笠松ラボシリーズ競走「大きい馬対小さい馬」でパドックを周回する最軽量366キロで勝った3番と最重量556キロの9番

 「大きい馬対小さい馬」ガチンコ勝負で、勝ったのは巨漢馬たちを差し切った366キロの最軽量馬だった。大相撲でも小兵力士が巨漢力士を倒せば、お客さんも沸くが、競馬の世界でもそんな一戦で盛り上がった。

 500キロ以上の馬と400キロ未満の馬計10頭が笠松競馬場で対決。最重量馬は566キロで、最大体重差は190キロもあったが、小さな牝馬が1着でゴールを駆け抜け圧勝した。いつもは「男女混合、無差別級」で戦うアスリートの競走馬たちだが、人気の芦毛・白毛馬限定の「ウマ娘シンデレラグレイ賞」のようなユニークな企画レースが実施された。

 「笠松ラボシリーズ競走」としてシルバーウイークのランチタイム(22、23日12時台)に行われたユニークな四つの企画レース。「こんな馬たちだけで走ったら、どんな結果になるんだろう?」と実際のレースで確かめ、競走馬の新たな可能性や笠松競馬の新たな魅力を引き出すシリーズ。馬体重、馬齢、脚質、毛色をテーマにC級、B級のレースで出走馬が選ばれ(専門紙記者選抜)、いずれも1400メートルで熱戦を繰り広げた。中央、地方競馬を通じて初めてとみられる「大きい馬対小さい馬」のほか「追い込み馬限定」の一戦もあり、慣れないハナ切りで早々とバッタバタになるなど予想外の展開となった。

パドックから返し馬に向かう最軽量馬のスザンナと東川慎騎手

 ■「大きい馬対小さい馬」レース実況で馬体重も連呼

 笠松ラボシリーズ第1戦の「大きい馬対小さい馬」(C級選抜)。300キロ台の馬が5頭、500キロ台の馬も5頭がゲートイン。競走馬の平均体重は450キロ?500キロ程度だが、最も多い400キロ台の馬は出走できず。この日の笠松では全馬400キロ台というレースが2回あったが、ラボ競走では大型馬のパワーか、小型馬の軽快さかを競う一戦となった。

 勝ち馬は4番人気、366キロのスザンナ(牝4歳、栗本陽一厩舎)=東川慎騎手=で、10頭のうち最軽量の1頭。535キロのプロペラシャフトが逃げ、5番手から追う展開。3~4コーナーでは518キロのヤマミウルフ=高木健騎手=が先頭を奪ったが、ラスト200メートルを切ってスザンナが猛追。身軽さを生かして外から一気に突き抜けた。実況アナも全馬の体重を紹介しながらで熱のこもったレース。「366キロのスザンナ快勝、ゴールイン。小よく大を制す」と、普段とは違った視点で激戦を伝えた。

 場内で買った専門紙「競馬エース」の参考データ(笠松競馬・2025年1月以降)によると、500キロ以上の馬が300勝で勝率15.3%。数が少ない400キロ未満の馬は43勝で勝率5.4%。大型馬の方が勝率は高い傾向にあるようだが、この日は小さい馬が勝った。

「大きい馬対小さい馬」レース。巨漢馬らを引き離し先頭でゴールする最軽量スザンナと東川慎騎手

 ■2着518キロ馬、3着373キロ馬。対抗戦なら小さい馬チーム勝利

 2着は4馬身差でヤマミウルフ、3着には2番人気で373キロのアースリーブラ=丸野勝虎騎手=が入った。1番人気で556キロ(+15)のトリクシー=大原浩司騎手=はラスト3F最速で追い込んだが、4着が精いっぱい。もう一頭の最軽量馬で366キロのペティトールは10着に終わった。

 レース結果は300キロ台の軽量馬が1、3、6、8、10着。500キロ以上の大型馬が2、4、5、7、9着となった。もしジョッキーによるチーム対抗戦のようにポイント(1着30P、2着20P~)で競えば「56P-47P」で小さい馬チームが勝利。秋晴れに恵まれて良馬場で行われたレースは、競馬エースの推定勝ち時計通りの1分32秒5で決着した。

