〜多様な炎症パターンを踏まえた新たなモニタリング指標の可能性〜
2026年3月23日
慶應義塾大学医学部
シスメックス株式会社
慶應義塾大学医学部皮膚科学教室の野村彩乃助教、川崎洋専任講師、天谷雅行教授と理化学研究所生命医科学研究センターの古関明彦チームディレクター(免疫器官形成研究チーム)、シスメックス株式会社の長谷川武宏らの共同研究グループは、デュピルマブ治療中のアトピー性皮膚炎患者において、血中IL-22およびIL-18が治療期間を通じて疾患活動性を反映する可能性を明らかにしました。
血中CCL17(TARC)は、アトピー性皮膚炎の代表的な2型炎症関連バイオマーカーとして、治療前の重症度評価に有用であり、国内診療において広く活用されています。本研究では、アトピー性皮膚炎患者170名の血中サイトカインを解析し、そのうちデュピルマブ治療を受けた24名を6か月間縦断的に評価しました。その結果、CCL17は治療開始後に速やかに低下し、初期の治療反応を反映する一方で、治療経過中の疾患活動性との関連は限定的となる傾向が認められました。一方、IL-22およびIL-18は、デュピルマブによる治療中も一定の変動幅を保ち、治療期間を通じて皮膚症状の重症度を反映していました。
本研究成果は、アトピー性皮膚炎における病態の多様性を踏まえ、治療フェーズに応じたモニタリング指標の再整理に貢献するものです。将来的には、CCL17に加えてIL-22などの新たな指標を組み合わせることで、生物学的製剤治療下における、より精緻な疾患活動性評価の実現が期待されます。
本研究成果は、2026年2月18日(日本時間)に、国際誌Allergyオンライン版に掲載されました。
1. 研究の背景と概要
アトピー性皮膚炎は、主に2型炎症を中心としながらも、17型22型関連炎症など複数の免疫経路が関与する多様性の高い炎症性疾患です(注1)。当研究グループが報告した研究(Nature Communications, 2025年)をはじめとする研究により、アトピー性皮膚炎の皮膚では患者ごとに炎症経路の活性化パターンが異なることが示されてきました。本研究では、この知見に基づき、複数の炎症経路に着目してアトピー性皮膚炎患者の血液を解析しました。
血中CCL17(TARC)は、2型炎症を反映する代表的なバイオマーカー(注2)として広く用いられ、国内では保険診療にも組み込まれています。一方で、2型炎症を強力に抑制する生物学的製剤デュピルマブの登場により治療成績が向上するなか、治療中に残存する疾患活動性をどのようなバイオマーカーで評価するかについては、十分に整理されていませんでした。
本研究では、慶應義塾大学医学部皮膚科学教室、理化学研究所生命医科学研究センター(IMS)、シスメックス株式会社の共同研究グループが、アトピー性皮膚炎患者170名の血中サイトカイン(注3)を横断的に解析し、そのうちデュピルマブ治療を受けた24名を6か月間追跡する縦断研究を行いました。従来から用いられてきたCCL17に加え、IL-22およびIL-18を含む複数の炎症関連サイトカインと皮膚症状の重症度(Eczema Area and Severity Index : EASI)との関係を検討しました。
2. 研究の成果と意義・今後の展開
2.1 横断研究による患者重症度と血中サイトカインの相関解析(図1)
横断解析(170名)では、複数の血中サイトカインが重症度と関連しました。なかでもCCL17、IL-22およびIL-18は、重症度と相関を示し、生物学的製剤などの全身治療を受けていない患者において、血液で病勢を把握するバイオマーカーとなり得ることが示されました。
図1 アトピー性皮膚炎患者における血中サイトカインと重症度(EASI)の関連(横断解析)
アトピー性皮膚炎患者170名の、血中サイトカイン濃度(log10変換)と重症度(EASI)の関連。CCL17、IL-22、IL-18を含む複数のサイトカインが重症度と関連を示し、血液検査による病勢評価の可能性が示された。※Spearmanの順位相関係数(rS)を図中に示す。
2.2 デュピルマブ治療下での変化(図2、図3)
縦断解析(24名、6か月追跡)では、血中CCL17は治療開始後に速やかに低下し、その後は値が低い状態で推移しました。そのため、治療初期には重症度と相関がみられる一方で、治療継続中には重症度との関連が弱くなる傾向が示されました。
一方、IL-22およびIL-18は治療開始後に低下しつつも一定の変動幅を保ち、治療期間を通じて重症度と関連していました。これらの結果から、デュピルマブ治療下では、IL-22およびIL-18が治療中に残存する疾患活動性を捉える補完的バイオマーカーとなり得ることが示されました。
