産婦人科医 今井篤志氏

 子宮に発生する悪性腫瘍として、子宮頸(けい)がんや子宮体がんがよく知られています。「がん」は子宮の表面である表皮や粘膜から発生しますが、子宮壁の中の筋肉や粘膜の下の組織(間質)が悪性化したものを「肉腫」といいます。子宮肉腫は子宮に発生する悪性腫瘍の約3~7%を占めるまれな疾患ですが、悪性度は非常に高く、治療後の経過や見通しは子宮頸がんや子宮体がんより不良な疾患です。本日はこの子宮肉腫を考えてみましょう。

 子宮肉腫の初期段階では症状はありません。子宮の筋肉から発生するタイプの肉腫では、良性腫瘍の子宮筋腫とよく似た症状を示します(2015年1月19日付「子宮筋腫」参照)。下腹部の違和感や腹部膨満感です。このタイプを平滑筋肉腫と呼びます。子宮内腔(くう)の粘膜間質から発生する場合は内腔に突出しますので、不正出血を来すことがあります。このタイプは内膜間質肉腫と呼びます。

 どちらのタイプも40代以降の中年~高齢女性の発症例がほとんどで、40歳前はまれです。この二つで子宮肉腫の85%を占め、残り15%は腺肉腫や横紋筋肉腫などの特殊な組織型です。

 子宮肉腫は子宮内の腫瘤(りゅう)を形成しますので=画像=、子宮筋腫との区別が問題となります。子宮筋腫は良性の疾患で30歳以上の20~30%、小さな筋腫を含めると70%の女性が持つといわれています。20代の女性にも見られることがあります。子宮筋腫の半数以上が無症状で経過し、健康診断や他の病気の診察時に偶然見つかる場合もあります。つまり、子宮筋腫があることに気付かないまま過ごしている女性が多いのです。筋腫がある程度大きくなると、血液供給が追いつかなくなり変性することがあります。変性は内部が粘液腫様や脂肪様に変化したり壊死(えし)や石灰化が生じたりして、筋腫全体が不整になる現象です。ただし子宮筋腫はあくまで良性で、肉腫に変わることはありません。

 超音波検査やMRIなどの画像検査で肉腫の疑いが指摘されることがあります。これは、子宮筋腫の変性と子宮肉腫との区別が難しいからです。子宮筋腫として経過を追っていた腫瘤が急速に大きくなったり、閉経後も増大が続いたりする場合には要注意です。手術前に子宮肉腫と診断されることは少なく、子宮筋腫として手術を行った後に病理検査で偶然肉腫と診断されることが多々あります。

 子宮肉腫は血行性に全身に転移する傾向にあり、肺に転移することが最も多いのですが、リンパ節転移はまれです。転移による症状が受診の契機になって子宮肉腫が見つかる場合もあります。

 近年、悪性腫瘍に対する薬物療法の開発には目覚ましいものがありますが、子宮肉腫に限っては現在のところこれらの治療薬の効果は限定的です。逆に1975年に日本で発売となったアドリアマイシン(ドキソルビシン)という古い抗がん剤が見直され第一選択薬となっているほどです。

 子宮肉腫はたとえ初期に治療を開始しても予後は不良です。現在のところ有効な抗がん剤も確立されていません。定期的な婦人科健診を受けながら、少しでも疑いのある場合には手術的に摘出するのが基本です。

(松波総合病院腫瘍内分泌センター長・羽島郡笠松町田代)