鮮やかな差し切り勝ちを決め、歓喜に浸る東川騎手

 ■東川騎手「運が良かった。面白い、最高です」

 最軽量馬で鮮やかな差し切り勝ちを決めた東川騎手。「運が良かった。上のクラスの馬でメンバーに恵まれただけです。調教からずっと乗っている馬でプラス体重でしたし、体調が良かった」。小さい馬が大きい馬に勝ったことについては「面白い、最高です。ハイッ」とにっこり。歓喜に浸る決めポーズも披露してくれた。

 500キロ超の馬で2着の高木騎手は「(治療明けをひとたたきした馬で)返し馬から怖かったが、まともなら多分勝っていた」。軽量馬に負けたが、重量馬組では最先着を果たした。

 軽い馬で3着だった丸野騎手は「たいして差はないですよ。元々がクラス分けされていて、全部C級の馬でやっているんで」。大きい馬と小さい馬でも体格差は「関係ないですよ」とベテランらしい言葉だったが、楽しいレースでにこやかに答えていただけた。

 400キロ台の馬がいないという珍しいレース。366キロの最軽量馬が豪快に差し切り。やや軽い馬場を味方に、今回は小さい馬に軍配が上がった。

 通常の半分近い小さな体で生まれ「まめちゃん」の愛称もある3歳牝馬スティルアイライズは「笠松アイドルホース女王」にも選ばれた(オグリの里ファン投票)。前走436キロにまで体重を増やして成長途上。ここ2戦は800メートル戦にチャレンジ。順調にレースで使われており「ラチ沿いの天使」として、いつもファンの熱い視線を浴びている。

「笠松マスターズ」に挑んだ7歳ニホンピロペリーと松本一心騎手騎手

 ■笠松マスターズは7歳馬が上位独占、9歳馬4着

 ラボシリーズ第2戦は「笠松マスターズ」。前日の敬老の日にちなんで、馬齢7歳以上の馬を対象にした経験と底力の戦い。7歳馬が5頭と多く8、9、10、11歳は1頭ずつ。計9頭が参戦した。

 7歳のハッピーノリクン=塚本征吾騎手=が逃げて、7歳ニホンピロペリー=松本一心騎手=が後方から追い上げる展開。最後の直線で先頭を奪ったニホンピロペリーが5馬身差で押し切り、単勝1.3倍の1番人気に応え完勝。2着にテーオーライフ=森島貴之騎手=、3着にハッピーノリクン。最大勢力の7歳馬が上位を独占した。

 ■松本一心騎手「上の方で走っていた馬で理想通りの展開」

 7歳馬で勝った松本一心騎手は「元々、上の方で走っていた馬でしたしクラス的なものじゃないですか。調教から特に変わりなく。理想通りの展開でした」と実績上位馬を勝利に導いた。

松本一心騎手騎乗のニホンピロペリーが5馬身差で笠松マスターズを制した

 高齢馬では9歳キセキタイム=丸山真一騎手=が4着に粘り込み健闘。11歳トーセンパッソは8着、10歳ルクリリは9着に終わった。リコネクトで6着の深沢騎手は3年前、金沢準重賞の第1回「敬馬賞」を制覇したことがあった。9歳以上の高齢馬が対象で、10歳牡馬ツクバキセキ(大橋敬永厩舎)に騎乗し、鮮やかな差し切り勝ちを決めた。今年も実施され、10歳馬ホワイトヘッド=青柳正義騎手=が勝った。

 笠松ラボシリーズ競走初日には畜産フェアも開かれ、畜産物プレゼントや誘導馬マカロンふれあい写真撮影会もあって入場者は3661人とにぎわったが、馬券販売は約1億6180万円にとどまった。台風の影響によるJRAの代替開催(中山)や白山大賞典(金沢、ダートグレード競走)もあり、ネット販売で大きな影響を受けた

 それでもラボシリーズはランチタイムに楽しんでもらえるアイデアレースとして企画され、これまでにないユニークで実験的なレースで「面白そうだ」とファンの注目を集めた。

 地方競馬では名古屋のモーニングフィーバー、金シャチ最終戦777(3連単払戻率77.7%)や最終レースに近走不振馬を集めて実施する一発逆転ファイナル(高知)、C級サバイバル(笠松)などが高配当も見込めて好評だ。