図2 デュピルマブ治療中における血中サイトカインと重症度(EASI)の関連(縦断解析)
デュピルマブ治療を受けたアトピー性皮膚炎患者24名について、治療前から6か月後までの各時点における血中IL-22、IL-18、CCL17と重症度(EASI)の関連。CCL17は治療期間前、および治療開始1か月は重症度と関連を示す一方、IL-22およびIL-18は治療期間を通じて関連が持続する傾向が認められた。※各時点におけるSpearmanの順位相関係数(rS)を図中に示す。
図3 デュピルマブ治療中の重症度(EASI)および血中バイオマーカーの推移
デュピルマブ治療開始後6か月間の重症度(EASI)および血中CCL17、IL-22、IL-18の推移。CCL17は治療開始後速やかに低下し、その後低値で推移する傾向を示した。一方、IL-22およびIL-18は低下後も一定の変動幅を保って推移した。
2.3 今後の期待
本研究は、外用治療下で広く用いられてきたCCL17の位置づけを踏まえつつ、デュピルマブ治療下ではIL-22およびIL-18が治療中の疾患活動性を捉える指標となり得ることを示しました。これらの知見は、アトピー性皮膚炎の免疫学的多様性を背景に、生物学的製剤治療中の疾患動態をより客観的に評価するための新たな視点を提供するものです。今後のさらなる検証により、複数の炎症経路を反映する血中指標を活用した評価体系の構築につながることが期待されます。
3. 特記事項
本研究は、国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)免疫アレルギー疾患実用化研究事業「皮膚微生物叢と宿主の双方向理解に基づくアトピー性皮膚炎の新規治療の創出」、同事業「抗炎症作用を有する皮膚細菌群によるアトピー性皮膚炎の新規治療の開発」、同事業「アトピー性皮膚炎の個別化医療・予測医療実現に向けた、皮膚トランスクリプトーム解析研究」、同事業「臨床・オミクス情報の統合解析による、アトピー性皮膚炎とそれに併発する他臓器アレルギー疾患の病態解明」、同事業「アレルギー病態の多様性の解明と持続可能なデータ駆動型精密医療の実現を目指した、アトピー性皮膚炎を対象とする異分野融合研究」、国立研究開発法人科学技術振興機構(JST)によるイノベーション・ハブの創出支援プログラム(JPMJIH1504)、JSPS 科研費 JP21K08338, JP22K08391、ならびにマルホ高木皮膚科学振興財団の支援を受けて実施されました。
4. 論文
英文タイトル:Interleukin-22 and interleukin-18 as potential blood biomarkers in dupilumab-treated atopic dermatitis
タイトル和訳:デュピルマブ治療中のアトピー性皮膚炎における血中IL-22およびIL-18のバイオマーカーとしての可能性
著者名:野村(福島)彩乃¹*、川崎 洋¹ ² ³*、長谷川 武宏 ⁴ ⁵、柳澤 絵里加¹、種瀬 啓士¹、柳田のぞみ¹、小幡 祥子¹、八代 聖¹、伊東可寛¹、古関 明彦 ² 、天谷 雅行 ¹ ³
1. 慶應義塾大学医学部 皮膚科学教室
2. 理化学研究所 生命医科学研究センター(IMS) 免疫器官形成研究チーム
3. 理化学研究所 生命医科学研究センター(IMS) 皮膚恒常性研究チーム
4. シスメックス株式会社 中央研究所
5. Sysmex R&D Centre Europe GmbH, Research and Development Division
*: 筆頭著者
掲載誌:Allergyオンライン版
DOI:https://doi.org/10.1111/all.70248
【用語解説】
(注1)2型炎症、17型炎症、1型炎症:免疫応答にはさまざまなタイプがあり、アトピー性皮膚炎患者では、アレルギーに関わる2型炎症が主な特徴とされている。近年の研究では、一部の患者の皮膚で17型炎症(細菌や真菌に対する応答)や1型炎症(ウイルスに対する応答)に関わる経路も異常に活性化していることが報告されている。
(注2)バイオマーカー:病気の有無や進行の程度や、治療への反応などを評価するために使われる「生体の指標」。血液や尿、組織などに含まれるタンパク質や遺伝子の発現などが対象となる。
(注3)サイトカイン:免疫細胞、上皮細胞、内皮細胞、線維芽細胞などが誘導的に産生する小型のシグナル伝達タンパク質群。さまざまな炎症応答の活性化や抑制に関わり、病原体への防御やアレルギーなどの炎症性疾患の病態形成に関与する。
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