動画授業で佐藤一斎の言葉を紹介した遠山直美教諭。生徒たちに「前向きに過ごそう!」とエールを送った=恵那市笠置町河合、恵那北中学校
授業方法も互いにチェックしながら先生たちで撮影した動画授業=同

◆ケーブルテレビで授業を放送/ネット朝の会やプリント配布

 新型コロナウイルスの拡大を防ぐため休校が続いた県内の小中高校、特別支援学校は、1日に再開した。約3カ月もの臨時休校。この間、全国で感染者は増加し、国の緊急事態宣言の対象が全都道府県に拡大、休校は延長、再延長を重ねた。前例のない事態に、「子どもたちの学びを止めてはならない」「今できる最善策を」と先生たちの模索は続いた。恵那市立恵那北中学校(篠原徹校長)の取り組みを振り返りつつ、コロナ禍に向き合い続ける教師や子どもたちの姿、教育現場の課題を探った。

 「3月2日から春休みに入るまで臨時休校するように」。政府が全国一斉に要請したのは2月27日夕刻だった。「地域や学校の実情を踏まえ、さまざまな工夫があってもいい」との通達で、対応は各自治体、学校に委ねられた形だった。木曜日の要請で翌週月曜日から休みに-。自治体、学校は猶予なき決断、対応を迫られた。まさに卒業式の時期でもあった。

 要請翌日の28日、恵那北中では生徒たちが動揺した面持ちで登校した。「卒業式は? 入試は?」と不安げな3年生。朝一番に開いた全校集会で樋田東洋(あずみ)校長(当時)は「こうしたときこそ落ち着いて今やるべきことを考えよう」と呼び掛けた。

 「中学校生活最後の日になるかもしれない」。3年生は、机やイスに貼っていた名前のシールや教室の掲示物などを剝がした。卒業までの6日間が1日に凝縮され、仲間と過ごす時を惜しんだ。県内の各学校でも在校生や来賓の出席を見合わせ、保護者は各家庭1人、合唱を控える―など縮小や延期で例年とは異なる卒業式になった。

 全国一斉の休校は当初、春休みも含め約1カ月間とみられたが、感染者が増加し、新年度スタート(入学、進級)にも影響を与えた。春休み明けに登校再開を目指したものの、4月19日まで再度の休校となり、始業式や入学式を行えない小中学校もあった。県独自の非常事態宣言の発令、新型コロナウイルス特別措置法に基づく緊急事態宣言の全国拡大に伴い、岐阜は特定警戒都道府県にも位置付けられ、休校は5月6日まで延長、さらに5月末まで再延長された。

 「学びを止めてはならない」と多くの学校が学習プリントを準備し、家庭での学習をサポートした。教科書だけで学習を進めることが大変なことは推測できた。そのため学習内容の授業をケーブルテレビで放送した自治体も多かった。恵那市では4月の早い段階で、教諭らが学校の枠を超えて自ら授業を公開した。

 恵那北中教務主任の遠山直美教諭もその一人。同市の先人で江戸時代・岩村藩出身の儒学者佐藤一斎(いっさい)の「言志四録(げんししろく)」から三学の精神「少(しょう)にして学べば、則(すなわ)ち壮(そう)にして為(な)す有り―」(人生に無駄なことは一つもない)を紹介し、「置かれた状況で自分の学びに目を向ける前向きな気持ちで生活してほしい」と訴えた。さらに学校ホームページに「職員室から」のコーナーを設け、4月下旬からは動画授業もスタート。5月の大型連休明けからは、恵那市が全児童生徒を対象に公式動画授業を配信。恵那北中ではビデオ会議アプリ「Zoom(ズーム)」で朝の会も始めた。

 「休校が長引き、最も心配された生活リズムの乱れを整える手助けにしたい」とスタートしたネットでの朝の会。「先生や友達の顔も見ることができ、うれしかった」と生徒たち。困りごとや質問は、個別でも話せた。オンライン朝の会への出席が確認できなかった生徒とは担任教諭が電話で交流した。

 文部科学省は2023年度までに小中学校の全児童生徒に1人1台の情報端末を配備する「GIGA(ギガ)(Global and Innovation Gateway for All)スクール構想」を進めていた。しかしコロナ禍で臨時休校が長引き、端末配備は本年度内の完了へ大幅な前倒しを目指すことになった。各自治体は本年度一般会計補正予算案に「GIGAスクール構想」に基づく整備費を盛り込むなどした。これまで地域や学校で取り組みに差があったICT環境の整備だが、コロナ禍で急速に進むことになった。

 恵那市は臨時休校中、学校所有のタブレット端末を希望する児童生徒に貸与。生徒92人の恵那北中では3台を貸し出した。しかしWi―Fiの整備などが課題として残っている。ネットでの動画授業や朝の会は、家庭での対応もあり、保護者の協力なしにはできない。突然の休校で教師や子ども、保護者まで全てが、戸惑いの日々を過ごす当事者になった。

 動画授業にも挑んだ遠山教諭は、この3カ月を「今までやったこともない方法を教師自身も学び、戸惑いつつも、できることはとにかく行ってきた」と振り返る。「4月からは職員の異動に伴い、新たなメンバーで取り組んでいるが、教師一人一人がそれぞれの立場や役割でできることを提案、議論しながら、学校、学びとはどうあるべきか探り続けている。学校、家庭、地域まで教育現場に関わる全ての人々のチーム力は、今後さらに必要になってくるだろう」