「追い込み馬限定戦」の1周目は3頭が先行。ハナを切った馬は3コーナーで失速した

 ■追い込み馬限定戦、3頭が慣れない先行集団を形成

 ラボシリーズ競走第3戦は「追い込み馬集めてみた」と題して実施。前走4コーナー5番手以下だった馬ばかり9頭が参戦。「全馬が最後に追い込んだら、どんなレースになるんだろう?」と実施され、騎乗したジョッキーたちにも好評だった。

 競馬エースの参考データ(25年1月以降)によると、逃げが541勝で勝率26.9%、先行が560勝で勝率15.9%、差しが506勝で勝率8.7%。追い込みは108勝で勝率3.3%と先行馬有利な笠松では厳しい戦いだが、後方から大外一気の差し脚が決まれば、応援するファンも痛快でスカッとする。中央ではデュランダルをはじめ、ディープインパクトやミスターシービーなどの名馬が強烈な差し脚でファンを魅了した。

 笠松で繰り広げられた日本の競馬界で初めてとみられる「追い込み馬限定」の一戦。果たして展開はどうなるのか。4コーナー奥からのスタートで最初の直線は338メートルあり、意外と長い。

追い込み馬限定戦は細川智史騎手&スマートジュディが押し切り1着。筒井勇介騎手、望月洵輝騎手の騎乗馬が2着、3着で続いた

 大原浩司、細川智史、深沢杏花騎手が騎乗した3頭が先行集団を形成。このうち、慣れないハナ切りで逃げた大原騎手のロバストウォリアーは3コーナーでいっぱいになって大バテ失速。3~4コーナーで細川騎手のスマートジュディと深沢騎手のキセキノクニが競り合う展開となった。

 ■細川騎手が2番手から勝利、望月騎手は最後方から3着

 最後の直線では、2番手から先頭を奪ったスマートジュディが押し切り、2馬身差の勝利。第2集団から追撃したリアルカイザー=筒井勇介騎手=が2着。離れた最後方から強烈な差し脚で追い上げたネバーランドリーム=望月洵輝騎手=が3着に突っ込んで追い込み馬らしい見せ場をつくった。キセキノクニは残り100から伸び切れずに4着に終わった。

 勝った細川騎手。地元では「名古屋競馬盛り上げ隊長」としてもカニダンスなどで芸達者ぶりを披露。追い込み馬レースを制した口取り写真の撮影でも歓喜の表情。「何かもうワンポーズを」とリクエストしてみたが「いや、ないない」と。名古屋での面白いパフォーマンスを笠松でもと期待してしまったが。重賞Ⅴなどでいつかきっと。

追い込み馬でも積極的な先行策で勝利を飾り、喜びに浸る細川騎手

 ■細川騎手「出たというか、周りが遅かった」

 追い込み馬が先行すれば「最後の直線ではバテ込むかも」と前に行った3頭はリスクも背負った一戦。ハナを切った馬が3コーナーで圏外に去り、2、3番手につけていた細川騎手と深沢騎手も「いつ失速するか」、お互いやばいと感じていた。

 細川騎手は「超危なかった。(スタートは)出たというか、周りが遅かったから。作戦は何もなかったです。2番手から行って十分積極的だったかな。普通だったら前に行けないが、先行馬がいなくて行けた。手応え良く先行できたから脚が残っていた」と2馬身差の勝利を喜んだ。

初日10R・畜産フェア特別を制し、表彰を受けた深沢騎手

 ■深沢騎手「後ろからも来るし、前の馬も怪しくて」

 3~4コーナーでは2頭で併せ馬のようになった深沢騎手は「前に出ておきたかった。でも止まっていたかな」。追い込み馬ばかりのレースで「なんか分からなくて。後ろからも来るし、前の馬も怪しくて一応プレッシャーを掛けたけど、私の馬の方が先に止まったから『あーあ』と思いながらで」と残念なレースとなったが、騎手も十分楽しめたレースになった。

 前走最後方から5着だった馬でハナを切った大原騎手の作戦は「いやまあ出たんで。普段は後ろから行っているんで、前に行ったらどうかなあと思っていただけで。最後はバッタバタでした」と苦笑い。

 ■2着の筒井騎手「前に行った馬が勝ち、いつも通りのレース」

 筒井騎手は2着。「先行する馬もいましたが、特に変わらなかったですね。勝ち馬は前に行ったから勝ったような感じで、いつも通りのレースでした。3番手の後ろからでしたが、いい位置を取れたかなあと」

