接触に由来する安心感とも重なるものです。そこで我々は、これを ASMRの「社会的⽑繕い仮説(*3)」として提案しました。
今後、ASMR で誘発される情動反応をより精緻に理解・操作することで、ストレスや不安の緩和といった応用可能性もさらに高まると期待されます。
【用語解説】
*1 自律感覚絶頂反応・・・英語の Autonomous Sensory Meridian Response (ASMR) の直訳。 ASMR 動画の種類は無数にあり、その好みは個人によってさまざまです。YouTube に投稿された動画の中には数千万回以上の再生回数を得ているものもあります。
*2 指尖容積脈波・・・指尖容積脈波は、指先などの⽪膚表面に⾚外線を照射することで脈拍数や
♛流量を記録する装置です。この技術はスマートウォッチなどでも使用されています。脈波を使うと、身体生理反応の変化を簡単にモニタリングすることが可能です。
*3 社会的⽑繕い (social grooming) 仮説・・・この仮説では、ASMR 動画を通じて、視聴者があたかも他者と触れ合っているかのような感覚を体験し、それによって心地よさが生じると説明されます。
論文情報
論文名 More relaxing than nature? The impact of ASMR content on psychological and
physiological measures of parasympathetic activity (自然よりもリラックスできる? ASMR コンテンツが副交感神経系の心理的・生理的指標に及ぼす影響)
著者名 寳崎大悟 1,江崎貴裕 2,Giulia Poerio3,近藤洋史 1
(1 中京大学,2 東京大学,3University of Sussex)
雑誌名 Neuroscience of Consciousness (Oxford University Press)
** 意識の科学に関する,英国の学術雑誌に掲載されました **
DOI https://doi.org/10.1093/nc/niaf012
公開日 2025 年 5 月 8 日(木)
お問い合わせ先
研究者 中京大学心理学部 教授 近藤洋史
TEL 052-835-7160(心理学部事務室) メール kondo@lets.chukyo-u.ac.jp
URL https://hk-lab.github.io/
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