株主総会シーズンに読みたい 人的資本経営のヒント
2025年6月18日
オープンワーク株式会社
OpenWork「働きがい研究所」調査レポートvol.134
経営に対し建設的な提言がある企業ランキング ― 株主総会シーズンに読みたい 人的資本経営のヒント ―
上場企業を対象とした人的資本情報の開示義務化から2年が経過しました。デロイト トーマツ グループが昨年発表した調査によると、東証株価指数(TOPIX)100の企業のうち人事施策と指標の関係性を有価証券報告書上で整理・開示した企業は45%に達し、前年の16%から大きく増加しました※。これは、人的資本をただ「開示」する段階から経営戦略と紐付けた説明や改善へと踏み込む企業が増えていることを示しています。
人的資本経営への注目が高まる今、どのような経営が支持され、対話の素地があるのかを見極めることは、経営改善やステークホルダーへの説明責任を果たす上でも、有効な手がかりとなるはずです。
そこで本レポートでは、OpenWorkの「経営者への提言」クチコミに着目しました。この項目では、人事制度や組織文化への具体的な改善提案や、経営方針への建設的な意見が社員・元社員から数多く寄せられています。こうした声は、単なる賞賛や不満とは異なり、「会社がより良くなり発展すること」を願う視点に立っており、企業の未来に対する社員の期待値を読み解く上で貴重なヒントとなります。
本ランキングでは、こうした提言を含む投稿の出現率を算出し「経営提言スコア」として指標化しました。これは経営者への賞賛や肯定的な評価量を示すものではなく、あくまで会社の未来に建設的な提言を行った社員の多さに着目したスコアです。建設的な提言が多く投稿されている企業から、その特徴やメッセージを分析していきます。
また、東証プライム企業を対象に、「経営者への提言」のクチコミ投稿で頻出した単語をワードクラウドで可視化。どういったキーワードを使って自社を評価しているのか、社員の声から紐解いていきます。
(※)デロイト トーマツ グループ社発表「TOPIX100企業の役員報酬の実態と人的資本の開示内容を分析」
【サマリ】
・経営に対し建設的な提言がある企業、1位三井物産、2位フリー、3位出光興産
・自社に対して愛着や帰属意識があるからこそ、より良くするための建設的な意見が社員から生まれる
※詳細は以下または「働きがい研究所」にてご確認ください。https://hatarakigai.openwork.jp/
自社への愛着や帰属意識があるからこそ、建設的な意見が生まれる
OpenWorkの「経営者への提言」欄に投稿されたクチコミを分析した本ランキング。三井物産、フリー、出光興産が上位に並びました。業種としては、総合商社、IT、建設、製薬、メーカー、アパレルと、偏りは見られず多様な企業がランクインしています。これらの企業に寄せられた投稿を見ると、経営陣に対する厳しい意見もありますが、それだけで終わらず、改善への具体的な提案や改革への期待も添えられている点が特徴的です。批判だけではなく、自社を良くして欲しいという思いに基づいた建設的な声が多く見られました。
社員が主体的に経営や組織への意見を投稿する背景には、企業への愛着や帰属意識、感謝の気持ちがあると推察できます。人的資本経営が重要視される今こそ、社員の声に真摯に耳を傾け納得できる人事制度や戦略に反映させていくことが、企業の競争力強化やステークホルダーからの信頼獲得に繋がると言えそうです。
OpenWork「経営者への提言」に投稿された、自社経営に対する建設的な意見
「人材が非常に重要な会社であるため、評価制度や優秀な人間を早く権限のあるポジションに置くことは重要だと考える。現在変革中の人事制度の中でそういった改革が今後施されることを希望する。(営業、三井物産)」
「目標達成してから社員への還元や、今後組織はどのように変わるかに関しても、ちゃんと従業員とコミュニケーションとっていければ、よりモチベーションが上がります。(ビジネス職、フリー)」
「事業は人を育成する手段として人材の育成こそが事業そのものであるという考え方のもと社員の士気は高いと思う。国内の事業が縮小均衡ななかでいかにして新たな事業を創出していくかがポイントだと思う。(事務職、出光興産)」
「とても良い経営をしている、社長はとても良い人。評価制度への不満は早めに何とかしないとやや心配。(WEB本部、クイック)」
「優秀な人材の確保が必要不可欠。新卒のベースアップは素晴らしい判断だと思うが、既存の社員の給与見直しをしなければある程度成長した社員の流出は止まらない。(プランナー、サイバーエージェント)」