 4、5番手からの好位で追い込めたのか。「まあボチボチでしたね。つけた位置からちょっと伸びたかなあと。(3枠で)もうちょっと外枠だったらいい感じでした。(追い込み馬は)能力的に後ろから行っているだけという馬も多いが、(前に行って)砂をかぶりたくない馬にはいいかも」

 追い込み馬限定でも、全馬が最後の直線勝負というわけではなくハナを切る馬は必ずいる。レース展開が読めない難解なレース。4、3、2番人気での決着で3連単は3万5950円となった。

「黒鹿毛対栗毛」レースで、パドックから返し馬に向かう深沢騎手と塚本征吾騎手

 ■「黒鹿毛対栗毛」は塚本騎手の栗毛馬が差し切り

 第4戦は「黒鹿毛対栗毛」で毛色対決。「黒い稲妻か、それとも黄金の輝きか。勝つのはどっちの色だ」と実施された。競馬エースの参考データ(25年以降)では、黒鹿毛が354勝で勝率12.3%。栗毛は421勝で勝率12.2%。また鹿毛が735勝で勝率11.6%、青鹿毛が106勝で勝率9.4%、芦毛は88勝で勝率11.7%。黒鹿毛と栗毛の能力に差はない。

 7枠の2頭が逃げたが、深沢騎手騎乗で1番人気の黒鹿毛サルーポルティが3コーナーで先頭を奪った。追ってきたのは塚本征吾騎手騎乗の栗毛馬ペップトーク。2頭のマッチレースとなり、ここでも黒鹿毛と栗毛のガチンコ勝負。2頭が並んで4コーナーを回ったが、最後は激しいたたき合いとなってクビ差で栗毛馬ペップトークが先着した。

 ■塚本騎手「かわせると思った」深沢騎手「ゴリゴリ来た」

 追い比べを制した塚本騎手は「最後かわせると思いました。余裕はなかったですが」。名古屋リーディングトップを走り、全国リーディングでも2位。まだ22歳で若いエネルギーを爆発させて名古屋、笠松でフル回転。今年の騎乗数は1300回を超えて地方騎手で断トツ。渡辺竜也騎手と共に「V字の勝負服」で勝利を量産している。

ゴール前は大接戦。栗毛馬に騎乗した塚本騎手が1着、黒鹿毛馬に騎乗した深沢騎手が2着

 鹿毛馬で2着と惜しくも勝利を逃した深沢騎手。あと一歩、踏ん張り切れなった。「ためてもスッと動く馬じゃなくて、もうちょっとセーフティーリードがあれば良かったです。4コーナーの時点で、ペップトークが横にいたから、ちょっと厳しいかなと。相手が私の馬だけでゴリゴリ来るだろうなと思っていたらやっぱり。動きだしたらスーッと来る馬なんで、まあしょうがないですね」。1番人気で勝ってほしかったが、惜しいレースとなった。

 黒鹿毛、栗毛馬対決については「いつも通りのレース。黒鹿毛はいっぱいいるが、強いわけでもないし。栗毛だけにした方がきれいですよね」「芦
毛をそろえた方がいい」とジョッキーたち。栗毛馬や芦毛・白毛馬限定レースはウマ娘シンデレラグレイ賞がある4月末にやっている。

 ■追い込み馬レース「ワンチャンあり、私らも楽しい」

 追い込み馬レースについて。最後伸び切れずに4着だった深沢騎手は「それは面白いなと思いましたよ。普段は前に行けない馬が、前に行けたりするんで。こういうレースだったら、私らも楽しいので。ワンチャンあるじゃないですか」。先行争いは激しくなったのか。「そうでもないです。意外と落ち着きましたよ。前も遅いので」と。やはり先行馬ではないのでスローペースになったようだ。

 「逃げ、先行、差し、追い込み」といった脚質は、その馬の気性や能力、過去のレース傾向、騎手の作戦によって臨機応変に変わるもの。これまでも追い込みと思っていた馬が突如逃げたりするのが笠松競馬。今回のレースを機に脚質転換を図る馬がいるかも。

 「笠松ラボシリーズ競走」はスタンドやラチ沿いで声援を送ったファンたちも興味深そうだった。追い込み馬だけのレースは他のジョッキーも「面白いなあ」と同じ意見だったし「大きい馬対小さい馬」も笠松ならではのレースとして定着させて「第2回」を実施する価値はありそうだ。


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