陸上世界選手権の男子やり投げ予選で投てきする長沼元=17日、東京・国立競技場

 特別な思いを胸に、世界陸上のフィールドに初めて立ったやり投げの長沼元(27)は、東日本大震災で壊滅的な被害に遭った岩手県陸前高田市で生まれ育った。17日の予選は自己ベストに遠く及ばない74m70で突破できなかったが「すごく幸せ者だなと思う」と語った。

 被災したのは中学1年の時。高田高で始めた競技に打ち込んできた。「生きるのがやっとの状態だった。たくさんの方の支援で生きてこられたし、陸上に出合えた。一日一日を大事に生きようと思った」と当時を思い起こす。

 成長の原動力になったのは、米大リーグに活躍の舞台を移した同郷の佐々木朗希投手の姿。「勇気をもらった。今度は自分が勇気を与える側になろうと思った」。4月の大会で自己最高の80m58を出し、自国開催の世界大会にたどり着いた。

 4年前に左足首、2年前には右肘と相次ぐ手術を経験しても不屈の闘志で立ち上がった。決勝で戦う姿を故郷に届けることはかなわなかったが「諦めずにやれば夢がかなう。何回も心が折れそうな時はあったが、結果で体現していきたい」と先を見据えた。