「人には恵まれ楽しくお仕事が出来ました。地方配属であっても、年齢を重ねたときでも、今後の仕事のやり方を選択できる仕組みがもっとあれば、ベテラン勢が辞めていくことも少なくなるかと思います。(販売員、アダストリア)」
「経営者への提言」項目の頻出キーワードを比較分析
OpenWorkに投稿された「経営者への提言」に関するクチコミをもとに、頻出した単語を可視化すべくワードクラウドにしました。頻出した回数が多いほど、大きい文字で表現されます。東証プライム企業を対象に、OpenWorkの総合評価スコアの上位グループと下位グループのワードクラウドを作成し比較します。社員が経営陣に対して持つ“視点の違い”が浮かび上がってきました。
上位企業の社員は「未来」に意見する
上位企業では、「改革」「現場」「成長」「社内」といったキーワードが頻出しました。これらの単語は、経営や組織のあり方に対し、社員が自社の今後の発展を意識している表れといえます。特に「改革」「成長」といった未来志向の言葉は、変化の担い手としての自覚や期待を示しており、「現場」「社内」といった内省的な視点からも、組織改善への当事者意識がうかがえます。
下位企業では「経営との距離」と「諦め」が表出
一方、下位企業で多く登場したのは、「待遇」「給与」「給料」「意見」「離職」といった、個人の処遇や職場環境に関する直接的な訴えでした。「待遇」や「給料」は生活に直結する切実な声であり、「離職」や「意見」は、経営への不満や期待の低さが読み取れます。社員が経営に対して建設的に意見するというよりも、目の前の不満を訴えざるを得ないという状態が読み取れます。
また、両グループで共通して「投資」が登場しますが、これは東証スタンダード企業・東証グロース企業のワードクラウドでは登場しない単語でした。東証プライム企業の社員は、人的資本や働く環境への投資を企業の経営判断として求める視点があると言えます。
まとめ 〜 社員の声から始める人的資本経営 〜
経済産業省の定義によると、「人的資本経営」とは、人材を「資本」として捉え、その価値を最大限に引き出すことで中長期的な企業価値向上を目指す経営のあり方です。開示できる情報の羅列で終わらず、社員と向き合い能力を引き出すことが企業経営に一層求められています。
本レポートが示すように、OpenWorkには現状の課題だけでなく、経営への期待や未来を見据えた提言が数多く含まれています。こうした声に向き合い経営に活かすことでステークホルダーからの信頼にもつながるのではないでしょうか。
【対象データ】
・社員クチコミ「経営者への提言」とは
「この企業の経営者へ、この企業をより発展させるための提言をするならば、どのような事を伝えますか?」と問いかけ、自社の経営陣に対して建設的な意見を収集するクチコミ項目
・経営提言ランキング
OpenWork上の「経営者への提言」欄に投稿されたクチコミを分析し、自社のさらなる発展や変革を見据えた提言の出現割合を「経営提言スコア」としてOpenWork独自に数値化。2022年以降に投稿された、正社員による「経営者への提言」欄への回答が10件以上かつ集計時点で総合評価が3.5点以上の上場企業を対象に集計しランキング
・ワードクラウド
東証プライム企業を対象に、OpenWork上の総合評価スコアの上位グループ・下位グループを作成。「経営者への提言」の投稿で使用された、頻出度合いが高い単語を大きい文字で出力したもの
【OpenWork働きがい研究所について】
オープンワーク株式会社が、働きがいの向上のために、個人・企業・社会などの視点から働きがいについて調査・リサーチを行うためのプロジェクトです。2014年3月よりスタートしました。
【OpenWorkについて】
OpenWork(オープンワーク)では、実際に働いた経験に基づく「社員・元社員の声」を共有しています。企業の社員・元社員から情報を収集しているWEBサイトとしては、国内最大規模のクチコミ数と評価スコア約1,930万件が蓄積されており、会員数は約734万人(2025年5月時点)となっています。私たちは、企業の労働環境をよりオープンにしジョブマーケットの透明性を高めることで、健全な雇用環境の発展に貢献するとともに、企業と個人のより良いマッチングをサポートし、一人ひとりが自分らしく生きることを応援したいと考えています。https://www.openwork.jp/
【オープンワーク株式会社 会社概要】
商号 :オープンワーク株式会社
代表者:代表取締役社長 大澤 陽樹
所在地:東京都渋谷区渋谷2-24-12 渋谷スクランブルスクエア39階
事業内容:転職・就職のための情報プラットフォーム「OpenWork」の開発・運用業務を含むワーキングデータプラットフォーム事業
資本金: 1,649百万円
上場市場:東証グロース市場(証券コード5139)